被災地の現状を知る「震災学習列車」 運行開始2年で1万人以上が利用

三陸鉄道株式会社

【岩手県宮古市】

被災地の現状を知る「震災学習列車」
運行開始2年で1万人以上が利用

企業情報

  • 企業名 三陸鉄道株式会社
  • ヨミガナ サンリクテツドウカブシキガイシャ
  • 業種 鉄道業
  • 代表者 石川義晃氏[代表取締役社長]
  • 所在地 岩手県宮古市栄町4
  • TEL 0193-62-8900
  • WEB https://www.sanrikutetsudou.com/
  • 創業年 1981年
  • 資本金 3億600万円
  • 従業員数 111人
  • 売上高 非公開

企業概要

1984年に日本初の第三セクター鉄道として、南リアス線・北リアス線の運行を開始。2019年3月、山田線釜石~宮古間がJR東日本より移管され、南北を結んだ新たなリアス線が誕生。国内の第三セクター鉄道で最も長い路線となった。

被災から5日後に運転を再開 沿線住民の希望のともしびに

日本初の第三セクター鉄道会社として、1984年に開業した三陸鉄道株式会社。釜石駅から盛駅までを結ぶ南リアス線と、久慈駅から宮古駅までを結ぶ北リアス線の2線を運行していた。開業当初は、通勤や通学で利用する沿線住民をはじめ、年間約250万人の乗客が利用していた。

しかし1990年代以降、地域の過疎化も相まって、利用客は次第に減少。そこで2002年10月に、車内が畳敷きになった「お座敷列車さんりくしおかぜ」、2004年2月には座席にこたつを取り付けた「こたつ列車」などのイベント列車の運行を開始。観光客の誘致に積極的に取り組むものの、2010年の乗客数は開業時の約3分の1にまで落ち込んだ。

そこに追い打ちをかけたのが2011年の東日本大震災だ。幸い、乗客・乗員の人的被害はなかったが、駅舎や橋梁(きょうりょう)など計317カ所が甚大な被害を受けた。

そんな中、地域密着型の鉄道会社として何ができるかを考えた三陸鉄道は、震災発生からわずか5日後に被害の少なかった久慈駅~陸中野田駅間での運転を再開。当時の状況を、代表取締役社長の石川義晃氏はこのように語る。

線路の復旧作業を行う様子 線路の復旧作業を行う様子

「被災してから2日後に現場を見に行った時に、住民の皆さんが線路の上を歩いていた。移動するにも道路はがれきで埋まっているし、車は津波で流されてしまっている。一日でも早く鉄道を走らせなければならないと感じ、復旧作業よりも鉄道の運転再開を最優先して取り組みました」。

久慈駅から陸中野田駅を結ぶ列車は「震災復興支援列車」として、運賃無料で運行。非日常の中を生きる沿岸地域の住民にとって、線路をたくましく走る三陸鉄道の列車の姿は、復興に向けた希望のともしびとなった。

スムーズな復旧工事が実現 「震災学習列車」で支援へ恩返し

比較的被害が軽度だった区間から徐々に運行を再開し、東日本大震災から約3年後の2014年4月、南リアス線、北リアス線共に全線復旧を果たした。復旧に当たっては、約2,000人の自衛隊員が駆け付け、がれきの撤去作業を行う「三鉄の希望作戦」など、さまざまな外部支援もあったが、とりわけ大きな課題となったのが資金面だった。

当初は全線復旧に100億円の費用が見込まれ、一部では廃線の声も上がったという。しかし、当時の代表取締役社長の望月正彦氏が「鉄道が廃線になって栄えた地域はない。何としてでも鉄路として復旧させなければ」と、強い思いで沿線の各市町村の首長に直談判。復旧工事の了承を取り付けると、岩手県や国への支援要請を経て、2011年11月に復旧工事が着工した。

東日本大震災発生からわずか8カ月後という早さで着工できたのは、「開業以来、地域と共に歩んできた三陸鉄道の強みがあったから」と石川氏は語る。

「沿線市町村の首長さんたちは、三陸鉄道を助けるというよりも、自分たちの住民のために、自分たちの鉄道を早く復旧させなければいけないという気持ちで動いてくださいました。そうした思いを、岩手県や国の方々が真摯(しんし)に受け止めてくださったおかげで、迅速な復旧工事が実現できたのではないかと思っています」。

鉄道の復旧が進む中、社内で「列車から被災地を見てもらえないか」と声が上がったことをきっかけに、新たなプログラムとして、2012年より「震災学習列車」の運行を開始。三陸鉄道の社員や沿線住民がガイド役となり、パネルを用いた被災状況の説明を行う。実際の被災場所を車窓から見せることで、被害の大きさや復旧の進捗状況を多くの人に知ってもらい、防災意識を高めてもらうことを目的に企画した。

(左)代表取締役社長の石川義晃氏 (右)震災学習列車担当の山野目真氏 (左)代表取締役社長の石川義晃氏 (右)震災学習列車担当の山野目真氏

学生たちの校外学習や修学旅行など、全国各地から利用客が殺到。運行開始から2年後の2014年には275団体、延べ1万人を超える利用者数を記録。2023年9月までに約9万人が利用している。三陸鉄道における新たな目玉列車になっていると、震災学習列車の担当の山野目氏は言う。

「いろいろな方々からご支援をいただいて復旧を果たすことができた鉄道なので、皆さまにその恩返しをすることが、私たちにできる役割の一つでもあります。長い年月が経過し震災の記憶も薄れがちになってくる中で、この震災学習列車の運行は三陸鉄道としての使命・責務だと捉えています」。

経験が生かされた台風被害 観光客誘致で地域振興を目指す

2019年3月、山田線の宮古駅~釜石駅間がJR東日本から三陸鉄道に移管。南リアス線、北リアス線と合わせた久慈駅から盛駅までの163㎞がつながり、第三セクターの鉄道として国内最長となる「三陸鉄道リアス線」が新たに誕生した。

2019年3月、リアス線開通を喜ぶ地域住民 2019年3月、リアス線開通を喜ぶ地域住民

しかし同年10月、台風19号が沿岸地域を襲来。トンネルや線路に大量の土砂が流れ込み、全線のうち約7割が不通となる被害に見舞われてしまう。そこで生かされたのが、東日本大震災での経験だった。いち早く各自治体と連携を図り、国への支援を要請。2011年と同様に国が整備した復旧スキームを活用し、被災から半年後の2020年3月には全線復旧を果たす。

「社員や沿線住民の方々は『あの東日本大震災も乗り越えたんだから、これぐらいの台風災害ではくじけないぞ』と話していましたね。自治体の動きも早かったです」。(石川氏)

相次ぐ自然災害を乗り越え、2024年には開業40年を迎える三陸鉄道。「沿線住民の通学・通勤等における交通手段の確保」「観光客を呼び込むことでの三陸地域の振興」の二つを継続して事業の柱とする。併せて観光客の誘致については、他社と連携したイベント列車、ラッピング列車の運行など、さまざまな企画を展開し、さらなる交流人口の拡大を図っていくつもりだ。

冬季限定の「こたつ列車」では、岩手県北部の小正月行事で登場する鬼「なもみ」が車内を歩き回り、乗客を盛り上げた 冬季限定の「こたつ列車」では、岩手県北部の小正月行事で登場する鬼「なもみ」が車内を歩き回り、乗客を盛り上げた

多くの支援に対する感謝の思いを列車に乗せて、これからも三陸鉄道は復興のシンボルとして、岩手の沿岸地域を明るく照らし続けることだろう。

唐丹駅から吉浜駅間の美しい景色 唐丹駅から吉浜駅間の美しい景色
課題

・地域の過疎化などにより、2010年の乗客数は開業時の3分の1まで減少。

・東日本大震災により全線が運行不能に。当初の算定では、全線復旧に100億円の費用がかかると見込まれた。

解決策

・2012年に「震災学習列車」の運行を開始。

・沿線の各自治体からの了承を取り付け、岩手県、国へ復旧支援を要請。東日本大震災からわずか8カ月後に復旧工事着工。

効果

・「震災学習列車」は学生の校外学習や修学旅行などに活用され、運行開始から2年後には利用客数が延べ1万人を突破。

・2019年10月に発生した台風19号による被災時は、東日本大震災時の復旧スキームが活用され、被災から半年後の2020年3月に全線復旧を果たす。

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