16)
災害後の学校運営・教育
復旧期復興前期復興後期
② 学校と地域のつながりをいかに再生するか
東日本大震災における状況と課題
震災により甚大な被害を受けた被災地の学校では、この経験を風化させることなく、今後の災害への備えや復興に生かしていくため、実効性のある復興教育や防災教育の展開が重要となった。また、学校等を核とした地域の絆を強化するため、広く住民の参画を得て、地域の特色を生かした防災教育等を進める必要性が指摘され(1)、住民の避難や転出等により変容した学校と地域コミュニティとのつながりをどのように再生させていくのかが課題となった。
東日本大震災における取組
国における学校安全・防災教育の促進(課題①)
文部科学省では、「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」の作成(2012年3月)(2)や学校安全資料「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」の改訂(2019年3月)(3)など、学校防災の充実に取り組んでいる。2016年度には、「学校安全ポータルサイト『文部科学省×学校安全』」(4)を立ち上げ、都道府県等における取組を紹介するなど、積極的に情報発信を行っている。また、東日本大震災の津波被害に係る大川小学校事故訴訟を踏まえ、2019年度には、全国の学校に防災教育等の見直しを求める通知(5)を発出し、実践的な防災教育の一層の推進を図っている。
被災3県における防災教育の推進(課題①②)
宮城県では、2012年4月から県内全ての公立学校に「防災主任」を、各市町村の拠点となる小中学校に「防災担当主幹教諭」を配置したほか、2012年10月には防災教育、交通安全、生活安全(防犯を含む)の3領域を網羅した県独自の新指針「みやぎ学校安全基本指針」を策定し、2020年12月には、「子供たちの命を守る新たな学校防災体制の構築に向けて」を公表するなど、学校安全の更なる取組の推進を図ってきた(6)(7)。2014年度から始まった「みやぎ防災教育推進協力校事業」では、「みやぎ防災教育副読本『未来へのきずな』」を活用した防災教育の授業を実践することを通じて、県内各学校で活用できる防災教育のモデル(みやぎモデル)づくりが行われた(8)。また、仙台市立郡山中学校では、「防災教育チャレンジプラン」(防災教育チャレンジプラン実行委員会)実践校として、中学生が主導する地域防災訓練を実施し、地域防災力と防災・減災意識を高め、地域と協働する教育を実践している(9)。
岩手県でも、2012年2月に「いわての復興教育」プログラムを作成し、県内全ての市町村ごとに指定した50校の「復興教育推進校」(小中県立学校)で実践するなどして、岩手県の未来を担う子どもたちの育成に取り組んできた。とりわけ、震災後、大槌町立大槌学園(義務教育学校)と大槌町立吉里吉里学園(併設型小中一貫校)とで小中一貫教育が行われている大槌町では、「生きる力」と「ふるさと創生」を基盤とした特別の教育課程として「ふるさと科」が推進されている。「ふるさと科」では、学校・地域・家庭が連携・協働しながら、地域での職場体験学習や地域住民との合同避難訓練等さまざまな学習が行われ、独自の復興教育や防災教育、キャリア教育が実施されている(事例16-1)。
同様に、福島県でも、東日本大震災での経験を踏まえ、地域の状況や児童生徒の実態に応じた独自の放射線教育・防災教育を展開するため、指導資料や実践事例集などを作成・公表し、その活用を促すことで、子どもたちが放射線や防災に関する基礎知識を身に付け、これからの社会づくりに貢献しようとする態度を養うことができるよう、放射線教育・防災教育に力を入れてきた(10)。
福島県における未来創造型教育の展開(課題①②)
福島県双葉郡では、元の校舎での授業再開の目処が立たない中、2013年7月に双葉地区教育長会主催の「福島県双葉郡教育復興に関する協議会」(2012年12月設置)が県立中高一貫校の設置を柱とする「福島県双葉郡教育復興ビジョン」を決定・公表し、県と双葉郡地方町村会の協議の末、2015年4月に福島県立ふたば未来学園高等学校が、2019年4月に同中学校が開校した。ふたば未来学園では、「変革者たれ」を建学の精神、「自立」「協働」「創造」を校訓として「未来創造型教育」を展開しており、地域課題の解決に実践的に挑戦する「ふるさと創造学」(未来創造学(中学校)・未来創造探究(高校))など特色ある教育活動が行われている(11)。
復興まちづくりや津波防災への参画(課題①②)
岩手県立宮古工業高等学校機械科では、震災前より、津波発生時の浸水の様子を再現できるようにした津波模型を活用し、地域のイベントや近隣の小中学校での出前授業を行っていた。震災以降は、津波災害への関心の高まりを受け、全国での出前講演や海外からの見学の受入を行うなど、活動の範囲を拡大して津波防災の普及に努めている(12)。
岩手県立大槌高等学校では、生徒も地域の復興まちづくりに参画し、区画整理に関するアイデアや新たなまちづくりの方針に関する提言など、高校生の視点から復興への貢献を続けてきた。こうした生徒たちの取り組みが「復興研究会」の発足につながり、町内180地点の写真を2013年4月から年3回撮影して変わりゆく街並みを記録する定点観測や、県外の高校生との交流を通して復興の取組を伝える活動を行っている(13)。
各校の参考となる教育プログラム・カリキュラムの作成や防災担当教員の配置等により防災教育を推進する体制を確立する。
地域コミュニティや関係機関等と連携し、実践的・効果的な防災教育・復興教育を行う。
地域や地域の課題について学び、考える機会を設ける。
復興まちづくりや地域防災活動への若者の参画を推進し、地域の人々との交流を促進する。
(1) 東日本大震災復興構想会議「復興への提言~悲惨のなかの希望~」2011年6月25日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/hukkouhenoteigen.pdf
(2) 文部科学省「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」の作成について
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1323513.htm
(3) 文部科学省「学校安全資料『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」について
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1416715.htm
(4) 文部科学省「文部科学省×学校安全」
https://anzenkyouiku.mext.go.jp/
(5) 文部科学省「自然災害に対する学校防災体制の強化及び実践的な防災教育の推進について(依頼)」(2019年12月5日元教参学第31号)
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1422067_00001.htm
(6) 宮城県学校防災体制在り方検討会議「子供たちの命を守る新たな学校防災体制の構築に向けて」
(7) 宮城県教育委員会「みやぎ学校安全基本指針」
(8) 宮城県教育委員会「みやぎ防災教育推進協力校事業」
(9) 防災教育チャレンジプラン「2017年度実践団体の報告「仙台市郡山中学校」」
(10) 福島県教育委員会「放射線教育・防災教育関連情報について」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/edu/gimukyoiku29.html
(11) 福島県立ふたば未来学園
https://futabamiraigakuen-h.fcs.ed.jp/
(12) 岩手県立宮古工業高等学校「津波模型による地域防災の取組」
(13) 岩手県立大槌高等学校「復興研究会」
http://www2.iwate-ed.jp/oht-h/reconstruction.html