モーター・ポンプ修繕で被災企業の早期復旧に貢献 独自の光触媒技術・コイル再生技術で新たな展開を

株式会社釜石電機製作所

【岩手県釜石市】

モーター・ポンプ修繕で被災企業の早期復旧に貢献
独自の光触媒技術・コイル再生技術で新たな展開を

企業情報

  • 企業名 株式会社釜石電機製作所
  • ヨミガナ カブシキガイシャカマイシデンキセイサクジョ
  • 業種 機械等修理業
  • 代表者 佐藤一彦氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県釜石市甲子町9-171-4
  • TEL 0193-21-1751(事務所)
  • WEB https://www.e-kamaden.co.jp
  • 創業年 1949年
  • 資本金 3,500万円
  • 従業員数 28人
  • 売上高 約2億円

企業概要

1949年創業。主事業であるモーター・ポンプの修繕・メンテナンス業務の他、モーター用コイル製作や機械器具設置工事、受託溶射加工などの事業も担当する。創業以来培った技術で、沿岸地域の工場の生産作業を支える。

半世紀前の教訓を生かし各工場の早期復旧に貢献

江戸時代から良質な鉄鉱石が採掘され、近代製鉄業の発祥の地として知られる岩手県釜石市。1949年に創業した株式会社釜石電機製作所は、富士製鉄株式会社(現日本製鉄株式会社)の協力会社として、主にモーター・ポンプの修繕・メンテナンス業務を担当した。釜石市の製鉄業を下支えしてきた地元企業である。

佐藤一彦氏が代表取締役に就任したのは1976年。当時は新日本製鉄株式会社(1970年に富士製鉄と八幡製鉄株式会社が合併)の売り上げシェアが約80%を占め、安定した経営を保っていた。しかし1986年に釜石市の高炉が廃されたことで、取引による売り上げが激減。一社の売り上げに頼った経営を脱するため、北は青森県八戸市から、南は宮城県仙台市まで営業エリアを拡大。創業以来培ってきた技術を多くの企業に提供し、経営危機を乗り越えた。

そして、釜石電機製作所が培ってきた技術は、2011年の東日本大震災でも生かされた。津波により被災した沿岸部の工場から、水に浸かったモーター・ポンプの修繕依頼が多く舞いこんだのだった。釜石電機製作所ではそれらを積極的に引き取り、自社で製作した窯で煮沸し、脱塩をすることでコイルの絶縁補強を実施。独自の工程で修繕作業をスムーズに進め、各工場の早期復旧に貢献した。

佐藤一彦氏によると、迅速な対応ができた背景には、過去の歴史から学んだ、ある教訓があったからだと語る。

代表取締役の佐藤一彦氏 代表取締役の佐藤一彦氏
専務取締役の佐藤太郎氏 専務取締役の佐藤太郎氏

「実は東日本大震災が発生する数年前、先輩社員と話した際、たまたま津波の話題が上がったんです。そこでモーターやポンプにとって一番怖いのは、水ではなく『塩水』に浸かることだと教えてもらいました。先輩社員がそれを知っていたのは、1960年のチリ地震の津波を経験していたため。おかげで震災前に、津波が起きた際の対策を想定できました。半世紀前の教訓が、東日本大震災で生かされたのです」。

溶射技術を用いた光触媒装置を空気抗菌装置「カザノイア」に搭載

モーター・ポンプの修繕事業の傍ら、釜石電機製作所が約20年にわたって取り組んでいるのが、溶射技術を用いた光触媒装置の開発だ。溶射とは摩耗したシャフトを再生する工程などで使われる技術で、金属に被膜を形成するコーティング方法の一つ。光触媒ではその技術を応用し、光が当たることで大気中に化学反応を起こして有害物質を分解・除菌・消臭し、衛生的な空気環境を生み出すことができる。

釜石電機製作所では、溶射研究の第一人者である大阪大学教授(当時)の大森明氏からのアドバイスをきっかけに、2000年初頭から開発事業をスタート。岩手県工業技術センターと共同で光触媒装置の開発に取り組んだ。最初は手探りの状況が続いたが、2005年には「光触媒被覆材の製造方法」の特許を取得。牛舎などの畜舎で試験導入・実証を重ね、2010年には光触媒技術を用いた空気浄化装置「サンアールエコクリーン」の製造販売を開始した。

すると数年後、開発をさらに加速させる出会いが訪れる。それは東日本大震災後に行われた、被災企業と支援企業を結ぶマッチング事業での出来事だ。

「産業技術総合研究所(以降、産総研)さんで光触媒を研究されている方とお会いしたのですが、その時に『国際規格に基づいた分析をしたことはありますか?』と聞かれました。国際規格があることすら知らなかったと正直にお伝えしたところ、せっかくの機会だからと無料で分析してもらえることになったんです。試験用のプレートを送ったところ、『こんなに活性効果の高い光触媒とは思わなかった!』と言って、すぐさま会社を訪ねてきたんです」。

それから現在に至るまで、専門家による指導をはじめ、共同での特許出願など、各研究機関のバックアップも受けながら開発を進行。サポートを受けながら新たに誕生したのが、独自の光触媒技術を用いた空気抗菌装置「CAZANOIA(カザノイア)」である。

空気抗菌装置「CAZANOIA(カザノイア)」 空気抗菌装置「CAZANOIA(カザノイア)」

2020年6月、岩手県庁1階県民室、岩手県立図書館、三陸鉄道宮古駅の岩手県内3カ所に設置されると、その後は酒造メーカーを中心に導入を図る企業が増加。特に酒造りにおいては麹室の雑菌がカザノイアの使用後に99%減少するというデータもあり、導入した酒造メーカーから「品質が安定した」との声も寄せられている。

「われわれのような田舎の小さい企業が、産総研さんのような国を代表する研究機関と共同研究できることはめったにないことだと思います」と佐藤一彦氏。東日本大震災をきっかけにした出会いが、光触媒装置の開発に大きな追い風をもたらした。

主要事業のモーター・ポンプ修繕に注力しながら事業拡大

光触媒装置の開発を続ける中で、機器の寿命を延ばすモーター用コイルの製作・再生技術も注目を浴びている。コイルの再生を手がける業者が減る中で、各所から問い合わせが増えているのだ。岩手県で誘致を進めている国際リニアコライダー用の電磁石コイルの試作や、大手メーカーとの特殊コイルの開発など、多方面でその技術が用いられている。釜石電機製作所は、長年培ってきた技術を、これからの社会に生かすため取り組みを進めている。

多様な分野で活躍しながら、専務取締役の佐藤太郎氏は「われわれの仕事のコアはあくまでもモーター・ポンプの修繕事業」と話す。

コイル巻き替え(巻き直し)や溶射施工などによって、幅広い故障に対応 コイル巻き替え(巻き直し)や溶射施工などによって、幅広い故障に対応

「世の中のあらゆる設備の動力源はモーターやポンプ。すなわち、われわれの仕事は社会生活やインフラに大きく影響を与える仕事です。そのため釜石電機製作所の根っこである修繕・メンテナンス事業で人々の暮らしを支えることが最優先。そこから、その先にある新規のコイル開発、光触媒技術でも新たな可能性を生み出していければと思っています」。

釜石電機製作所はこれからも高い技術力を生かし、沿岸地域の住みよい町づくり、そして次世代のものづくりの発展に大きく寄与していくだろう。

課題

・1986年に釜石市の高炉が廃止。売り上げ縮小のリスクにさらされた。

・光触媒装置の開発事業は、手探りの状態が続いていた。

解決策

・各地の企業に取引を広げ、経営危機を脱した。

・東日本大震災後に新たな支援機関と出会い、研究や開発のバックアップを受けられるように。

効果

・1960年のチリ地震津波の教訓を生かし、東日本大震災の際、取引先の各工場の早期復旧に寄与した。

・2020年に空気抗菌装置「カザノイア」を販売開始。現在も研究開発に取り組み、本格事業化に努める。

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