復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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農地・農業用施設の復旧、営農再開に向けた取組

応急期復旧期復興前期復興後期

課題
① 農地・農業用施設の復旧をどのように進めるか
② 早期の営農再開にどのように取り組むか
③ 震災後の地域農業の担い手をどのように確保するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災では、被災地の基幹産業である農林水産業の被害額は阪神・淡路大震災の約26倍、新潟県中越沖地震の約18倍に当たる2兆3800億円にのぼった。このうち、農林業関係の被害額は1兆1200億円、津波により流失・冠水した農地は2万1480haに及ぶ。
 被災地では、農業の生産基盤となる農地のガレキ撤去や除塩対策、農業用施設の復旧、農業経営組織への支援などによる早期の営農再開が課題となった。また、農地の復旧に当たっては、単に震災前の原状に戻すのではなく、ほ場の大区画化や地域農業の担い手への農地の集約など農業の生産性の向上も課題となった。

東日本大震災における取組

農地・農業用施設の災害復旧事業(課題①)

 被災地では、国の補助により、ガレキや土砂の撤去、除塩等の農地の復旧、排水路・排水機場等農業用施設の復旧に取り組んだ。東日本大震災では津波による冠水被害が大きかったことから新たに除塩事業が創設されたほか、国の直轄事業としても農地の災害復旧が行われた。
 岩手県では、陸前高田市など沿岸8市町村からの要請を受け、農地・農業用施設災害復旧支援隊を派遣し被害状況を把握、県が代行して災害査定と復旧工事を行った(1)
 被災3県では、膨大な農地・農業用施設の災害復旧事業を実施するため、国や各都道府県に対して、農業土木技術者の派遣要請を行い、延べ9千人月の技術者が応援職員として派遣された(2019年度末時点)(2)

ほ場の大区画化の推進・他の復興事業との連携(課題①②)

 震災を契機に、より生産性の高い営農を実現するため、復興交付金等を活用して県が事業主体となり、農地の復旧とあわせてほ場の大区画化(0.5ha以上)が進められた。宮城県仙台市「仙台東地区」では、宮城県と仙台市の要望に基づき、国が直轄災害復旧事業として農地1900haを対象に大区画化工事を行い、営農組織の組織化・法人化も進められた(3)
 宮城県岩沼市などでは、津波で被災した沿岸部から高台に住宅を移転する防災集団移転促進事業と連携した農地整備により、移転元地等を含めた土地利用の整序化が進められた(4)

代替地の確保による産地の早期再開(課題②)

 宮城県亘理町・山元町のみやぎ亘理農業協同組合は、栽培面積96ha、生産農家380戸、販売数量3,600トンと、震災前は東北一のいちご産地を形成していた。震災により栽培面積の96%が被災したが、2011年10月までに内陸部の耕作放棄地を代替地として確保し、国の農業生産対策交付金を活用してパイプハウスを整備し、11月から震災前の2割の面積で土耕栽培によりいちごの生産・出荷を再開した。2012年から亘理町・山元町が復興交付金を活用して7団地の用地を造成、栽培用ハウス(40.6ha)を整備し、51戸が2013年9月から営農を再開した。この新しいいちご団地では、農家の作業効率を高めるため、床面から約1mの高さにプランターを設置し、肥料を溶かした養液を与えて栽培する高設養液栽培という新しい生産方式を導入した。さらに、いちご選果場が完成しいちごの生産が軌道に乗り、本格的に営農を再開、2018年には出荷額が震災前を上回った(事例 44-1)。

農事組合法人の設立による担い手への農地の利用集積(課題③)

 宮城県仙台市の仙台東地区荒浜集落は、震災前は兼業農家が多く、農業法人等が中心となって農作業を受託していた。震災を期に、中心となっていた法人が解散したことから、農地を引き継ぐ新たな受け皿が必要となった。当時、仙台東地区では国の直轄事業として農地の大区画化(30a→90a)が行われることとなっていたことから、農地利用のあり方についても検討課題となっていた。
 集落内で話し合いを重ねた結果、兼業農家41戸が中心となりJAが共同出資する農事組合法人せんだいあらはまを2015年1月に設立した。せんだいあらはまは、農家一人一人と利用権設定を行うのではなく、農地中間管理事業を活用して荒浜集落全体120haのうち88%の農地を集積、集約化した。大区画化されたほ場においては、大型機械を導入し、水稲、大豆、麦の低コストでの栽培や育苗ハウスによるミニトマト等高収益作物の栽培に取り組むなど、大規模農業を展開している(5)(6)

教訓・ノウハウ
① 農地・農業用施設の早期復旧、生産性の向上をめざした大区画化を進める

国や都道府県などの支援により農地・農業用施設の早期復旧を進める。

農地の復旧とあわせた大区画化により、経営規模の拡大、生産性の向上を図る。

防災集団移転促進事業と連携した農地整備による土地利用の整序化を検討する。

② 代替地の確保等により早期の営農再開を実現する

代替地を確保することにより早期の営農再開を実現し、さらに高度な栽培管理システムの導入等により産地復興を実現する。

③ 新たな担い手への農地の利用集積により農地の有効活用を図る

法人の設立等により、新たな地域農業の担い手を確保する。

農地中間管理機構を活用し、担い手へ農地を集積することで、離農者の農地の耕作放棄地・遊休化を防ぎ、農地の有効活用を図る。

<出典>
(1) 岩手県「東日本大震災津波からの復興―岩手からの提言―」2020年3月
https://www.pref.iwate.jp/shinsaifukkou/densho/1027741/index.html?theme=3

(2) 農林水産省「東日本大震災からの農林水産業の復興支援のための取組」2020年9月
(3) 農林水産省東北農政局「農業・農村の復興・再生に向けた取組と動き」2020年1月
https://www.maff.go.jp/tohoku/osirase/higai_taisaku/hukkou/torikumi.html
(4) 宮城県岩沼市「岩沼市復興整備計画について」
https://www.city.iwanuma.miyagi.jp/bosai/fukko/suishin/fukkoseibi.html

(5) 森田明「宮城県の水田地帯の震災復興」『農業研究』31:2018年297-307.
http://www.nohken.or.jp/31-8morita297-307.pdf

(6) 石原清史・平林光幸・畠幸司・小野智昭「宮城県津波被災地域における農業の復興」『農林水産政策研究所』編 『東日本大震災津波被災地における農業復興過程に関する現状と課題』2017年3月
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/170327_29sinsai1.pdf

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