縫製技術生かして自社ブランドを創設し 売り上げ全体の約1割まで成長

有限会社クラスター

【岩手県宮古市】

縫製技術生かして自社ブランドを創設し
売り上げ全体の約1割まで成長

企業情報

  • 企業名 有限会社クラスター
  • ヨミガナ ユウゲンガイシャクラスター
  • 業種 繊維工業
  • 代表者 小林晃氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県宮古市千徳13-50
  • TEL 0193-64-4535
  • WEB https://hmdown.theshop.jp
  • 創業年 1989年
  • 資本金 300万円
  • 従業員数 31人
  • 売上高 9,000万円

企業概要

1989年創業。主に婦人服の製造を手がけていたが、2011年にダウンウエア専門に切り替える。コロナ禍による受注減少をきっかけに、自社ブランド「ハヤチネメイド」立ち上げ。自社商品「オーセンティックダウンジャケット」はグッドデザイン賞受賞。

ダウンウエア専門工場に切り替え、被災後に迎えた転機

1989年の設立以来、ブラウス、ジャケット、コート、ワンピースなどの婦人服を主に手がけていた有限会社クラスター。シーズンごとにアイテムもトレンドも変わり、常にその対応に追われることから、代表取締役の小林晃氏は「もっと集中して同じものを長く作れるようにしたい」と考える。2009年にメーカー等に委託されてダウンウエアの製造を始めると、その他婦人服の取り扱いを徐々に減らしていった。

代表取締役の小林晃氏 代表取締役の小林晃氏

東日本大震災発生時、工場の被害は軽微で従業員も全員無事だったが、小林氏と数人の従業員が津波で家を失った。10日程度で工場の操業は再開したものの、道路は寸断されガソリンは手に入らず、歩いて通う従業員もいたため2週間ほど時短営業に。当時は春夏向けの服の販売シーズンに入ったばかりで、仕上げて納めるべき仕事が積み上がっていた。時短営業の中、発注元に別の協力工場へ仕事を振り分けるなどして、何とかしのいだ。4月に入ると、道や物流、避難生活を送っていた従業員の状況もやや落ち着き、通常に近い状態で仕事ができるようになる。

2011年秋、通販大手の株式会社カタログハウスが、自社のカタログマガジン「通販生活」で「メイド・イン・東北」と題した特集企画を設けた。その中で、クラスターが縫製を手がける、通販生活オリジナルのダウンジャケットを新たに生産。

以降5年にわたり、ダウンジャケットの時期になると安定した受注が続き、会社を支える軸となった。「5年間で1万着以上は作り、だいぶ縫製技術を蓄えさせてもらいました」と小林氏は感謝する。

台風被害、コロナ禍などの苦境を脱するため、自社ブランドを立ち上げ

2011年にダウンウエア専門の縫製工場への転換を果たし、経営も軌道に乗り始めた2016年8月、台風第10号が発生した。工場は浸水し、1月に導入したばかりだったCAM(高速自動裁断機)をはじめ機材が故障。仕掛品も含め被害総額は2,000万円に上った。「震災よりも圧倒的に被害は大きかった」と小林氏。

ダウンジャケットの縫製 ダウンジャケットの縫製

銀行から借り入れして事業を継続し、返済しながら再建を図る最中、今度はコロナ禍が到来。売り上げの約半分を海外客が占めるアパレルメーカーからの注文が減り、再び売り上げが低迷する。雇用調整助成金で給料を支払ったり、医療用ガウンやマスクの縫製を受注したりもするが、毎年1,000万円ほどの赤字が続いた。

時期を前後して、世間のSDGsに対する意識の高まりとともに、羽毛への誤った認識が広まったことでも逆風にさらされた。ダウンジャケットに用いられる羽毛は、食用として育てた水鳥から取れる食肉の副産物。しかし水鳥から羽を引き抜いていると誤解され、「むなしいというか、がっかりしました」と語る小林氏。現在もまだ理解が十分に進んでいるとは言い難いという。

苦境を脱するため、縫製工場の強みを生かして新商品の開発を目指す岩手県の事業「イワテメイドアパレルプロジェクト」に参加。県が派遣した株式会社エディションズ代表取締役の金谷克己氏がクリエーティブディレクターとして参画し、2021年に自社ブランド「ハヤチネメイド」を立ち上げた。当時の苦労を、小林氏は次のように語る。

「ブランドの素案は用意していたんですけど、金谷さんにすぐ却下されました。ストーリーがないとか、こだわりがないとか、行き当たりばったりで継続性がないとか、厳しかったですよ。今思えば、ブランドは立ち上げて終わりではなく、育てていくために本気で考えていただけたからこその対応ですね」。

ブランドのストーリー性やコンセプト、継続性を見直して商品化し、発表会で披露。金谷氏のコネクションを生かして仙台や関東の百貨店で販売会を行い、メーカーとしての認知を広げた。

自社製品の売り上げ比率が向上 今後は人材育成が鍵

ブランド立ち上げに当たっては、周知と客注確保を目的にクラウドファンディングを実施し、約200万円を集めた。これも金谷氏の提案によるものだ。

「金谷さんに多方面で助けていただく中で、無名のメーカーが世の中に出ていくのは、すごく大変だと実感しました。どんなに良い物を作っていても、その良さが十分に伝わるパンフレットなどがなければ知ってもらえないんだと、メーカーの立場になって改めて分かりました」。

後発ブランドでも他社と差別化を図るため、さまざまな仕掛けを行った。自社商品の一つである「オーセンティックダウンジャケット」では、オーダーに応じて小ロットでの生産にも対応する仕組みを導入。衣服の製造に必要な表生地だけ用意してもらえれば、サンプルとしてダウンジャケットを低コストで1着製造できる。技術力の他、ビジネスモデルの面でも評価され、2022年度のグッドデザイン賞を受賞した。

オーセンティックダウンジャケット
オーセンティックダウンジャケット
オーセンティックダウンジャケット

また、刺し子生地など、全国の伝統的な織物や染め物を取り入れた商品展開も行う。日本の着尺で洋服を作るのは手間がかかり、効率が悪いことから本来量産には向かないが、「他のアパレル企業さんが手を出しづらいようなものを狙っています」と小林氏は語る。

初めての取り組みで苦労は多かったが、金谷氏ほか関係者の支援のおかげで実現できたと話す小林氏。自社製品の売り上げは事業全体の10%程度に育ってきている。今後は商品コンセプト作成からブランディング、PRまで社内で行う体制を整え、自社製品の売り上げ比率の向上を目指す。

そのためにも人材育成がこれからの課題だ。「下請けを長く続けてきたので、会社全体で自分たちの技量に価値があり、それに対価が払われているという自覚がまだ薄いと感じています。ただ海外でも売れており、宮古市の経済に貢献していると思うんです。今後は働く従業員たちの生活も良くする取り組みを行っていきたいですね」と小林氏。

幾多の苦境に直面しながらも、婦人服からダウンウエアに、下請けからメーカーにと変貌して活路を見いだしてきた。実現できたのは、新しい動きに従業員が対応し、日々仕事に励んでくれたから。だからこそ、「同じ夢を見て、今後も共に叶えていきたい」と願っている。

課題

・婦人服はシーズンごとにアイテムもトレンドも変わり、常にその対応に追われていた。

・2016年に台風第10号で被災、さらにコロナ禍が襲って売り上げが激減した。

・無名な後発メーカーが認知を広げることへの困難。

解決策

・同じ製品を長く作れるように、ダウンウエアの製造に注力する。

・縫製工場の強みを生かして新製品の商品開発を目指す、岩手県の事業に参加。自社ブランド「ハヤチネメイド」を立ち上げた。

・周知と客注確保を目的にクラウドファンディングを行う。

効果

・東日本大震災後、「通販生活」から安定した受注があり、ダウンウエア専門の縫製工場に転換。

・自社商品の1つである「オーセンティックダウンジャケット」がグッドデザイン賞受賞。自社製品の売り上げは事業全体の10%程度まで育つ。

・クラウドファンディングにより約200万円を集め、認知を拡大した。

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