50)
観光施設・機能の復旧
応急期復旧期
② 被災地の観光事業者はどのように事業継続に取り組むか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災の発生によって、東北6県の登録旅館・ホテル285施設のうち、大規模損傷を被った8施設をはじめとする約4分の1の施設が営業停止となった。その他多数の登録旅館・ホテルにおいても、施設の損壊等により限定的な営業を余儀なくされた(1)。
被災地の産業全体を復興させるためには、被災地外から多くの人を呼び込むことが重要である。多くの人が被災地を訪ねることが可能となる環境を整備するために、宿泊施設の確保や観光施設の早期復旧が大きな課題となった。
東日本大震災における取組
地元住民による砂浜再生運動の展開(課題①)
岩手県大槌町の浪板海岸は、白砂青松の海岸美と寄せる波はあっても返す波がない「片寄せ波」で知られ、多くのサーファーや海水浴客でにぎわっていたが、津波により砂浜が消滅したことから、2012年6月、地元のサーフショップやサーファーたちが中心となって、「浪板海岸砂浜再生プロジェクト」に取り組み、一日も早い海開きに向けて、海岸の清掃活動やがれき処理を行った。また、2015年12月、一般社団法人日本アムウェイ財団が「Remenber HOPE浪板海岸ビレッジ」を建設してサーフショップやカフェなどが入居し、地域内外の交流の拠点となっている。こうした動きを踏まえて、岩手県は2019年から根浜海岸復興養浜技術検討委員会等を開催して砂浜再生が技術的に可能か検討を実施し、砂浜再生工事に取り組んでいる(2)(3)。
同業者とのネットワークによる施設の早期再開(課題①②)
福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま(公益財団法人ふくしま海洋科学館)」は、震災による人的な被害はなかったが、津波により施設は孤立し、建物や水槽、電気設備の被災により多数の魚類が犠牲になった。生き残った飼育魚類等は、近隣の水族館のネットワークを生かしていったん避難した後、施設の復旧を行い、2012年7月に再開館を果たした。
2018年に小名浜で開催した第10回世界水族館会議では、「アクアマリンふくしま」の活動を世界に発信した。震災以降利用者の低迷が続いているが、国内外の13施設と友好関係にあり、特に、中国、韓国、香港の5施設とは職員・技術交流のみならず集客についても協力を得ることとしている(事例50-1)。
復興の発信拠点としてホテル事業の継続(課題②)
宮城県南三陸町の南三陸ホテル観洋は、2階まで津波が襲来したが建物は損傷しなかったため、宿泊客350人、住民600人の避難所となった。震災1か月後には、復旧が遅れる中、レストランの営業再開を決断し、さらに4か月後には、町を訪れる多くの人に震災の実情を知ってもらうため、ホテルの従業員が語り部となって「震災を風化させないための語り部バス」の運行を開始した。また、町のなかで営業している店を地図で示した「南三陸てん店マップ」を作成し、ホテル利用客の滞在時間を延ばし、地域の商業の活性化にも貢献した。街を訪れる人の滞在拠点となるホテルが地域の復興の発信拠点としての役割を果たすことが、地域の復興につながっている(4)。
他地域との交流拠点としてのホテル事業の継続(課題②)
岩手県釜石市の鵜住居地区にある旅館「浜べの料理宿・宝来館」は、4階建て建物の2階まで津波が押し寄せ、旅館から一望できた根浜海岸は地盤沈下で砂浜のほとんどが失われた。2012年1月に宝来館は営業を再開し、女将自身が被災経験の語り部としての活動を行うなど地域の情報発信に取り組む一方で、2016年に一般社団法人根浜MINDを設立、防災減災活動や特産品開発、県内外からのボランティア・観光ツアーの受け入れを行っている。さらに、2019年に開催されたラグビーワールドカップの誘致にも取り組むなど、観光都市ではない釜石に他地域から人を呼び込む交流活動に活発に取り組んでいる。なお、2019年から岩手県は根浜海岸砂浜再生工事を実施しており、2020年に一部が完成し、9年ぶりに海開きが行われた(5)。
観光資源としての鉄道の復旧(課題②)
岩手県の三陸海岸沿岸部に総延長約100kmの路線を持つ三陸鉄道株式会社(本社:岩手県宮古市)は、津波により橋梁、レール、駅舎の流出・損壊等甚大な被害を受け、全線で運行が休止した。同社は、被災者を勇気づけるため、被災から10日後に部分復旧を決定し、2か月後には「被災地フロントライン研修」として、乗務員が案内役となって被災状況を説明して回るツアーを始めた。その後、国と岩手県で第3セクター向けの新たな復旧支援制度が創設され、2012年4月に北リアス線の一部が運行を再開、2014年4月に全線運行再開となり、三陸地域の復興のシンボルとして沿線住民の帰還や居住を促した。同社では、被災したレールを「東日本大震災復興祈願レール」として販売するなど鉄道資源を活用した事業を展開した(6)。また、2013年度には、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地として三陸鉄道リアス線が大きな注目を集めたことで、交流人口の拡大、観光客の集客に貢献した(7)。
同業者とのネットワークを活用し早期の事業再開を進める。
海外とのネットワークを活用して職員・技術の交流や集客拡大を進める。
ショップ経営者や旅館の女将自らが復興情報を発信し、他地域の人との交流を生み出す。
地域の活性化の取組に共感する人々が地域の交流を促進する。
ローカル鉄道等の魅力を地域の観光資源としてアピールし、交流人口や観光客を拡大する。
(1) 観光庁「平成23年版観光白書」
https://www.mlit.go.jp/statistics/file000008.html
(2) 大槌応援団OCHAN’S 「浪板海岸に砂浜を!海開きをもう一度実現したい!」
https://www.town.otsuchi.iwate.jp/ochans/furusato/columns/81908.html
(3) 一般社団法人日本アムウェイOne by One 財団「2015年度活動レポート」
https://csr.amway.co.jp/pdf/BusinessReport2015_JP.pdf
(4) 南三陸ホテル観洋「メディアサンクス」
(5) 復興庁「岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ次代の萌芽 ~東日本大震災から8年~」2019年2月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20190215142526.html
(6) atmarkit「望月社長が語るBCP:あの日、三陸鉄道はどのように復旧したのか」2015年3月
https://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1503/11/news140.html
(7) 東洋経済ONLINE 「「あまちゃん」ロケ地観光のいまだ根強い人気―放送終了4年過ぎても久慈の町おこしは熱い―」2017年8月
https://toyokeizai.net/articles/-/185296