地域に残る伝統の茶葉から和紅茶を製造 新産業創出で東北を活性化

有限会社ファーム・ソレイユ東北(お茶のあさひ園)

【宮城県石巻市】

地域に残る伝統の茶葉から和紅茶を製造
新産業創出で東北を活性化

企業情報

  • 企業名 有限会社ファーム・ソレイユ東北(お茶のあさひ園)
  • ヨミガナ ユウゲンガイシャファーム・ソレイユトウホク(オチャノアサヒエン)
  • 業種 食料品製造業/飲食料品小売業
  • 代表者 日野雅晴氏[代表取締役]
  • 所在地 宮城県石巻市旭町10-8
  • TEL 0225-22-2887(お茶のあさひ園)
  • WEB https://ocha-asahien.co.jp/
  • 創業年 1972年
  • 資本金 300万円
  • 従業員数 4人
  • 売上高 非公開

企業概要

1972年、石巻市で日本茶専門店として創業し、2003年に法人化。2017年に東北初の国産紅茶の販売を開始し、2019年開催のG20大阪サミット、2023年開催のG7広島サミットで提供されるなど、全国的にも高い評価を得ている。

若者が夢中になる新産業を目指し東北初の和紅茶製造に挑む

1972年に宮城県石巻市で創業した、日本茶専門店「お茶のあさひ園」。2代目の代表取締役・日野雅晴氏は「東北のうまいものを全国に広めたい」と飲料・食品全般を扱う卸業へ事業を拡大し、2003年に有限会社ファーム・ソレイユ東北として法人化。2010年には過去最高の売り上げを記録し、事業もこれからという矢先に、東日本大震災が発生する。

日野氏の自宅と店舗は津波で全壊。連絡手段もライフラインも止まり、数日は食料も届かなかった。仮設住宅に移った後も苦しい状況は続いていたが、2012年に親戚の土地を借りてプレハブを設置し、配達のみ再開。

すると「『がんばったらいいっちゃ』って地元の方が声をかけてくれたり、プレハブまで足を運んでくれたりしたんです。お客さんがいる限りはやれると思いましたね」と日野氏は当時を振り返る。そうした周囲の声に背中を押され、2014年3月に新社屋新店舗にて営業を再開した。

プレハブでの仮営業を経て、2014年に新店舗にて営業を再開 プレハブでの仮営業を経て、2014年に新店舗にて営業を再開

しかし既存の顧客も被災しており、事業の先行きは不安な状況。新たな販路の開拓のため、新商品の開発は急務だった。新商品が成功すれば、自社だけではなく地元の復興にもつながる。日野氏は、これまでの事業で築き上げた人脈を駆使し、情報収集に力を注いだ。そこには、大学進学のために被災地からためらいながらも上京した次女の日野朱夏(あやか)氏のためにも、「若者たちが夢中になれる新たな産業を生み出したい」という思いがあったという。

その思いは全国の同業者を動かし、日野氏の元にさまざまな情報が届く。その中に「国産の紅茶が注目されている」という話があった。石巻市桃生(ものう)町には、伊達政宗が栽培を推奨していたといわれ、長年煎茶として親しまれてきた「桃生茶」がある。そこで、「地域に受け継がれた茶葉で和紅茶を作ってはどうか」とひらめいた。

桃生茶の茶畑 桃生茶の茶畑

当時、東北では和紅茶は作られておらず、日野氏も紅茶の知識はなかったが、縁あって静岡県「丸子紅茶」の生産者で、国産紅茶の第一人者といわれる村松二六氏に出会う。桃生町「鹿島茶園」を訪れた村松氏は、桃生茶の茶葉を見て「紅茶に向く」と太鼓判を押してくれた。この言葉に勇気付けられ、2014年10月、和紅茶の開発をスタートした。

地域で一緒に良いものをつくりみんなを笑顔にする事業を

桃生茶での紅茶製造の大きな課題となったのは、茶葉の輸送方法だった。石巻市周辺に工場がないため、静岡県にある村松氏の工場で製造することとなったが、桃生茶は発酵が早く、摘んでから12時間以内に運ばなくてはならない。宅配便を試したが、到着時には発酵が進んでおり実用に耐えなかった。

試行錯誤を繰り返し、たどり着いたのは自分たちでの輸送。専⽤の⾞を購⼊して温度管理を徹底し、片道約9時間をかけて輸送した。

「夜中でも村松さんご夫婦が到着を待っていて、使えない茶葉を1枚1枚丁寧に抜いてくれて、発酵する前に紅茶にする作業を進めてくれた。本当にありがたかったですね」と日野氏。

温かな支援もあり、開発開始から約2年後の2017年2月、ついに東北初となる国産和紅茶「kitaha(キタハ)」が完成する。父の思いに共鳴した朱夏氏が、東京での大学・社会人生活を経て帰郷してから2カ月後のことだった。

和紅茶「kitaha」。えぐみが少なくすっきり甘い、優しい味わい 和紅茶「kitaha」。えぐみが少なくすっきり甘い、優しい味わい

2017年6月に「kitaha」の販売をスタート。その上品な味わいは評判を呼び、2017年11月開催の「第4回 新東北みやげコンテスト」で入賞するなど、高い評価を得た。「kitaha」を使った菓子の開発にも挑戦し、朱夏氏が公益財団法人仙台市産業振興事業団のビジネス支援を受け「東北生まれ紅茶のクッキー」を開発。茶葉としては利用できない細かな繊維と茎を使ったクッキー「ふわとぼうる」、煎茶の爽やかな香りを閉じ込めたムラング「あわつぼみ」を生み出した。

繊維と茎(「ふわ」と「棒」)を使った「ふわとぼうる」 繊維と茎(「ふわ」と「棒」)を使った「ふわとぼうる」

これらの菓子は、宮城県内の就労継続支援施設「ポッケの森」、「パーラー山と田んぼ」が製造からパッケージまでを行い、販売する。「自分たちだけが幸せになるのではなく、『kitaha』に携わってくださる方、地域の方々、皆さんを笑顔にしたい」と、朱夏氏は連携に込めた思いを語る。

kitaha企画・開発室長の日野朱夏氏(左)、代表取締役の日野雅晴氏(右) kitaha企画・開発室長の日野朱夏氏(左)、代表取締役の日野雅晴氏(右)

東北初の紅茶工場を軸に地域に根ざした新産業を広げる

2019年には驚きの知らせがもたらされる。ある日、「G20大阪サミットの首脳夕食会で提供された和紅茶が欲しい」という客が来店した。「うちのお茶ではないのでは」と答えたが、調べると本当に「kitaha」だった。関係者に問い合わせると「被災地の紅茶だからではなく、全国の紅茶を取り寄せてみて一番おいしかったから選びました」とうれしい連絡をもらった。

さらに、ハーブ農園やイチゴの生産者と提携し、朱夏氏が開発したフレーバーティー「kitaha-纏(まとい)-」が、2019年開催の「第6回 新東北みやげコンテスト」で最優秀賞を受賞。

東北各地の生産者とコラボした「kitaha-纏-」 東北各地の生産者とコラボした「kitaha-纏-」

「お客さまに喜んでもらえる紅茶を一心に追求してきて、その結果を評価していただいた。東日本大震災で助けてくださった方々への恩返しと、元気にがんばっている石巻の姿を全国に発信できたことがうれしかったですね」と日野氏。

2022年には、石巻市桃生町に東北初の紅茶工場を自社で建設。鮮度と品質を保ったまま加工ができるようになった。⼯場名は「東北のお茶⽂化の『根っこ』になりたい」との思いを込め、「kitahanone(キタハノネ)」と名付けた。

東北初の紅茶工場「kitahanone」 東北初の紅茶工場「kitahanone」

「東北地方で紅茶を作りたい方に、今後はぜひ工場を使っていただきたい。茶畑を増やし、お茶に携わる方が増えれば大きな産業になると思う」と、朱夏氏の夫で工場長を務める日野優介氏は明るい未来を見据える。朱夏氏も「競い合うのではなく、手を取り合っていきたい」と和やかな笑顔で応える。

復興から、地域活性化へ。おいしい紅茶が生み出した東北の新たなお茶文化は、これからも石巻の地で大切に継承されていく。

課題

・顧客も被災し先行きが不安。販路の開拓が急務に。

・自分たちだけが幸せになるのではなく、地域の人を笑顔にしたい。

解決策

・培った人脈を生かし情報収集。和紅茶がブームと知り、商品開発を開始。

・地域の人と連携できる菓子やお茶を開発。

効果

・完成した和紅茶「kitaha」はG20大阪サミットやG7広島サミットで提供されるなど、全国的にも評価される商品となる。

・就労継続支援施設と連携しクッキーを製造販売。生産者と提携して開発したフレーバーティーは「新東北みやげコンテスト」で最優秀賞を受賞。

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