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産業復興や文化継承など、さまざまな目的を持ったデザインが東日本大震災の被災地を支えてきた。2011年から2021年までの期間で「グッドデザイン賞」を受賞したデザインの中から、岩手県・宮城県・福島県の産業や暮らしに好影響を与えた作品を取り上げる。

※本特集では『東日本大震災とグッドデザイン賞2011-2021』(フリックスタジオ、2022年)における分類および章立てに準じて、受賞事例を紹介
※受賞事例の画像は、公益財団法人日本デザイン振興会の提供による
※本特集に掲載している事例は受賞当時のものになります

多様なデザインが被災地の発展を後押し

東日本大震災発生から12年。東北の産業復興を支えてきたものの一つが「デザイン」だ。デザインとは、物の色や形など見た目上の特徴に限らず、商品や事業、プロジェクトの目的を果たすための計画も含まれる。被災地では、産業復興をはじめ、防災や減災、文化継承、コミュニティー創設など、さまざまな目的を持ったデザインが生み出されてきた。

産業や暮らしの発展につながるデザインを評する「グッドデザイン賞」でも、被災地で生まれた伝統工芸品や建築物、都市空間、社会課題の解決に挑むプロジェクトなど、多様なデザインが受賞している。そこで、2011年から2021年までの11年間、岩手県・宮城県・福島県でグッドデザイン賞を受賞したデザインの一部を取り上げる。

INDEX

岩手県・宮城県・福島県のグッドデザイン事例

地域の居場所となった「まちと建築のデザイン」、人と人の関係をつくる「つながりを生むデザイン」、手仕事が生んだ「暮らしのデザイン」、土地の魅力を再発見できる「地域に根ざしたデザイン」、未来の可能性を広げる「伝統と革新のデザイン」、地域の記憶をつなぐ「歴史・文化を紡ぐデザイン」の6つのテーマに分けて紹介する。

地域の居場所となった まちと建築のデザイン

  • 釜石市の復興公営住宅 (大町復興住宅1号、天神復興住宅)

    株式会社千葉学建築計画事務所 他
    (岩手県)

  • 岩沼市玉浦西災害公営住宅B-1地区

    有限会社都市建築設計集団
    (宮城県)

  • コアハウスー牡鹿半島のための地域再生最小限住宅板倉の家ー/東日本大震災における建築家による復興支援ネットワーク

    アーキエイド
    (宮城県)

  • 須賀川市民交流センター tette

    石本建築事務所+畝森泰行建築設計事務所
    (福島県)

PICK UP

女川駅前シンボル空間(2018グッドデザイン賞)

女川町/女川みらい創造株式会社/女川町復興まちづくりデザイン会議 他(宮城県女川町)

女川町観光の新たな目的地に

女川みらい創造株式会社 阿部喜英氏

女川みらい創造株式会社
阿部喜英氏

  • BEFORE 最大14.8mの高さの津波が襲った、2011年の女川町中心地

    最大14.8mの高さの津波が襲った、2011年の女川町中心地

  • AFTER 約2%のゆるやかな勾配で下る、2023年の「レンガみち」

    約2%のゆるやかな勾配で下る、2023年の「レンガみち」

宮城県女川町は、海岸線が複雑に入り組んだリアス式地形の町。東日本大震災時は、町の約7割の建物が失われる甚大な被害を受けた。女川町では復興のため、女川駅前広場から海に向かって伸びる「レンガみち」を中心に、商業施設や物産センター、公園などを創設。観光客や住民、ビジネスマンなど、老若男女が集う都市空間を、2015年より町の中心地につくり上げた。

店舗の運営に携わる阿部喜英氏は「海を望む景色に加え、店舗自体の魅力や居心地のいい空間が合わさり、女川町の新たなシンボルになりました。ここを旅の目的地にする方も多く、2022年の年間来町者数はおよそ100万人。被災前の最大70万人を大きく上回っています」と語る。

人と人の関係をつくる つながりを生むデザイン

  • 石巻・川の上プロジェクト/石巻・川の上プロジェクト第2期

    耕人館&たねもみ広場 株式会社スタジオテラ 他
    (宮城県)

  • ブルーバードアパートメント

    Helvetica Design株式会社 他
    (福島県)

  • 石巻VOICE

    一般社団法人ISHINOMAKI2.0
    (宮城県)

手仕事が生んだ 暮らしのデザイン

  • 南部鉄器急須HEAT

    株式会社岩鋳 他
    (岩手県)

  • IKKON/IKKON お燗

    ガッチ株式会社 他
    (福島県)

  • 生涯を添い遂げるグラス

    株式会社ワイヤードビーンズ
    (宮城県)

PICK UP

仙台箪笥 猫足両開き・壱番/コンソール~monmaya+/アップライトシリーズ壁掛け (2011 2013 2016 グッドデザイン賞)

株式会社門間箪笥店(宮城県仙台市)

伝統ある仙台箪笥で海外進出

株式会社門間箪笥店 門間一泰氏

株式会社門間箪笥店
門間一泰氏

  • 2016年に受賞した「アップライトシリーズ 壁掛け」。仙台箪笥の技能を現代のインテリアに取り入れた点が評価された

    2016年に受賞した「アップライトシリーズ 壁掛け」。仙台箪笥の技能を現代のインテリアに取り入れた点が評価された

  • 2011年に受賞した「猫足両開き」。10年以上寝かせた素材を使い、職人が手仕事で作り上げる

    2011年に受賞した「猫足両開き」。10年以上寝かせた素材を使い、職人が手仕事で作り上げる

1872年創業の仙台箪笥店を2011年に先代から引き継いだ門間一泰氏。工房が被災したものの「職人は作業場と道具さえあれば仕事ができる」と気付き、3カ月後には事業を再開した。当時増えたのが古い箪笥のお直し依頼だった。「東日本大震災で全部失った人もいるからこそ、箪笥もこの機会にお直しして次世代に継承したいという方が多くいらしたのが印象的でした」。

同年に受賞したグッドデザイン賞での縁がきっかけで2017年、香港に店舗をオープン。現在は2店舗を運営する盛況ぶりだ。「今は海外での売り上げが8割と、受賞を機にビジネスモデルが完全に変わりました。大きな転換期になったことは間違いありません。今後はヨーロッパなどにも展開していきたいですね」。

土地の魅力を再発見できる 地域に根ざしたデザイン

  • ブルーファーム/ブルーファームカフェ

    ブルーファーム株式会社
    (宮城県)

  • 気仙沼線・大船渡線BRT

    東日本旅客鉄道株式会社
    (岩手県、宮城県)

PICK UP

いわて羊を未来に生かす i-woolプロジェクト(2020グッドデザイン賞)

岩手県、岩手めん羊研究所、LLPまちの編集室(岩手県)

廃棄されていた県産羊毛をブランド化

LLPまちの編集室 木村敦子氏

LLPまちの編集室
木村敦子氏

  • 県産羊毛i-woolを活用したショール

    県産羊毛i-woolを活用したショール

  • ホームスパンで活用するため、羊毛の汚れを取る洗い作業が欠かせない。i-woolプロジェクトでは生産者向けの洗い作業講習会も行っている

    ホームスパンで活用するため、羊毛の汚れを取る洗い作業が欠かせない。i-woolプロジェクトでは生産者向けの洗い作業講習会も行っている

羊毛を手紡ぎで織る「ホームスパン」は、岩手県の伝統工芸の一つ。輸入羊毛を使うことが一般的だが、県産羊毛をホームスパンに活用する取り組み「i-woolプロジェクト」が立ち上がった。「生産者の手が回らず、県産羊毛の多くは廃棄されていました。そこで、素材である羊毛自体を“i-wool”としてブランド化することで、生産者とホームスパン作家など関係者が一体となって取り組めると考えました」と木村敦子氏。i-woolの有効活用とともに、生産者と作家の関係構築に貢献した点が評価され、2020年にグッドデザイン賞を受賞した。

「今後は地域と生産者、作家の関係強化を図りつつ、海外展開も視野に入れたi-woolの事業化を進めたいと考えています」。

未来の可能性を広げる 伝統と革新のデザイン

  • 石巻工房

    株式会社石巻工房
    (宮城県)

  • 木製玩具ファーヴァ

    株式会社マストロ・ジェッペット
    (福島県)

  • ウルシトグラス

    株式会社松沢漆工房(旧:株式会社浄法寺漆産業)
    (岩手県)

  • 強化ダンボール(トライウォール)製組み立てテーブル

    今野梱包株式会社
    (宮城県)

  • COGY

    株式会社TESS
    (宮城県)

  • ティージーオーセンティッククラシック

    有限会社クレセントグース
    (宮城県)

PICK UP

さっこらproject(2018グッドデザイン賞)

株式会社幸呼来Japan(岩手県盛岡市)

裂き織りを通じて廃棄物削減や障害者雇用を実現

株式会社幸呼来Japan 石頭悦氏

株式会社幸呼来Japan
石頭悦氏

  • 美しい柄を作るには、織り方はもちろん、布の幅を一定に裁断することも重要。裁断も、障害のあるスタッフが対応している

    美しい柄を作るには、織り方はもちろん、布の幅を一定に裁断することも重要。裁断も、障害のあるスタッフが対応している

  • 「オニツカタイガー」とコラボレーションした製品。人工スエード生地の廃材を活用している

    「オニツカタイガー」とコラボレーションした製品。人工スエード生地の廃材を活用している

岩手県の伝統工芸で、古布を細く裂いて織り直す「裂き織り」。幸呼来Japanでは、アパレルメーカーなどで生じた余り布を活用して裂き織りを生産し、メーカー等でそれを商品に生かす仕組みを取り入れている。生産を行うのは技術を習得した障害者のスタッフ。「当社の取り組みは『産業廃棄物の削減』『伝統技術の継承』『障害のある方の雇用』を実現しています。一つのモデルで3点を満たしているのは珍しく、この点が評価されて2018年にグッドデザイン賞受賞につながりました」と石頭悦氏。

今後は障害のあるスタッフが講師役を務める、裂き織りのワークショップなどを実施予定。「裂き織りを通じて、より多くの人が障害者と関わる機会を提供したい」と石頭氏は語る。

地域の記憶をつなぐ 歴史・文化を紡ぐデザイン

  • あさひ幼稚園

    株式会社手塚建築研究所
    (宮城県)

  • 三津谷煉瓦窯再生プロジェクト

    NPO法人まちづくり喜多方、喜多方煉瓦會
    (福島県)

  • 思い出サルベージ

    思い出サルベージ
    (宮城県)

  • 猪苗代浅井邸蔵再生プロジェクト

    公立大学法人会津大学短期大学部
    (福島県)

  • 山元町震災遺構中浜小学校

    宮城県山元町
    (宮城県)

PICK UP

桜ライン311(2014グッドデザイン金賞)

認定特定非営利活動法人  桜ライン311(岩手県陸前高田市)

津波到達地点を「桜並木」で後世に伝える

認定特定非営利活動法人桜ライン311 岡本翔馬氏

認定特定非営利活動法人桜ライン311
岡本翔馬氏

  • デリケートな桜は、場所によって草刈りや剪定など、定期的な手入れが必須。桜を管理するスタッフの育成なども行っている

    デリケートな桜は、場所によって草刈りや剪定など、定期的な手入れが必須。桜を管理するスタッフの育成なども行っている

  • 2023年4月時点で2,133本の植樹が完了。花見の名所になりつつある場所も

    2023年4月時点で2,133本の植樹が完了。花見の名所になりつつある場所も

昔から津波被害の記録があった陸前高田市では、被害地点に石碑が建てられていた。しかしその教訓が生かされず、東日本大震災では大きな被害を受けた。そこで津波到達地点を後世に伝えるため、日本人になじみのある桜を植える活動を開始。地権者に植樹の許可を取りながら、全長170km、計1万7,000本の植樹を目指す。「被災から10年以上経過したからこそ、当時の記憶を残したいと思われる方もいます。地域の皆さまに寄り添って植樹の許可を得ていきたいです」と岡本翔馬氏。

2014年のグッドデザイン賞金賞の受賞も、活動の認知拡大の一因に。「われわれの活動は、市外の寄付金に支えられています。今後も植樹活動を継続し、記憶の風化を防ぎたいです」。

グッドデザイン賞とは

日本で唯一デザインを総合的に評価・推奨する仕組み。1957年に創設され、受賞総数は約5万件に上る。生活用品や家具、建築などの有形デザインから、システムやサービスなどの無形デザインまで、幅広いジャンルが応募の対象となる。

グッドデザイン賞では、理想や目的を果たすものを「グッドデザイン」と捉え、その質を評価。ユーザーにとっての使いやすさをはじめ、ビジネスに対する貢献度、社会に対する価値、持続可能性などの観点をバランス良く満たしているか審査が行われる。

グッドデザイン賞のシンボルであり、受賞商品の証である「Gマーク」。創設時から使用されており、国内認知度は80%以上に達する。受賞者は、商品パッケージやSNS、プレスリリースなどに「Gマーク」を利活用できる グッドデザイン賞のシンボルであり、受賞商品の証である「Gマーク」。創設時から使用されており、国内認知度は80%以上に達する。受賞者は、商品パッケージやSNS、プレスリリースなどに「Gマーク」を利活用できる

「東日本大震災とグッドデザイン賞 復興と新しい生活のためのデザイン展」

2011年度から2020年度の10年間で、東北6県および茨城県において、災害という課題に向き合ったグッドデザイン賞受賞作品500件以上を紹介した展示会。防災や復興を支える重要なデザインもピックアップされている。展示会は公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営し、東京ミッドタウン・デザインハブで2021年5月18日 (火) から7月5日 (月)まで開催された。

『東日本大震災とグッドデザイン賞2011−2021 復興と新しい生活のためのデザイン』

(フリックスタジオ、2022年)

「復興と新しい生活のためのデザイン」をテーマとし、展示会のデザインを中心に、東日本大震災や復興に関するデザインを取り上げた書籍