復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

29)

建設型応急住宅の集約・解消

復興前期復興後期

課題
① 応急仮設住宅の集約・解消に向けた調整・支援をどのように行うか
② 退去後の建設型応急住宅をどのように再利用するか

東日本大震災における状況と課題

 被災者の住宅再建が進む中で、なかなか住まいの再建方針が決まらない世帯がみられた(1)。また、建設型応急住宅団地(以下「仮設団地」という。)の退去が進み空室が増加していくと、入居者の孤立防止や防犯対策、コミュニティの活力維持が課題となった(2)(3)。学校の敷地や民有地等に建設された仮設団地では、児童生徒や地権者が早期に使えるようにすることが求められる場合も見られた(2)。そのような状況の中で住まいの再建方針の定まらない世帯への生活再建支援や仮設団地の集約、入居者が退去して役割を終えた仮設団地の解体・撤去が求められた。
 また、東日本大震災では建設型応急住宅は膨大な戸数となり、プレハブ建築協会からのリースだけでは対応できず、約5万戸の建設戸数の内、約4万戸が買取契約で各県の所有物となった。これら買取契約分については本来の役割を終えた後に、廃棄物の削減等に向け、再利用が求められた(4)

東日本大震災における取組

応急仮設住宅解消に向けた重層的支援(課題①)

 被災した地方公共団体は応急仮設住宅の解消に向けて、入居者への住まい再建の方針に関する調査や災害公営住宅・民間住宅等の入居支援、住まいの再建に必要な資金・就労の支援など、社会福祉協議会やNPO、弁護士や司法書士等の専門家と連携した重層的な支援を行った。また、こうした支援を行う地方公共団体の職員にも専門家によるアドバイスを行い支援の質の向上を図った(1)
 岩手県や宮城県では、特に学校校庭に建設された仮設団地の撤去に向けて上記のような支援を積極的に実施した。その結果、2011年には岩手県35校、宮城県32校にあった仮設団地が2018年8月末に岩手県では11校に、宮城県では3校となり、2019年度末に全てが解消見込みとなった(5)
 様々な支援がなされる中でも入居者の退去が進まない場合に、訴訟が起きるケースもみられた(6)

応急仮設住宅集約化計画(課題①)

 各市町村は仮設団地の撤去・集約化を進める土地の優先順位や時期を明示した「応急仮設住宅集約化計画」を策定し、建設型応急住宅の集約を進めた(事例29-1)。その際、集約先の仮設団地では、建設型応急住宅の基礎補強工事や腐食した床板等の張り替え、不良設備の交換などが行われ、引き続き使い続けられるよう対応が行われた。しかし、一定期間住み続けた団地からの移転を求めるのは難しい面もあり、集約化の計画は策定したが実際にはそのように集約が進んでいない場合もみられた。撤去は団地単位で行われるものであり、団地内にまだ居住している世帯がいる以上は撤去に着手することが難しかった(2)

退去後の再利用(課題②)

 入居者の退去後、役割を終えた建設型応急仮設住宅の内、県が買い取った分について再利用がなされるケースがみられた。
 被災3県などは要望がある地方公共団体や企業へ資材の無償譲渡を行った。なかでも福島県等では災害公営住宅への転用や定住促進にむけて都市部等からの移住体験施設の整備に活用した(7)
 障害者の就労を支援する社会福祉法人「臥牛三敬会」(宮城県角田市)では同県山元町にあった仮設住宅の集会所を譲り受け、職員の集会所などとして活用することを予定している(7)
 岩手県野田村では建設型応急住宅を新たに整備した基礎の上に移設し、震災遺構とした。実際に宿泊もでき、震災当時の生活を追体験する場として活用している(8)
 2018年の西日本豪雨では、被災した岡山県総社市から福島県に使用済みの木造建設型応急住宅を譲ってほしいと要望があり、住宅48戸や集会所などに再利用された。木の風合いが素晴らしいと入居者にも好評を博した(7)
 また、再利用が検討されつつも、実現しなかったケースもみられた。宮城県女川町の野球場に建設されたコンテナを用いた3階建の建設型応急住宅では、その利用期間の経過に伴って、スポーツ用合宿施設など様々な転用案が出されるようになった。しかし、構造材料とされていた中国製コンテナは建設型応急住宅の骨組みとしては使用できたものの、転用による恒久的な建築物の構造材料には使用できなかったため、解体することとなった(9)(10)

教訓・ノウハウ
① 集約化を最低限にするとともに、集約を実施する際には早い段階からの連携・検討・協議を行う

社会福祉協議会や弁護士など関連する専門家と災害前から連携しておく。

学校校庭を仮設団地の敷地にしない等、長期利用ができない場所は極力利用しないことが重要である。やむをえず学校校庭等を利用する際には早めの解消を見込んでおくなど、長期的な視点に立った検討を行う。

集約の可能性が出てきた際にできるだけ早い段階で居住者らと協議し備えを依頼する。

② 撤去前に、もしくは建設時から様々な施設への転用など再利用に向けた検討を行う

使命を終えた建設型応急住宅等の仮設施設やその部材は様々に有効活用できる可能性があり、撤去前に地域内外での再利用にむけた検討を行う。

<出典>
(1) 仙台市「仙台市被災者生活再建推進プログラム」2014年3月
http://www.city.sendai.jp/kenko-jigyosuishin/shise/daishinsai/fukko/sekatsu/documents/honpen.pdf

(2) 米野史健「応急仮設住宅から災害公営住宅等の恒久的住宅への移行の実態と課題―東日本大震災から5年―」, BRI-H28講演会テキスト, pp.41-52, 2017.3,
https://www.kenken.go.jp/japanese/research/lecture/h28/pdf/T5.pdf

(3) 石巻市「石巻市被災者自立再建促進プログラム」
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10401200/content/01.pdf

(4) 吉羽晴香「東日本大震災における応急仮設住宅の建設と解体・再利用に関する研究-福島県内の応急仮設住宅を施工した建設業者を対象として-」
(5) 復興庁「岩手県及び宮城県の学校校庭にある仮設住宅の解消見込みについて 別紙」2018年9月15日,
https://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/09/20180925_koutei-kasetu-kaisho_nr_bessi.pdf

(6) NHK政治マガジン「公務員宿舎に自主避難退去求める提訴議案可決」2019年10月3日
(7) nippon.com「進む仮設の再利用=西日本豪雨の被災地にも-東日本大震災8年」2019年3月5日
(8) 岩手日報「仮設住宅 震災遺構に 野田村、一部保存計画」2020年6月17日
(9) 国土交通省「資料3:東日本大震災における応急仮設住宅の建設事例」(2011年10月・国土交通省 報道発表資料 東日本大震災における応急仮設住宅の建設に関する報告会の開催について)
https://www.mlit.go.jp/common/000170074.pdf

(10) 女川町役場に問い合わせ、2021年1月25日にご回答いただいた内容をもとに記載

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