復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

66-2)

災害の記憶・記録・経験の継承

事例名 3.11メモリアルネットワーク
場所 岩手県、宮城県、福島県
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 個人会員(語り部、支援者等の伝承関係者):500、登録団体(伝承関係団体):70
アドバイザー:復興庁宮城・岩手復興局等、行政、研究機関の12組織(2020年12月現在)

取組概要

 震災の伝承活動に取り組む個人・団体のネットワークを形成し、行政・民間企業や研究機関、メディア等と連携しながら、伝承活動に係る人材育成や「3.11メモリアルネットワーク基金」募集など、持続可能な伝承活動に向けて様々な事業を展開している。

具体的内容

3.11メモリアルネットワークの設立

 3.11メモリアルネットワークは、震災1年後から石巻地域の伝承に関する議論を行ってきた石巻ビジターズ産業ネットワーク伝承部会が発展的に解消する形で、2017年11月17日に設立された組織である。東日本大震災の経験を根底に据え、教訓の伝承に関わる個人・団体・拠点施設が地域や世代を超えてネットワークでつながり、過去に向き合い未来へ備える意識を全国、世界と共有しながら、「災害で命が失われない社会の実現」「被災者や被災地域の苦難を軽減し、再生に向かうことのできる社会の実現」を目指して活動している。
 震災伝承、防災・減災活動の「連携」「企画」「育成」を三本柱に掲げ、岩手・宮城・福島の3県を中心に活動を展開しており、2020年12月時点で個人会員500人・登録団体70団体となっている。

被災地における伝承活動のサポート

 3.11メモリアルネットワークでは、自治体の枠を越えて各地の伝承拠点をつなぐしくみ作りや、次世代への継承を見据えたソフト事業の継続的実施に係る資金確保を課題と捉え、以下のような事業を展開している。

1)東北各地の震災伝承に関する情報共有・発信による連携促進
 会員が登録するメーリングリストによる東北各地の伝承活動共有、メディアのデータベースの共通利用、全体会による県域をまたいだ活動理解の他、WEBサイトやパンフレットにより会員活動の発信や会員・基金の募集が行われている。
 また、行政機関、伝承施設、伝承団体への訪問のほか、全体会での交流やアンケート等から、常に会員や伝承活動の現場の課題を把握し、活動に反映している。2020年には、新型コロナウイルスに関して緊急アンケートを2回実施し、2020年3〜5月の3ヶ月間の受入数が2019年の同期間と比べて95%減(35,017名から1,791名)という多大な影響があることを迅速に可視化し、多くのメディアにも取り上げられた。
 新型コロナウィルス感染症に対しては、東北外への発信をオンライン報告会に切り替えるなど柔軟に対応し、東北の伝承者全体の困難な環境と前向きな取り組みの双方を提示できるネットワークへと基盤の整備を進めている。


2)県域をまたいだ協働での学びあい、企画
 震災伝承に取り組む会員等を対象に、東北各地で視察・交流の機会を設けており、学びあい交流プロジェクトや、視察、交流会を通じて宮城県から始まった活動が岩手県、福島県にも展開しつつある。
 発足当初から、会員の自主企画としてシンポジウムや3県での学びあいや交流が推進されているほか、次世代への継承を見据えて『伝承者を育てる』の副題で広島から講師を招いた企画も行われている。
 2020年には、「3.11伝承力アップ講座」が4回開催され、伝承活動に取り組む関係者や伝承活動に興味のある人が、他地域の事例と共に、伝承活動を支える組織基盤など、“伝え続けるために必要な力”を学ぶ機会が提供された。


3)震災伝承に係る人材育成
 「若者トーク」は、2018年3月から実施されている企画であり、若者が震災経験の話し手(語り部)や聞き手として参加し、当時の経験や伝承活動の共有、震災伝承のあり方に関する意見交換等を通して、若者による情報発信の場を提供している。
 また「メディアコラボ」企画では、災害における事実・教訓を伝える役割を担うマスメディアと語り部が共に考え、次世代の伝承方法や情報を受け取る側のメディアリテラシーの向上に寄与することを目的として、メディア関係者による講演や若者とのグループディスカッションが行われた。


4)「3.11メモリアルネットワーク基金」による伝承団体の支え
 会員同士のネットワーク促進に留まらず、伝承活動を支える「3.11メモリアルネットワーク基金」の設置が提案され、企業から2年分の助成資金と組織基盤強化の資金を得て、民間企業や個人寄付により財政的にも伝承の活動を支える仕組みがスタートしている。
 「3.11メモリアルネットワーク基金」では、外部委員会の審査を経て選定された「連携」「企画」「育成」の視点を持つ優れた伝承事業を企画・実施する団体へ助成が行われ、伝承活動の継続を支えている。
 2020年5月には、新型コロナウイルスの拡大により活動ができなくなっている東日本大震災の伝承活動をサポートするため、同基金による新型コロナウイルス緊急対策助成が提案され、インターネット配信による震災伝承・防災・減災活動事業など11団体の事業に助成が行われた。

成果につながった工夫や要因

1)石巻ビジターズ産業ネットワークからの官民連携、相互理解の積み上げ
 災害後の教訓伝承という重要ながらも被災地で声をあげにくい課題に対し、被災1年後に、交流人口拡大を議論するための「石巻ビジターズ産業ネットワーク」設立を機に議論が開始された。石巻は犠牲者が最多であり、他地域よりも多くの団体・個人が伝承活動を行っており、地域において活動の調整や相互理解が求められるようになり、連携が始まった。
 3.11メモリアルネットワークは、伝承当事者から行政に向けてボトムアップで声がけする地域主体の連携体として、伝承の課題や可能性を一都市から被災地全体に拡大する形で、発展的に設立された。


2)新潟中越地震や阪神・淡路大震災の事例の学び
 3.11メモリアルネットワークの設立前から、伝承当事者が神戸や中越、広島などへの3回の視察から得られた約1000枚のシートを整理し、中間組織に関する14回の議論を経て、求められる機能を「連携」「企画」「育成」の3つに整理し、日本で初めての住民主体の広域伝承組織が誕生した。


3)参画の仕組みと代表の投票推薦制度と開かれたガバナンス
 3.11メモリアルネットワークへは誰でも参加可能であり、設立総会で決定された1,000円/年の個人会員と5,000円/年の登録団体があるほか、職員個人が会員を負担しづらい行政機関向けに「アドバイザー」による参画を促している。
 失われた命の重さとそれぞれのストーリを背負った伝承の担い手の「代表」を決めることの難しさから、大川伝承の会より会員全員に開かれた役員推薦投票制度が提案され、全会員が投票・被投票権を持つオープンな形で役員が選出された。設立経緯から、当初は石巻中心の役員構成であったが、2年後には、岩手・宮城・福島から推薦者が出させる形で2回目の推薦投票が行われ、3県から満遍なく理事が選出される形で、事業目的、事業内容、団体の構成が統合されていった。
 また、毎月の役員会は全会員とアドバイザーが傍聴可能であり、広域の多様なアクターをつなぐために透明性を高めたガバナンスを意識して運営されている。


4)訪問、アンケート、ワークショップ、全体会などによる会員意向の把握
 行政、伝承施設、伝承団体への訪問の他、全体会での交流、アンケートなどから、常に会員や伝承活動の現場の課題を把握し、活動に反映してゆく仕組みとしている。


5)コロナ禍の影響アンケート調査、オンライン報告会
 新型コロナウイルスの影響を2回に分けて調査し、24団体の合計で震災伝承プログラム参加者に4.4万人のキャンセルがあり、3~5月の伝承プログラム参加者が昨年比95%減となるなど、3県全体へのインパクトを迅速に可視化し、複数のマスメディアにとりあげられた。東北外への発信をオンライン報告会に切り替えて柔軟に内応するなど、東北の伝承者全体の困難な環境と前向きな取り組みの双方を提示できるネットワークへと基盤を整えつつある。


6)3.11メモリアルネットワーク基金による伝承団体の支え
 会員同士のネットワーク促進に留まらず、伝承活動を支える3.11メモリアルネットワーク基金の設置が並行して提案され、企業から2年分の助成資金と組織基盤強化の資金を得て、民間企業や個人寄付により財政的にも伝承の活動を支える仕組みがスタートしている。

次の災害に向けた反省や失敗事例(取組主体からの聞き取り内容)

1)行政からのコミットの少なさ
 震災から10年を迎える段階でも、地域主体の伝承活動を総合的に支える制度(予算)がなく、東北各地の伝承施設や遺構、祈念公園ごとに官民連携のあり方が異なっている状況である。
 伝承当事者主体のネットワークゆえに、アドバイザーを構成する組織からの参画やコミットを得られにくい状況がある。アドバイザーの離任や、シンポジウムへの後援不継続など、官民連携継続の難しさが伺える。


2)第1期理事、地元を考えたい役員の離任
 ネットワーク設立時の石巻を中心とした理事は、役員離任後に地元石巻で伝承活動を行うための別団体を立ち上げており、地元の現場と東北全体のネットワークの両立をさせることの困難さを示している。


3)行政訴訟に起因する難しさ
 東日本大震災は、多くの行政訴訟が行われている点が過去の災害と異なる点の一つであり、訴訟中の案件について行政からのコメントが難しいためか、伝承主体や内容、対象について議論や事業が進みにくい。

今後の政策等への提言(取組主体からの聞き取り内容)

1)災害後の教訓伝承の公的な位置づけや予算措置可能な体制の確保
 復興構想第1原則に「教訓の伝承」、第2原則に「地域・コミュニティ主体の復興」が掲げられ、東日本震災直後から被災住民が自発的に開始した「語り部」等の伝承活動や当事者目線での防災教育は重要である。
 復興庁令和3年度予算要求の「基本的考え方」には、“記憶と教訓を後世へ継承”が掲げられているが、直接的に教訓・継承の取り組みを促すソフト施策への予算措置は行われていない。予算要求を挙げるべき省庁や部署が無いことが一因と考えられるが、計画や方針に掲げるのみではなく被災者主体、地域主体の復興、伝承、防災の取組を促進するよう、東日本大震災後の反省点も見据えて、具体的な対策の提示や予算化・制度化を試み、今後につなげる必要がある。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・復興庁「東日本大震災から7年 事例に学ぶ生活復興」(2018年4月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/04/20180409160607.html

・3.11メモリアルネットワーク「新型コロナウイルス影響アンケート(第2弾)」(2020年5月)
https://311mn.org/repo10

・3.11メモリアルネットワークホームページ https://311mn.org/
<活用された制度>
・事務局法人が間接的に被災者支援コーディネート事業(復興庁)によりサポート
<事業費>
・2017年度:約46万円、2018年度:71万円、2019年度:2,185万円

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