66)
災害の記憶・記録・経験の継承
復旧期復興前期復興後期
② 次世代の伝承の担い手をどのように育成するか
東日本大震災における状況と課題
被災地では、各地で様々な震災伝承施設の整備や伝承プログラムが実施されているが、多くのプログラムで2012~2013年をピークに利用者数が年々減少傾向にあり(1)、時間の経過に伴い災害の記憶が薄れていく中で、再び悲惨な被害を繰り返すことがないよう、より多くの人々に被災地を訪れてもらい、理解しやすい形で震災の体験や災害がもたらした出来事を伝承するプログラムが必要とされている。さらに、案内人や語り部の高齢化を見据え、次世代の担い手を育成し、伝承活動を継続していくことが求められている。
東日本大震災における取組
震災遺構と語り部等を組み合わせた伝承プログラム(課題①)
宮城県気仙沼市にある「気仙沼市 東日本大震災遺構・伝承館」は、2019年3月にオープンした伝承施設であり、震災遺構である「旧気仙沼向洋高校」と展示や研修会場を備えた伝承館が併設整備されている。気仙沼市の階上地区まちづくり協議会では、2018年3月に語り部部会を設立し、伝承館での語り部ガイドも担っている。また、2019年10月からは階上中学校の生徒達による伝承館のガイドも行われており、地域全体で震災伝承に取り組んでいる(2)(3)。
伝承施設と慰霊・交流施設との一体的整備とオンラインガイド(課題①)
岩手県釜石市鵜住居駅前に整備された「うのすまい・トモス」には、震災伝承と防災学習の推進施設である「いのちをつなぐ未来館」、慰霊追悼施設である「釜石祈りのパーク」、観光交流拠点施設である「鵜の郷交流館」が一体的に配置されている。「いのちをつなぐ未来館」では、防災リュックに詰める中身を考える防災ワークショップや、東日本大震災発災直後に小・中学生が津波から避難した道を当時の体験談を聞きながら辿る避難路追体験プログラムなど、実践・体験できるプログラムが提供されている。また、来館できない人のために、震災を経験したスタッフによるオンライン語り部や館内展示施設のオンラインガイドも実施し、震災経験や教訓の普及拡大を図っている。駅前の利便性の良い場所に震災をテーマとした施設を集合配置することで人が集い交流し、持続可能な震災伝承につなげている(4)。
津波の浸水区域や高さを伝える「津波浸水表示板」の設置(課題①)
宮城県では、東日本大震災の津波の浸水区域や高さを標識等で表示することにより、実物大のハザードマップとして住民の避難の備えを促し、防災啓発を図っていくため、2011年度から道路情報表示板の支柱など既設の施設を活用して「津波浸水表示板」の設置を進めてきた。2013年6月には「3.11伝承・減災プロジェクト 津波浸水表示板基本計画」を策定し、所有する建造物等に津波浸水表示板を設置できる個人や一般企業等を「伝承サポーター」として認定し、表示板の普及拡大を図っている。2018年10月末時点で203者が「伝承サポーター」に認定されており、郵便局や町内会の集会所、小学校等さまざまな場所に「津波浸水表示板」が設置され、防災意識の継続を呼びかけている(5)。

津波浸水表示版
(宮城県「3.11伝承・減災プロジェクト)
次世代を担う若者の主体的な伝承活動(課題①②)
宮城県の女川町立女川中学校では、2011年4月の1年社会科の授業をきっかけに、生徒たちが募金を集め、町内21箇所全ての浜の津波到達地点より高い所に石碑を建てることを目指した「女川いのちの石碑プロジェクト」がスタートした。このプロジェクトには、保護者や地域住民、全国・外国からの有志も加わり、「女川いのちの石碑」の建立が進められた。この生徒たちは、中学卒業後も「女川1000年後のいのちを守る会」を設立し、石碑の建立や全国各地での防災活動のほか、『女川いのちの教科書」の作成に取り組み、震災の経験を伝え続けている(事例66-1)。
岩手県大槌町では、地元の高校生の企画提案に地元住民等が協力し、「木碑プロジェクト」が行われた。このプロジェクトは、あえて時間を経ると朽ちてしまう木で記念碑を作ることにより、そこに暮らす人々の記念碑の建て替えに伴う継続的な活動を醸成しようとするものである(6)。
伝承活動を担う人材の育成(課題②)
「3.11メモリアルネットワーク」は、岩手県・宮城県・福島県の3県を中心に活動を展開する広域伝承組織であり、各地の伝承活動のサポート等に取り組んでいる。2018年3月から実施されている「若者トーク」では、若者が震災経験の話し手や聞き手として参加し、当時の経験を共有したり、震災伝承のあり方について意見交換を行ったりなど若者による情報発信の場となっている。2020年に開催された「3.11伝承力アップ講座」では、全4回の講座を通して、伝承活動に必要な力を学ぶ機会が提供された。また、企業や個人からの寄付で運営する「3.11メモリアルネットワーク基金」では、優れた伝承事業を企画・実施する団体へ助成を行い、伝承活動の継続を支えている。(事例66-2)。
震災伝承活動の課題共有や全国発信の場づくり(課題②)
2016年3月より毎年、宮城県南三陸町等において「全国被災地語り部シンポジウム」が開催され、震災の風化防止や後世への継承に関するさまざまな取組の紹介や意見交換が行われている(7)。
復興庁では、2016年度より、「新しい東北」の創造に貢献する個人・団体の活動を広く情報発信し、被災地内外への普及・展開を図ることを目的として、「新しい東北」復興・創生顕彰が創設され、震災伝承や防災活動に関する取組も顕彰されている(8)。
被災経験者による語り部や震災遺構の見学、体験型学習など、震災の経験を効果的に追体験できるプログラムを作成する。
行政機関・地域住民・NPO団体・学校などが協働・連携して伝承活動を行うことや、震災伝承のみならず観光や産業などを組み合わせることで、活動の持続性・有用性を高める。
学校や地域において若者世代が震災伝承や防災活動に関わる機会を提供し、震災の経験を伝える重要性や活動方法について学べるようにする。
震災伝承に必要な知識・技術の習得機会の提供や助成金等により活動の企画・継続を支援する。
行政機関等によって、各地の伝承活動の現状や課題を共有するとともに、全国に発信する場を設け、取組の普及・拡大につなげる。
(1) みらいサポート石巻「震災伝承ケーススタディ報告書」2019年3月
https://311support.com/report_311disastereducation
(2) 気仙沼市 東日本大震災遺構・伝承館
https://www.kesennuma-memorial.jp/
(3) 階上地域まちづくり振興協議会階上語り部部会
(4) うのすまい・トモス
https://www.unosumai-tomosu.jp/index.html
(5) 宮城県「3.11伝承・減災プロジェクト」
https://www.pref.miyagi.jp/site/0311densyogensaip/
(6) KATALIBA News「震災から6年 木碑プロジェクトの今」
https://www.katariba.or.jp/news/2017/06/09/9109/
(7) 南三陸ホテル観洋「スタッフブログ」
(8) 復興庁「新しい東北」
https://www.newtohoku.org/kenshou/index.html