復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

35)

鉄道・港湾・空港の復旧・復興

応急期復旧期復興前期復興後期

課題
① 鉄道など地域交通の復旧・復興
② 港湾の復旧・復興
③ 空港の復旧・復興

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災では鉄道、港湾、空港といった各種交通・物流網が被災した。発災直後には人命救助や物資供給等のために、それらの迅速な応急復旧が求められた。
 その後の本格的な復旧・復興では、まちの変化や人口減少・高齢化を踏まえた地方交通の確保、災害に強い地域内外との新たなネットワーク構築、それに伴う地域経済の再生が求められた。

東日本大震災における取組

鉄道の復旧・復興(課題①)

 <応急対応>

 鉄道事業者とバス事業者が連携し、JR山田線や仙台市営地下鉄南北線、仙台空港アクセス線等の不通区間に代行バス等を走らせつつ、鉄道事業者により脱線した車両や破損した高架橋・軌道の復旧が懸命に進められた結果、耐震補強等の効果もあり、1~2ヵ月で沿岸被災路線以外はおおむね復旧した。応援要員の輸送に加え、JR貨物の「緊急石油列車」がJR羽越線~奥羽線~青い森鉄道線~いわて銀河鉄道線を経由する迂回ルートで盛岡に入る等、被災地で枯渇していた燃料の搬送等にも活躍した(1)

 <復旧・復興>

 不通になっていたJR山田線の沿岸路線(宮古・釜石間)は、沿線の地方公共団体からの鉄道復旧の意向を受け、地域に密着した効率的な運営による持続的な鉄道を目指すこととして、2019年3月、当時から岩手県沿岸部で運行していた三陸鉄道に経営移管することで再開した。これにより三陸鉄道は岩手県沿岸部163kmをひとつにつなげる全国最長の第三セクター鉄道となり、復興を後押しする役割が期待されている(2)(3)
 また、JR気仙沼線・大船渡線では、震災前からモータリゼーションが進み輸送量が減少していた状況を踏まえ、それぞれ2012年12月、2013年3月、バス専用道や一般道等を組合せることにより鉄道復旧よりも低コスト・短期間で復旧可能なBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)により運行が再開された。これにより当該路線では、復興まちづくりに合わせた駅の新設・移設や柔軟なルート変更等を行い、高い利便性を実現した(事例35-1)。
 鉄道以外にも被災者等の移動手段を確保するための地域交通として、高台移転した高齢者向け電動カート用の駐輪場をバス停に整備する取組(4)などもみられた。また、石巻市と一般社団法人日本カーシェアリング協会が連携し、カーシェアリング事業を運営する取組(5)が行われ、地域の移動問題の改善に加え、コミュニティづくりにも貢献した。

港湾の復旧・復興(課題②)

 <応急対応>

 発災直後、国は、東北地方整備局等が予め協定を結んでいた一般社団法人日本埋立浚渫協会等に航路啓開作業を要請した。津波注意報の解除翌日である3月14日から、主要港湾において、地方整備局や港湾管理者(岩手県、宮城県、福島県等)等により、同協会会員等が所有する作業船を用いて航路啓開が行われた。16日の宮古港、釜石港への第1船の入港を皮切りに、各港で港運事業者や陸運事業者等による緊急支援物資の受入れ・輸送が開始された。このような啓開作業や、その後の港湾施設の応急復旧作業は、東北地方整備局が建設会社や潜水事業者等の民間企業も参加する連絡調整会議を設置するなど、作業実施に係る体制を確立した上で実施されている(6)

 <復旧・復興>

 東北地方整備局及び各被災港湾の港湾管理者は、地元の地方公共団体や港湾立地企業等で構成される協議会を設立し、産業復興を支える物流機能のあり方等を検討の上、作成した復旧・復興方針や工程表を基に港湾施設の復旧・復興作業を進めた(6)
 その結果、防災面では防波堤等の復旧や新設、主要な港湾での港湾BCP策定、港湾BCPに基づく防災訓練等が実施された。経済面では、被災した港湾のうち仙台塩釜港、八戸港、小名浜港、釜石港など被災前の取扱量を超え、過去最高の取扱貨物量となった港もみられた。これは港湾機能の増強(航路、岸壁、ふ頭用地、荷役機械の整備等)、港湾背後の高規格道路整備及びそれらに伴う関連企業の立地増加などによる。また、東北管内への国内外のクルーズ船寄港回数も着実に増加し、2019年に過去最高を記録した(7)

空港の復旧・復興(課題③)

 <応急対応>

 津波被害を受けた仙台空港では、3月13日から国土交通省のTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)が排水ポンプ車による緊急排水を実施するとともに、3月14日より自衛隊や米軍などによるがれき除去等が進められ、16日に一部の運用が再開され、その後米軍のトモダチ作戦の拠点となった。4月13日には民間機就航が再開された(8)(9)
 仙台空港が使えない間、花巻空港や山形空港、福島空港では、全国の航空官署から支援要員の派遣を受け、被災から1か月ほどの間、空港運用の24時間化が図られ、救援人員・物資を被災地に送る拠点等となった。また、花巻空港への空港SCU(広域搬送拠点臨時医療施設)設置や福島空港のDMAT(災害派遣医療チーム)滞在など医療業務も行われた(2)(10)(11)(12)

 <復旧・復興>

 仙台空港の復旧・復興については、各種被災施設・設備の復旧が進められるとともに、空港の耐震化等が推進された(13)。また、宮城県は仙台空港の乗降客数・取扱貨物量を過去ピーク時の倍とする目標を掲げ、官民連携組織である「仙台空港600万人・5万トン実現サポーター会議」を2013年5月に設立した。空港運営の民間委託の機運醸成、情報発信を目的に5回の会合を開催し、2016年7月に仙台空港の民間運営が実現した(14)(15)(16)

教訓・ノウハウ
① 多様な主体との事前連携に基づいて、迅速な応急復旧を行う

被災直後における迅速かつ的確な交通・物流網の応急支援や港湾活動の応急回復には、関係する民間企業や地元の地方公共団体との連携が不可欠であり、平時からそのための協力体制を構築しておくべきである。

② 地域の将来を見据えた交通ネットワークの復旧・復興を進める

交通インフラの復興事業は、その持続可能性を考慮しながら地域特性に応じて実施する必要があり、必ずしも原型復旧だけが選択肢ではなく、鉄道復旧におけるBRTの導入や、港湾機能の増強、民間ノウハウの活用などの工夫を検討していく必要がある。

<出典>
(1) 東北の鉄道震災復興誌編集委員会「よみがえれ!みちのくの鉄道~東日本大震災からの復興の軌跡」2012年9月,p38,p129
(2) 岩手県「東日本大震災津波からの復興 岩手県からの提言」2020年3月
https://www.pref.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/741/fukkou_teigen_i_all.pdf

(3) 東日本旅客鉄道株式会社「CSR報告書2015」2015年9月,p59,
https://www.jreast.co.jp/eco/pdf/pdf_2015/all.pdf

(4) 復興庁「復興交付金(効果促進事業)の活用について」2016年4月26日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m16/04/20160426_kouhukinkatuyou.pdf

(5) 日本カーシェアリング協会「コミュニティ・カーシェアリング」
https://www.japan-csa.org/action/carshare.php

(6) 国土交通省港湾局「東日本大震災における港湾の被災から復興まで~震災の記録と今後の課題・改善点~」2012年3月
https://www.mlit.go.jp/common/000204223.pdf

(7) 国土交通省 東北地方整備局 港湾空港部「東日本大震災から9年、東北港湾の今とこれから」2020年3月10日
(8) 兵庫県「伝える 改訂版 1.17は忘れない-阪神・淡路大震災20年の教訓」2016年7月30日,p46
(9) 宮城県土木部空港臨空地域課空港振興班「仙台空港復興だより」2012年4月
(10) 内閣府「平成24年交通安全白書 トピックス 東日本大震災における各交通分野の安全確保に向けた取組状況について」
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h24kou_haku/pdf/zenbun/gen_topics8.pdf

(11) 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、仙台市、国土交通省東北地方整備局「「東日本大震災と道路」パネル展 ~救急・救援のための緊急輸送路確保~」
http://www.thr.mlit.go.jp/road/jisinkannrenjouhou_110311/panel/pdf/panel.pdf

(12) 我妻徹(福島県土木部福島空港事務所施設課主任電機技師)「東日本大震災における福島空港の対応と課題について」月刊建設, pp.62-64, 2012.4,
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/70332.pdf

(13) 宮城県震災復興・企画部震災復興推進課「東日本大震災 復旧期の取組記録誌」2015年3月
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/fukkyuuki-kiroku.html

(14) 日本経済新聞「仙台空港、乗降客数30年後に600万人目指す 民間ノウハウ活用」2012年9月3日
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFB0303X_T00C12A9L01000

(15) 宮城県震災復興・企画部震災復興推進課「東日本大震災 再生期前半(平成26・27年度)の取組記録誌」2017年3月
https://www.pref.miyagi.jp/site/ej-earthquake/saiseikizenhan-kiroku.html

(16) 宮城県「仙台空港600万人・5万トン実現サポーター会議」2016年2月29日更新

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