陸前高田企画株式会社

陸前高田企画株式会社

【岩手県陸前高田市】

国際経験生かし故郷の発展に尽力
地域資源の高付加価値路線で差別化を図る

企業情報

  • 企業名 陸前高田企画株式会社
  • ヨミガナ リクゼンタカタキカクカブシキガイシャ
  • 業種 その他の事業サービス業
  • 代表者 村上清氏[代表取締役]
  • 所在地 岩手県陸前高田市高田町字本丸323-4
  • TEL 0192-22-9105
  • WEB https://service.amazingtrip.jp
  • 創業年 2021年
  • 資本金 950万円
  • 従業員数 12人
  • 売上高 非公開

企業概要

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)での人事研修部長の経歴を持つ村上清代表取締役が、地元・陸前高田市の発展のために2021年に創業。観光企画事業として、国内のアッパーミドル層および海外富裕層向けに陸前高田の地域資源を使ったハイクオリティーな食や体験を提供し話題に。そのほか、ロゲイニングイベント、観光シャトルバスなどを使ったモニター実証、地域資源を活用した商品の開発・販売、人材育成にも取り組んでいる。

国連UNHCRでの経験生かし、故郷の復興へいち早くアクション

ロシアのウクライナ侵攻後、日本でもその活動が広く知られることになった国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)。紛争や迫害により国を離れざるを得なくなった人々を救う活動を行う国連組織での、人事研修部長の経歴を持つ村上清氏は、東日本大震災により壊滅的な状況になった自身の故郷、陸前高田の復興に尽力した。

世界を舞台に活躍する村上清代表取締役 世界を舞台に活躍する村上清代表取締役

2011年3月11日、村上氏は米国金融大手バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのアジア太平洋担当人事部長として、香港での会議に出席していた。村上氏が陸前高田市出身であることを知る人々から立て続けに連絡を受け、急きょ帰国。陸前高田市出身の国会議員らから成る会のメンバーで永田町に集まり、これから行うべきことを相談。関係各所に連絡して支援物資を送るなどすぐにアクションを起こした。

自身は3月17日に陸前高田入り。戸羽太市長と涙ながらの再会を果たす。東京に戻った村上氏は、同じUNHCR職員を務めた当時の内閣府防災担当副大臣、東祥三氏に連絡を取った。2人の間で共通認識としてある「難民キャンプ」を例に挙げ、仮設住宅を手配してもらう。そのほか、紛争時に世界に向けてまず行う「グローバルアピール」の手法で、陸前高田市の記者発表および市長のメッセージを英訳して各国の記者に送り届けた。

村上氏はさらに奔走する。陸前高田の状況を伝えるため、4月に東京・池袋で「第1回陸前高田フォーラム」を開催。マスコミや政治家、NGO、海外のメディアも多数訪れ、情報発信の効果を実感し、5月にも同じ東京の青山で写真展を開く。各国大使館に招待状を送り、ヨーロッパ、アジアの10カ国以上から訪れた大使らに、支援の約束を取り付けた。

特にシンガポールからは7億円という多額の支援を受ける。当初はその資金で学校の校舎建設を想定していたが、国の予算が下りることになったため、陸前高田市内全域から失われた「人が集まれる場所」を用意しようと、コミュニティホールに計画を変更。多民族国家シンガポール共和国が建国の際、さまざまな民族の人たちが集まれる場所を建設したというストーリーとも合致していたことから、全面的な賛同を得ることとなった。

陸前高田市コミュニティホールのエントランスにはマーライオンが鎮座。330人を収容する多目的ホールは「シンガポールホール」と名付けられた 陸前高田市コミュニティホールのエントランスにはマーライオンが鎮座。330人を収容する多目的ホールは「シンガポールホール」と名付けられた

国内外に働きかけ復興に奔走。持続可能な発展へ自ら起業

当時の村上氏の肩書は陸前高田市の「ふるさと大使」だった。「誰も対応できる人がいない状況でしたから、ふるさと大使として国や海外の要人とやりとりしました」と笑う。ほかにも、市のマスコットキャラクター「たかたのゆめちゃん」を誕生させたり、臨時災害放送局を立ち上げたりと、東京と陸前高田を往復しながらさまざまなプロジェクトに関わってきた。

その後、市の参与となり、「地域を持続可能なものにするためには民間が主導しなければいけない」と、新しい産業を立ち上げることにも尽力。大企業の誘致だけではなく、この地で誰かが新規のビジネスを立ち上げることも必要だと感じ、「行政の立場ではお膳立てまでしかできない」と、参与職を退いて2021年3月に陸前高田企画株式会社を立ち上げた。

「陸前高田の発展のためには、大きな夢を描いて、ワクワクしながら形にしていく人がいなくちゃいけない。そう自分が思っているからこそ、まず自分がやらなければ駄目なんだろうなと思いました」。まさに「隗(かい)より始めよ」である。

初年度は、観光庁の「地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携促進に向けた実証事業」、「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」を活用した実証事業を行った。

「いくら岩手県に来てくださいといっても、安比(あっぴ)高原の方がいいかもしれないし、三陸海岸という特徴を生かしたとしても日本中の海岸との勝負になる。陸前高田に来てもらうためには、どうしてもこれを体験してみたい、食べてみたい、触れてみたいという、キラリと光るものを示さないといけません」と村上氏。

そこで用意した国内富裕層向けモニターツアーの実証はこんな内容だった。初日=気仙大工左官伝承館でのランチ、杉の家での木工体験、箱根山展望台、本丸公園、鮨まつ田でのディナー、遊漁船上での花火観覧、箱根山テラスでの宿泊。2日目=黒崎仙峡散策、カキ棚上でのランチ、高田松原津波復興祈念公園、津波伝承館・道の駅。地域にある最上の食、体験、宿泊を惜しみなくつぎ込んでいる。

モニターツアーの様子。カキを養殖する「いかだ」にコンクリートパネルを張り、海上レストランとした モニターツアーの様子。カキを養殖する「いかだ」にコンクリートパネルを張り、海上レストランとした

「三陸には同じように素晴らしい資源があるのですが、そのためどの地域でもみんな同じようなことをやってしまっています。そうではなく、日本国内だけでなく世界にも打ち出せるオンリーワンのものを用意しないと競争力はありません」と言い切る。

起業から1年で実証事業を続々実行。高付加価値路線で差別化図る

国内富裕層向けモニターツアーのほかにも、大型復興プロセスを経験した陸前高田だからこそできる、研修プログラム作成のスタディーモニターツアー、2018年に姉妹都市提携を結んだ米国クレセントシティについて市内外に交流の経緯を周知する姉妹都市交流イベント、市内全域に点在する地域資源をまとめ、外国人富裕層に選ばれる観光地形成を目指すためのコンテンツ造成研修会など、初年度に行った実証実験は合わせて10件に上る。

陸前高田市を含む三陸沿岸地域でアウトドアレジャーが人気を集めており、誘客につながり始めていることから、こうしたアウトドアツーリズムの動きを経済活性化につなげるためのイベントモデルの実証も行った。市内観光ツアーとロゲイニング大会を1泊2日の行程に組み込んだ観光モデルで、首都圏を中心に10チーム、46人が参加。市民との交流や、陸前高田の発信に寄与する効果が確認できた。

ロゲイニングは、制限時間内にチェックポイントをめぐって得点を集めるアウトドアスポーツ ロゲイニングは、制限時間内にチェックポイントをめぐって得点を集めるアウトドアスポーツ

首都圏・仙台圏からの観光誘客において、利便性の高い交通が存在しないという課題があることから、仙台−陸前高田直行シャトルバスの実証も行った。結果、63日間で2,458人が利用。利用者のうち宮城県在住者の27%、首都圏在住者の14%が観光目的だった。既存路線と同水準の運賃では1便当たり平均約4万円の損失が出ることが分かり、事業性の課題も見えた。

観光客を迎え入れるだけではなく、外に売り出していくことも重要だ。「陸前高田にはいいものがあるのに、より付加価値が高まるような形で出していないという課題がありました」と村上氏。地方においては薄利多売よりも高付加価値路線で収益を上げるモデルにこそ可能性がある。「この地に眠っている希少価値の高い資源をきちんと整えて外に出していく、いわゆる地域商社的な役割も担っていきたい」と意気込む。

同時に、国際姉妹都市から特産物を輸入して市内外の業者や小売店に卸売りすることも計画している。クレセントシティのチーズやビールのほか、カリフォルニア州のワイン、キングサーモンなどが候補に挙がっているという。被災時に支援してくれた国や地域等とのつながりで「特別に創られた物」に価値があり、その物の持つ背景や込められた思いを理解してくれる人に届けたいという考えがある。

創業100年のルミアーノ・チーズ社が作るハードチーズ。陸前高田市産の塩が使われている。 創業100年を超えるルミアーノ・チーズ社が作るハードチーズ。陸前高田市産の塩が使われている
クレセントシティの地ビール会社Sea Quake Brewing社が両市の友好を記念して作った「KAMOMEエール」 クレセントシティの地ビール会社Sea Quake Brewing社が両市の友好を記念して作った「KAMOMEエール」

輸入の一方で、輸出事業も展開。2022年9月には特産品のイシカゲ貝をシンガポールへ初輸出した。輸入により新たな連携の機運を、輸出により市内へのインパクトを高める試みだ。

いろんな人が集まってチャレンジする多様性と可能性のある町に

今後は実証の結果を踏まえて観光事業をブラッシュアップしていくとともに、陸前高田の資源を活用した商品の開発・販売を行っていきたいと考えている。それは、自社の利益を追求するためではなく、あくまで陸前高田の発展を目的としていることが話の端々から感じられる。そんな村上氏に、今後の展望を聞いた。

「一つは、いろんな人が集まってくる場所になること。陸前高田市は2011年12月の時点で『ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり』を掲げています。高齢者、障がい者、外国人、LGBTQ…。マイノリティーとされる状況のある方が普通に生活できて、あるいは心に傷を負った方が再起していける場所として、新しく再生する町づくりをしているという文脈のある陸前高田はマッチしているのではないでしょうか」。

もう一つは、「新しいビジネスを起こすために、チャレンジしたい人たちが国内外から集まって、何らかの発信ができるような場所にしていく」こと。

村上氏は今後、陸前高田企画の本社を、スタートアップが生まれるインキュベーションとして整備したいと考えている。単に建物のことではなく、サポート体制も含めてのことだ。

現在、陸前高田企画の本社はプレハブ建て。「私はこれでいいんですけど」と村上氏は笑う。 現在、陸前高田企画の本社はプレハブ建て。「私はこれでいいんですけど」と村上氏は笑う

復興に際して大きな支援を受けたシンガポール、東日本大震災がきっかけで姉妹都市になったクレセントシティに恩返しするために、そのつながりを生かしていきたいとも考えている。「人的交流でジョイントベンチャーが生まれたら面白いですよね。そういう機会が陸前高田にはたくさんあるので、何かやりたい人がどんどん集まってくる。そんな場所にしていくのが私のしたいことです」。

社是は「ゆめをカタチにする会社」。あらゆる人が集い、ワクワクしながら自分の夢に向かってチャレンジできる。そんな多様性と可能性を持った陸前高田の未来は希望に満ちている。

村上氏
課題

・東日本大震災により故郷が壊滅的な被害を受ける。

・持続可能なまちづくりは民間が主導しなければいけない。

・市の発展のために「いろんな人が集まってくる場所になる」必要がある。

解決策

・ふるさと大使の立場ながら、UNHCRでの経験や人脈を生かして次々とアクションを起こす。

・市の参与職を退いて陸前高田企画株式会社を立ち上げる。

・「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を掲げる。

効果

・シンガポールからの7億円の援助をはじめ、国内外からさまざまな支援を取り付ける。

・起業初年度から実証事業を次々と実行し、観光と地域商社としての可能性を確認。

・多様な人がチャレンジできるように、サポート体制も含めた受け皿としてインターンを受け入れる。

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