復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

65)

震災遺構の保存・震災伝承拠点の整備

復旧期復興前期復興後期

課題
① 震災遺構の保存を巡る合意形成をどのように行うか
② 震災伝承の拠点をどのように整備、維持・管理するか

東日本大震災における状況と課題

 津波は同じ地域に繰り返し発生する再現性の高い災害であることから、被害を受けた建物や施設は津波の記憶を伝える重要な媒体であるが、一方で、被災者にとっては震災のつらい記憶を思い起こさせる媒体でもある。東日本大震災では、多くの建物等が震災遺構として保存すべきか解体すべきかの議論の対象となり、どのように合意形成を行うか、保存・維持管理に係る財源の確保等が課題となっている。また、広範な被災地に復興祈念公園や震災遺構、伝承館などの施設が点在しており、各施設の集客を確保するとともに、これらの施設を有効活用し、震災の経験や教訓を効果的に学べる仕組みが必要とされた。

東日本大震災における取組

震災遺構の一時県有化による検討時間の確保(課題①②)

 宮城県では、2013年11月に開催した震災遺構保存に関する沿岸15市町長会議の結果を受けて、民間有識者等で構成する宮城県震災遺構有識者会議を設置し、震災遺構保存の意義や、県内の震災遺構候補となっている各施設の価値等について評価を行った。例えば、宮城県南三陸町の防災対策庁舎は、2012年9月に町議会で「早期解体」を決定していたが、2015年1月に出された有識者会議の報告書において、「震災遺構として、ぜひ保存すべき価値がある」と評価された(1)。この報告を受け、宮城県では、南三陸町に対して、防災対策庁舎の県有化、一定期間経過後に保存の是非を判断することを提案し、南三陸町では、特別委員会での議論等を通して県有化や保存について検討を重ねた。その結果、2015年9月に旧南三陸町防災対策庁舎の一時保存に関する協定書が締結され、震災から20年後の2031年3月まで県が維持管理の責任を担うことが決まった(2)(3)(4)

地域住民が参加する震災遺構の保存・解体を検討する場づくり(課題①②)

 宮城県石巻市では、被災した門脇小学校庁舎及び大川小学校校舎について、震災遺構として保存した場合の課題や整備費用、維持管理経費等の検討を行うため、「石巻市震災遺構調整会議(2015年6月~12月)」を設置した。また、市民アンケート調査や要望書を提出していた2協議会との意見交換、震災遺構に関する公聴会などを実施し、2016年3月に門脇小学校校舎は一部又は部分保存、大川小学校校舎は全体保存を決定した。その後、両校の整備に幅広い意見を反映させるため、有識者、地域住民、NPO、行政機関によって構成された「震災遺構検討会議(旧門脇小学校校舎)」、「震災遺構検討会議(大川小学校旧校舎)」を設置(2016年7月~2017年3月)し、計5回の会議を通して様々な意見を聴取しながら整備方針を策定した(事例65-1)。

国の交付金や寄付金等を活用した震災遺構の保存・維持管理(課題②)

 復興庁では、復興交付金を活用して保存のために必要な初期費用の支援を行った。支援の対象は、1)復興まちづくりとの関連性、2)維持管理費を含めた適切な費用負担のあり方、3)住民・関係者間の合意、が確認されるもの、とされた(5)

関係者の連携による復興祈念公園・震災遺構・伝承館等の一体的整備(課題②)

 岩手県、宮城県、福島県においては、復興祈念公園の整備が進められている。国は、地方公共団体と連携し、地方公共団体が整備する復興祈念公園の中に、国が中核的施設となる丘や広場等を設置するかたちで、国営の追悼・祈念施設を整備している。
 岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」は、大津波に耐えた復興のシンボルとして被災地内外の人々に親しまれており、市では、一本松を保存するため、「奇跡の一本松保存募金」を創設、2013年7月に目標額の1億5千万円に到達し、同年度内に一本松の保存が完了した(6)。陸前高田市には「高田松原津波復興祈念公園」が整備され、敷地内には「東日本大震災津波伝承館」や「道の駅高田松原」とともに、震災遺構である「旧道の駅タピック45」や「奇跡の一本松」等が一体的に整備され、2019年9月から一部利用が開始されている(7)。また、福島県双葉町中野地区に整備された東日本大震災・原子力災害伝承館は、復興祈念公園に隣接して整備され、2020年9月に開館し、複合災害の記録と経験・教訓、復興の歩みを将来へ伝える拠点となっている(8)

「3.11 伝承ロード」による伝承団体・伝承施設のネットワーク化(課題②)

 一般財団法人3.11伝承ロード推進機構(9)は、「震災伝承ネットワーク協議会(10)」と連携し「震災伝承施設」のネットワーク化による「3.11伝承ロード」の様々な取組を推進している。「震災伝承施設」は、訪問や理解のしやすさ等に応じて第1分類~第3分類の3つに分類されている。案内人の配置や語り部活動等により来訪者の理解の促進に配慮された施設は、共通のピクトグラムを施設の案内標識等に使用できるなど、統一したコンセプトで伝承施設を幅広く広報している。個々の施設を「点」ではなく「ネットワーク」として結ぶことで、効果的な防災教育につなげている(事例65-2)。

教訓・ノウハウ
① 震災遺構の保存については、十分な期間をかけ、多様な意見を収集・検討する

震災遺構の保存については、行政機関、商工観光関係事業者、市民、有識者など多様な主体の参画による協議の場を設ける。

時間経過とともに民意は変化する可能性があり、協議する時期や期間を十分に検討する。

② 官民が連携・協力し、「震災伝承施設」の整備・維持管理を行う

交通の利便性を考慮した立地、観光・交流施設との一体的整備により、集客を図る。

公的資金だけではなく、寄付金や募金など、さまざまな方法で維持管理資金を確保する。

「震災伝承施設」等のネットワークを形成して被災地全体として統一感のある伝承活動を行う。

<出典>
(1) 宮城県震災遺構有識者会議「宮城県震災遺構有識者会議報告書」2015年1月
(2) 南三陸町「南三陸町東日本大震災対策特別委員会会議録」2015年2月13日
https://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/index.cfm/17,12914,c,html/12914/20170104-102459.pdf

(3) 南三陸町「南三陸町防災対策庁舎の「県有化」に係る意見募集結果」
http://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/index.cfm/8,7750,47,407,html

(4) 宮城県「みやぎニュースクリップ/旧南三陸町防災対策庁舎県有化の一時保存に関する協定書締結」2015年9月1日
(5) 復興庁「震災遺構の保存に対する支援について」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m13/11/20150121091851.html

(6) 陸前高田市「奇跡の一本松保存募金について」
(7) 岩手県「高田松原津波復興祈念公園 基本構想」
(8) 東日本大震災・原子力災害伝承館
https://www.fipo.or.jp/lore/

(9) 一般財団法人3.11伝承ロード推進機構
https://www.311densho.or.jp/

(10) 震災伝承ネットワーク協議会
http://www.thr.mlit.go.jp/sinsaidensyou/sisetsu/index.html

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