復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

53)

復興ツーリズムの推進

復興前期復興後期

課題
① 災害の経験・教訓をどのように観光プログラムとして生かすか
② 復興ツーリズムを地域経済の活性化にどのように結びつけるか

東日本大震災における状況と課題

 被災地各地では、未曽有の大災害である東日本震災の教訓を次の世代の人々や国の内外に伝えるため、「震災伝承施設」の整備や震災遺構の保存、語り部たちによる伝承活動などの取組が続けられている。
 「復興ツーリズム」は、観光客が現地で災害・津波の経験や教訓、震災からの復興状況などを直接体験することで減災・防災意識を高めるとともに、水産業と並び商業・観光が主要な産業である沿岸部の被災地にとっても、交流人口の拡大や地域経済の復興に貢献する大きな意義を持つ。そこにおいては、震災の経験や教訓をどのように訴えるか、また本ツーリズムを通じて他地域からの来訪者をどのように拡大させ、地域経済の持続的な成長につなげていくかが重要な課題となった。

東日本大震災における取組

震災の体験から学ぶプログラムによる集客(課題①②)

 被災地のホテル・旅館事業者では、被災現場や震災伝承施設、震災遺構などを案内するプログラムを作成し被災地外からの集客の増加につなげている。
 宮城県南三陸町の南三陸ホテル観洋では、震災を風化させないようにするため、ホテルスタッフが町内の被災現場をバスで案内する語り部バスを運行(大人500円)し、震災の被害の実態を観光客に伝えている。この語り部バスの取組は、2017年度のジャパン・ツーリズム・アワード大賞の受賞など高く評価されている(1)

震災遺構を活用した防災学習(課題①②)

 津波により6階建ての建物の4階まで被災した岩手県宮古市田老地区のたろう観光ホテルは、2014年3月に市が建物を買い取り、津波遺構として保存されている。建物内部は、一般社団法人宮古文化交流協会の「学ぶ防災ガイド」に参加することで見学が可能である。震災当日、ホテル事業者が6階から撮影した津波の映像はここでしか見ることできず、2020年3月現在、延べ17万人が訪れている。宮古市では、たろう観光ホテルと震災メモリアルパーク中の浜を、日本語・英語・中国語の3か国語で「宮古市観光パンフレット」で紹介し、観光客に津波被害の甚大さを伝えている(事例53-1)。
 宮城県東松島市のKIBOTCHAは、「エンターテインメント」「教育」「防災」を融合したサービスを提供できる施設として、震災後に廃校となった小学校を活用して設立された観光施設である。設立にあたっては、震災で廃校になった旧野蒜小学校を、宮城県の「沿岸部交流人口拡大モデル施設整備事業補助金」を活用して改修・再整備し、「防災教育キャンプ」など様々な防災学習を行う観光施設として、被災地内外から観光客を集客している(2)

伝承団体・伝承施設のネットワーク化(課題①②)

 震災伝承をより効果的・効率的に行うため、「震災伝承ネットワーク協議会(3)」(東北地方整備局、青森県、岩手県、宮城県、福島県、仙台市)を設立し、「震災伝承施設」の登録のほか、マップや案内標識を整備している。点在している「震災伝承施設」をネットワーク化し、「3.11 伝承ロード」として防災・減災に関する様々な取組を推進することで、効果的な防災教育につなげている。2021年2月時点で271施設が登録され、123施設でピクトグラムによる情報発信が行われている。これらの「震災伝承施設」を活用した取組のひとつに「3.11伝承ロード研修会」というツアープログラムがあり、一般財団法人3.11伝承ロード推進機構(4)が企画・運営している。モデルコースには、宮城県女川町の「シーパルピア女川」、石巻市の「旧北上川築堤現場」などを巡り“賑わいの創出”を学ぶコースや、岩手県釜石市の「いのちをつなぐ未来館」、宮古市の「たろう観光ホテル」などを巡り“津波常襲地域の知恵と津波との戦い”を学ぶコースがあり、利用者の関心に応じて効果的に復旧・復興の取組を学ぶことができる(事例65-2)。

被災地を訪れ自らを成長させる学びの旅のプログラム「ホープツーリズム」(課題①)

 原発被害を受けた福島県では、報道だけでは伝わらない福島のありのままの姿(光と影)を知り、前例のない困難な状況のなかでも復興に挑戦し続ける福島の人々との対話を通して、震災・原発事故の教訓や復興について考え、自身ならこの逆境からどうすれば脱却できるのかを考えることで、自らを成長させる学びの旅「ホープツーリズム」を企画し推進している(事例53-2)。
 具体的には、原発事故による帰還困難区域の現場や津波被災現場、廃炉推進のための研究施設、新しいエネルギー源となるメガソーラー施設などの見学、困難な状況のなかでコミュニティの再生や新規ビジネスの事業化、農業・漁業の再生などに取り組む人々との対話、参加者によるワークショップなど中高生、公務員、企業を対象とした1泊2日、2泊3日のコースを企画している。

多様な市民の語り部ガイドによる町外の人との交流(課題①②)

 岩手県大槌町の一般社団法人おらが大槌夢広場は、2011年11月に設立された地域づくり団体であり、ツーリズムによる地域の活性化に取り組んでいる。高校生からシニア層まで幅広い年齢層の語り部ガイドが、大槌町の被災状況だけでなく、その経験を通した町民の変化や成長について観光客に話し、町外の人との交流を深めている(5)
 岩手県陸前高田市の一般社団法人マルゴト陸前高田は交流人口の拡大のため、学校の教育旅行や企業や大学生の研修旅行の誘致に取り組んでいる。この企画の一つである「復興最前線ツアー」では、市内の震災遺構の見学や巨大防潮堤、高田松原再生計画の工事現場などを案内し、陸前高田市の「過去」、「現在」、「未来」の姿を伝えている(6)

復興ツーリズム推進体制の整備(課題①②)

 岩手県では、震災学習を中心とした教育旅行や企業研修旅行を三陸観光の柱として推進するため、震災学習の一元的な窓口機能を担うプラットフォームを2013年度に設置し、震災学習の受入態勢を強化・拡充した。首都圏等における教育旅行等の誘致説明会において、学校関係者や旅行代理店、企業・地方公共団体の担当者に、沿岸地域の震災遺構の意義、現場で体験し学ぶことの重要性を発信し、集客の増加を図っている(7)

教訓・ノウハウ
① 震災を知らない人々に学びたいと思わせる集客プログラムを作成する

「震災伝承施設」や震災遺構を活用した震災を現地で学ぶプログラムを作成する。

地域の観光協会やボランティアと連携した語り部ツアーを推進する。

復興の現場を案内し、被災地の現状を伝える。

② 被災地外からの集客のための推進体制を整備する

行政機関や旅行・交通事業者など関係機関が連携した復興ツーリズムの推進体制を整備する。

首都圏をはじめ他地域からの集客のため、旅行代理店等にプログラムをPRする。

<出典>
(1) 南三陸ホテル観洋
https://www.mkanyo.jp/

(2) 貴凛庁株式会社・KIBOTCHA
(3) 震災伝承ネットワーク協議会
http://www.thr.mlit.go.jp/sinsaidensyou/sisetsu/index.html

(4) 一般財団法人3.11伝承ロード推進機構
https://www.311densho.or.jp/

(5) 一般社団法人おらが大槌夢広場
http://www.oraga-otsuchi.jp/index.php

(6) 一般社団法人マルゴト陸前高田
http://marugoto-rikuzentakata.com/

(7) 岩手県「東日本大震災津波からの復興―岩手県からの提言」2020年3月
https://www.pref.iwate.jp/shinsaifukkou/densho/1027741/index.html

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