発酵をテーマとした商業施設 開業初年度に13万人以上が訪れた

株式会社醸

【岩手県陸前高田市】

発酵をテーマとした商業施設
開業初年度に13万人以上が訪れた

企業情報

  • 企業名 株式会社醸
  • ヨミガナ カブシキガイシャカモシー
  • 業種 飲食サービス業
  • 代表者 田村滿氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県陸前高田市気仙町字町308-5
  • TEL 080-2345-5162
  • WEB http://camocy.jp
  • 創業年 2019年
  • 資本金 110万円
  • 従業員数 0人
  • 売上高 670万円

企業概要

陸前高田市の「まちなか再生計画」における発酵食の集積拠点整備計画により、2019年に地元7事業者で設立。2020年12月に「CAMOCY(カモシー)」をオープンした。パンやチョコレート、ビール、発酵食品などを扱う8事業者が入居する。

大量解雇が起きた陸前高田市で、雇用の受け皿つくる

津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市の今泉地区に2020年にオープンした「CAMOCY(カモシー)」。地域で醸造業が盛んだったことから、商業施設のテーマは発酵とした。設立に至ったきっかけは、東日本大震災以前にさかのぼる必要がある。

被災前から、陸前高田市の経済は衰退の一途をたどっていた。そこで危機感を持った地元の経営者らが、2007年に岩手県中小企業家同友会気仙支部を発足。地元企業の「倒産ゼロ」や「雇用創出」などの理念を掲げた。株式会社高田自動車学校取締役社長(現会長)の田村滿氏を支部長に迎え、勉強会や視察を重ねていた。発足当初28人だった会員は、2010年には70人を超えた。

2011年3月の東日本大震災では、地域の約9割の企業が津波で社屋を流され、多くの従業員やその家族を失う。同会では会員企業に雇用調整助成金を紹介するなど、企業の存続や雇用維持に努めたものの、従業員解雇の流れは止まらなかった。田村氏は当時を振り返り、次のように語る。

代表取締役の田村滿氏 代表取締役の田村滿氏

「当時、あんなにもひどい解雇の嵐になるとは思っていませんでした。失業手当で一時しのげたとしても、雇用保険が切れた後の補償はない。われわれが雇用を守るための仕事をつくる必要があると思いました」。

そんな時、陸前高田でボランティアを行っていた株式会社ソシオ エンジン・アソシエイツの経営陣と知り合い、同社が参画する一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワークと提携。国の補助金を活用し、受け皿となる企業を陸前高田に40社つくることを掲げ、なつかしい未来創造株式会社を2011年10月に設立した。

なつかしい未来創造は活動期間を10年間と定めることで集中して事業を行い、目標通り40人の起業家を生み出すと、2021年度をもって解散した。

企業発展の基盤となる地域を創造するため「CAMOCY」開設

創業した40社のうち、2023年8月現在も34社が存続している。別の被災地で同じ補助金を活用した事例は多くあるが、それらと比べても存続率が高い。

「中小企業家同友会の会員企業に各社の経営をフォローしてもらっているのが大きいですね。例えばある起業家の方は、売り上げをそのまま元手に別の事業を始めようとしていました。そこで同友会の仲間が『売り上げから固定費や変動費、利益などを引いた上で、元手にしないと長期的な経営は難しい』といったことを一つ一つサポートしました。そのおかげで経営感覚がしっかり身に付き、存続率の高さにつながっているのだと思います」。

34社で280人ほどの雇用がある。目標通り受け皿を増やすことはできたが、新しい企業も、同友会に参加する老舗会員企業も、地元の中小企業は全て地域密着型。地域全体で発展しなければ企業の発展もない。

そのため、田村氏は地域の事業者と共にいくつかの取り組みを進めた。その一つが、発酵パーク「CAMOCY」の開設だ。開設の地である陸前高田市の今泉地区には、江戸時代に仙台藩領気仙郡の中心として栄えた歴史と町並みがあった。発酵をなりわいとするみそ・しょうゆ蔵が3軒あったこともあり、発酵食の集積拠点を設けようと計画した。陸前高田市の「まちなか再生計画」に盛り込まれ、その運営会社として地元7事業者で株式会社醸を設立。

蔵をイメージしたCAMOCYの外観 蔵をイメージしたCAMOCYの外観

入居テナントを募集したところ16社が集まり、最終的に食堂やチョコレートブランド、クラフトビール醸造所など8店舗が入居。2020年12月のオープンにこぎ着けた。

クラフトビールを販売する「陸前高田マイクロブルワリークラフトビール」 クラフトビールを販売する「陸前高田マイクロブルワリークラフトビール」

コロナ禍でも好調のスタート 今後は地域内の循環促す

オープンした2020年12月は、新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期。元々低調な出だしを見込んでいた。しかし田村氏が運営する「ベーカリーマーロ」だけでも、2021年の1年間の売り上げは3,352万円、来客者数は約3.2万人と想定以上の実績だった。施設全体の来客数はその4倍以上と考えられる。

「ベーカリーマーロ」の店舗。陸前高田市の食材などを取り入れたパンが豊富
「ベーカリーマーロ」の店舗。陸前高田市の食材などを取り入れたパンが豊富
「ベーカリーマーロ」の店舗。陸前高田市の食材などを取り入れたパンが豊富

「なぜコロナ禍であれだけの好実績を出せたかよく分かりませんが、県外からの利用客も多かったので、口コミの効果ではないかと考えています。一方、2022年になると売り上げ2,867万円、来客数2万5,000人と落ち込んだ。この数字をベースに、今後の集客を考える必要があると感じました」。

来客数が落ち着いたことで、入居する事業者同士の連携はより密になった。毎月、役員会と各店のスタッフも参加する営業会議を実施。これから何をすべきか、どうやって集客していくかを話し合っている。

その中で生まれたアイデアから、8月5日の「発酵の日」に絡めたイベントを2023年に開催。施設内のキッチン付きアトリエ「テラス」を活用し、パン作り体験やレシピコンテスト、トークショーなどを行った。2025年には発酵食品と発酵文化を発信する「全国発酵食品サミット」の会場となる予定だ。

「テナント料を得るだけではなく、CAMOCY自体で集客し収益を得る必要がある。われわれが発酵の知識を深めることはもちろん、別の施設と連携して来訪客を地域に循環させるための取り組みも重要です。例えばCAMOCYから車で3分ほどの場所にあり、年間20万人ほどが訪れる東日本大震災津波伝承館にコンシェルジュを配置し、お客さんをCAMOCYに誘導できないか等、市内の回遊を促さなければ、地域全体にとって大きな機会損失になると思います」。

「醸す」には微生物の働きで酒やしょうゆを造るという意味以外にもう一つ、雰囲気をつくり出すという意味もある。復興から持続的な発展への機運を醸すために、町全体に化学反応を引き起こす存在となるだろう。

課題

・地元の中小企業は全て地域密着型であり、企業の発展のためには地域の発展が不可欠。

・施設オープン2年目に売り上げ、来客数とも減少。

解決策

・地域そのものを創造していく取り組みの一つとして、発酵パーク「CAMOCY」をオープン。

・イベントなどを企画して施設として集客し、収入増を図る。

効果

・コロナ禍でのオープンにもかかわらず想定以上の集客、売り上げがあった。

・2025年に「全国発酵食品サミット」の会場となり、集客促進が期待される。

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