気仙沼発の企業としてリブランディング YouTubeも駆使し全国のファンを獲得

有限会社たかはし

【宮城県気仙沼市】

気仙沼発の企業としてリブランディング
YouTubeも駆使し全国のファンを獲得

企業情報

  • 企業名 有限会社たかはし
  • ヨミガナ ユウゲンガイシャタカハシ
  • 業種 繊維工業
  • 代表者 髙橋和江氏[代表取締役]
  • 所在地 宮城県気仙沼市所沢321-1
  • TEL 0226-23-1111
  • WEB https://k-takahasi.com/
  • 創業年 1967年
  • 資本金 300万円
  • 従業員数 26人
  • 売上高 非公開

企業概要

1967年に悉皆屋(しっかいや)として創業。その後、呉服も扱うようになり、1978年に実店舗「御誂京染(おあつらえきょうぞめ)たかはし」を構える。現代表取締役の髙橋和江氏が家業を継いでからは和装肌着の製造にも着手し、オリジナル商品は80種類以上に及ぶ。

既存の着物文化の概念を覆した和装肌着を開発

有限会社たかはしの歴史の原点は、今から半世紀以上前の1967年。現在の代表取締役である髙橋和江氏の母・節子氏が、着物のメンテナンス全般を行う京染悉皆業(きょうぞめしっかいぎょう)を始めた頃にさかのぼる。髙橋氏が店を手伝うようになったのは24歳の時。当初は家業を継ぐつもりはなかったというが、いざ着物の世界に飛び込んでみると、ある危機感を抱くようになった。

代表取締役の髙橋和江氏 代表取締役の髙橋和江氏

「着物はメンテナンス代が高く、汗の染み抜きだけで1万円、襦袢(じゅばん)と着物であれば2万円もしてしまう。メンテナンスにお金がかかれば、着る人がどんどん減り、業界も衰退していくだろうと思いました」。

そこで思いついたのが、着物を汗染みや汚れから守る和装肌着の開発だ。試行錯誤を重ねた末、2005年に和装肌着「満点スリップ」の販売を開始。同時にネット通販向けのサイトを立ち上げ、オンライン販売を中心に商品展開を試みた。

販売当初は知名度の低さから鳴かず飛ばずの状態が続いたが、口コミなどで評判が広がり、徐々にファンを獲得。「満点スリップ」の販売から数年がたつと、全国の着物愛好者の間でもたかはしの名が知られるようになった。

「気仙沼」発の商品として再構築し、震災後の経営危機を脱出

事業が軌道に乗り始めていた矢先、東日本大震災が気仙沼市を襲った。津波により店舗は大規模半壊し、1階に保管していた自社商品、在庫預かり品の全てが流出。「さすがに立ち直れないと思いました」と振り返るほど、その被害は甚大なものだったという。

震災後の店舗の様子 震災後の店舗の様子

しかし、絶望に打ちひしがれる中で、とあるお客さまからのある言葉が、髙橋氏の背中を強く押す。

「被災して2週間後ぐらいに、店の前を通ったとあるお客さまから『いつお店を開けてくれますか? 着物を洗っていただきたいんです』と言われて、そこでハッとしたんです。着物を洗うのはうちの仕事なのに、自分たちは何をやっているんだと。そこからスイッチが入り、営業再開に向けた準備を始めました」。

被災から1カ月半後の2011年4月29日、泥をかき出した店先の一画にブルーシートを敷いた仮店舗で営業を再開。すると、被災した着物をなんとかしてほしい、と客足は絶えなかった。着物はただの衣服ではなく「人々の思いの塊」であることを実感した瞬間だった。

ここから再起に向けたアクションを起こしていく。それまで気仙沼の会社であることを表立って言ってこなかったが、被災地・気仙沼に全国から心を寄せていただいていることに感謝しつつ、「どうせならばここは甘えさせていただこう、と商品パッケージに『気仙沼』の文字を入れて売り出すようにしたんです」。

約1,000万円をかけてパッケージ刷新などのリブランディングを行ったところ、全国から応援の声が寄せられるようになり、売り上げも右肩上がりに。業績を徐々に回復させていった。

リブランディングにより刷新したパッケージ。左下に「気仙沼」の文字を入れた リブランディングにより刷新したパッケージ。左下に「気仙沼」の文字を入れた

さらには東日本大震災によって閉鎖となった地元の縫製工場を引き取り、自社工場としてリニューアル。新たなアイデアや商品の微調整をすぐに行えるようになったためオリジナル商品が増え続け、地域の雇用創出にもつながった。東日本大震災当時は6人だった社員も現在では26人にまで増え、事業拡大を続けている。

新たなアイデアをすぐに実現可能にした縫製工場「ソーイング花蛍(はなぼたる)」 新たなアイデアをすぐに実現可能にした縫製工場「ソーイング花蛍(はなぼたる)」

YouTubeで情報発信を行い、コロナ禍でもファンを獲得

たかはしが掲げるスローガンは「きものをやさしく、たのしく、おもしろく」。顧客の気持ちに寄り添い、従来の固定概念に捉われない商品作りを行うことで、一人でも多くの人に着物を長く愛してもらいたいという思いがそこにはある。

「私の考えの根幹にあるのが『どうすればユーザーに喜んでもらえるか』ということ。それには業界への問題提起も含みます。着物業界ではいわゆる権威主義的な部分があり、それが着物離れを加速させたと思います。新しい文化が受け入れられるようになり、ようやく自由度が増してきた今こそがチャンスの時だと思っています」。

近年はコロナ禍による催事の縮小もあり、着物を利用する女性も減少傾向にある。そんな中、若い人にも着物を楽しんでもらおうと髙橋氏が新たに取り組んだのがYouTubeでの発信だ。「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」というタイトルの下、着物の着方や疑問点を解説する動画をアップ。すると若者を中心に全国の着物ファンから好評を博し、今や1万8,000人以上(2023年9月時点)の登録者数を誇る人気チャンネルとなった。

最近では大阪の高級女性靴メーカーと手を組み、気仙沼市で水揚げされたヨシキリザメの革を使用した、女性用の靴の開発・販売を開始。オンラインショップでは気仙沼市の地場産品の販売も展開するなど、地元の魅力発信にも精力を注ぐ。

ヨシキリザメの革を使用した「ラクかる シャークツ」 ヨシキリザメの革を使用した「ラクかる シャークツ」
つばき油など、気仙沼の地場産品も販売 つばき油など、気仙沼の地場産品も販売

「事業において大事なのは規模よりも『深さ』だと思っています。地元で暮らす方々や、着物を愛する全国の方々にとって、唯一無二の存在になることが目標。これからも頼りにされる肌着屋であり続けたいですね」。

逆境をばねにして、東日本大震災から力強くはい上がったたかはし。これからも型にとらわれない発想と仕掛けで、着物業界に新たな風を巻き起こしていくことだろう。

課題

・東日本大震災で店舗が大規模半壊。1階にあった商品や在庫預かり品が全て流出し、経営危機に陥った。

・着物業界はユーザーフレンドリーではなく、着物離れが進行していた。

解決策

・約1,000万円を投資して商品をリブランディング。気仙沼市の商品であることを全面に打ち出した。

・YouTubeチャンネルを開設し、着物の情報発信を積極的に展開した。

効果

・全国から応援の声が届き、売り上げも右肩上がりに。業績回復へとつなげた他、新たな雇用も生み出した。

・YouTubeチャンネルの登録者数は1万8,000人以上(2023年9月時点)を記録。若者を中心に、新規ファンの獲得に成功した。

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