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農地・農業用施設の復旧、営農再開に向けた取組
事例名 | 「いちご団地」の産地復興 |
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場所 | 宮城県亘理町・山元町 |
取組時期 | 応急期復旧期復興前期復興後期 |
取組主体 | 主体:宮城県亘理町・山元町 協力: 宮城県仙台市 |
取組概要
東北一のいちご産地である宮城県亘理町・山元町の生産者は、津波により壊滅的な被害を受けた。
内陸部に代替地を確保し、早期にいちご栽培・出荷を再開した。さらに、従来の土耕栽培から高設養液栽培という生産性の高い新たな栽培方法を導入したいちご団地・選果場を整備し、出荷金額が震災前を上回る等、着実に産地として復興している。
具体的内容
代替地の確保によるいちご栽培の早期再開
震災前の宮城県亘理町・山元町のみやぎ亘理農業協同組合は、震災前は東北一のいちご産地で栽培面積96ha、生産者380戸で、販売量3,600トンの生産を行っていた。しかし、東日本大震災の津波により、パイプハウスなどの施設や選果場等を含め、栽培面積の95%が被災し、壊滅的な被害を受けた。
早期に栽培を再開するため、畑として利用できる土地は限られていたが、内陸部の阿武隈川沿いにある亘理町逢隈小山地区の耕作放棄地をはじめとする代替地を確保し、東日本大震災農業生産対策交付金を活用して、パイプハウス等を整備した。苗については、県内や栃木県から無償で提供を受け、被災面積の2割程度となる栽培面積19.2ha、生産者数104戸により土耕での栽培を再開した。いちごの需要が最も高まるクリスマスに向けて出荷を目指した結果、2011年11月にはいちごを出荷することができた。
国の補助金を活用したいちご団地の整備
被災した生産者たちは、パイプハウスの再整備等いちご生産の早期営農再開に向けての支援を亘理・山元の両町に要望した。そこで両町は、JA等と連携して、2011年度から2012年度にかけて「東日本大震災農業生産対策交付金」を活用して大型ハウス・高設ベンチの補修やパイプハウス等の生産資材の導入を行った。また、2012年度、2013年度には「東日本大震災復興交付金」を活用して、亘理町・山元町であわせて7つのいちご団地(用地103ha、栽培面積41ha)といちご選果場(用地1.8ha、施設0.4ha)を新たに整備した。その結果、2013年9月から、151戸の生産者がいちごの栽培を再開することができた。
新たな栽培方法の導入と課題
いちご団地内での栽培の再開に当たっては、従来の土耕栽培から、作業効率が高い高設養液栽培を導入し、温度管理を自動化することで生産性の向上を図った。高設養液栽培とは、床面から1m程度の高さにプランターを設置し、養液を回流させることでいちごの栽培を行う方法である。土耕栽培では畝立て等の作業が必要であったが、この方法では、畝立て等の作業は不要となり、人は立ったままで作業することができ、作業の省力化、効率化が可能となる。
土耕栽培から高設養液栽培へ転換に伴い、生産者はそれまで経験のない栽培技術を習得する必要があったため、国、県、JAでは研修を実施するなどサポートを行った。その結果、亘理・山元のいちご団地では、10アールあたり5トン以上の収量を実現し、震災前から大幅に増加させることができた。ただし高設養液栽培の導入による維持管理に関する費用やパイプハウスの再整備など栽培環境に係る費用への対応は基本的にすべて生産者が行わなければならないため、生産者へコスト負担が大きくなってしまうという課題が残されている。
いちご産地としての着実な復興
当初は早期の生産復旧へのプレッシャーに加え、生産者の高齢化、また生産者自身の生活再建等が重なり技術習得に非常に苦労したものの、2015年には、栽培面積59ha、生産者218戸で、販売数量2,476トンとなる等、生産量は回復。高設養液栽培の導入もあり、2018年には販売金額が震災前を上回る34億円(栽培面積64ha、生産者232戸)となる等、産地として着実に復興を加速させている。
・梅本雅「小特集「震災と地域農業―食と農の視点から―」震災からの復旧・復興過程における農業経営と地域農業」農林業問題研究(2012年)p365-373
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arfe/48/3/48_365/_pdf
・農林水産省東北農政局「農業者等による復旧・復興取組事例 宮城県 東北一のいちご産地復興への取組」(2016年3月)
・同上「農業・農村の復興・再生に向けた取組と動き」(2021年2月)p17
https://www.maff.go.jp/tohoku/osirase/higai_taisaku/hukkou/torikumi.html
・農林水産省「東日本大震災からの農林水産業の復興支援のための取組」(2020年2月)p8
・宮城県「みやぎ復興プレス第43号」(2015年12月)
・農業生産対策交付金
・復興交付金
・2011年度~2012年度:事業費 10億6千万円(5億3千万円)
(東日本大震災農業生産対策交付金)
・2012年度~2013年度:事業費 205億円
(東日本大震災復興交付金)