復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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建設型応急住宅の集約・解消

事例名 プレハブ仮設団地移転・集約プログラム
場所 宮城県石巻市
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 石巻市(自立再建促進対策本部*)、委託業者等(社会福祉協議会、公益財団法人等被災者支援団体)、仮設団地入居者 *:市長及び各部長で構成

取組概要

 震災から時間が経過し住宅再建が進むにつれて、入居率の下がった建設型応急住宅団地(以下仮設団地)のコミュニティや生活環境の維持が課題となった。
 石巻市では、仮設団地の移転・集約の方針や支援策を示し課題の解決に取り組んだ。

具体的内容

背景

 石巻市では、震災から5年経過した2016年当時においても、多くの方が応急仮設住宅で生活を続けている状況があり、住まいの再建が決まっていない方が多くおり、心身の健康面や経済面の事情など様々な課題を抱えた方への支援が急務となっていた。
 そこで石巻市はそれらの課題を整理し自立再建に向けた具体的な支援を実施するために「石巻市被災者自立再建促進プログラム」を策定した。
 生活再建に向けた各種支援事業によりそれぞれの再建先への移転が進む一方で、各団地の入居率の低下による孤立防止や防犯、コミュニティ面において課題が生じてきたことから、被災者の健康で安全・安心な暮らしを確保するため、計画的な仮設団地の早期解消や集約の方針(考え方)を「プレハブ仮設団地移転・集約プログラム」として定めた。

「プレハブ仮設団地移転・集約プログラム」の概要

1.基本的な方針
 プログラムでは被災者の健康で安全・安心な暮らしを確保するために3つの方針を示し、移転・集約を進めた。集約拠点となる仮設団地(以下 集約拠点団地)は団地の規模や生活の利便性などに配慮して24団地を選定した。

〇孤立防止・防犯対策・コミュニティの維持
 入居者の孤立防止、防犯対策やコミュニティ維持を図るため、入居率が概ね30%以下になると見込まれるプレハブ仮設団地については、入居者の事情に配慮しながら、仮設団地間移転や恒久的住まいへの移転を進めた。


〇学校用地や民有地の返還、公園用地の復旧
 仮設団地の敷地について、学校用地や民有地の返還、子ども達の遊び場(公園)等の復旧を優先して図りつつ将来の土地利用を見据えた移転を進めた。


〇再建後のコミュニティに配慮した仮設団地間移転支援
 新たなコミュニティが形成しやすいよう移転する入居者への説明会や意向調査を行い、その意向を踏まえ、集約拠点団地への移転を進めた。例えば、再建先に近い仮設団地へ移転できるよう配慮した。また、移転対象者への説明だけではなく、集約拠点団地の元々の入居者への説明会を行うことで、受入側の理解も得た。
 24か所の集約拠点団地は、支援エリアとして区切った10地区(本庁地区に4か所、6総合支所に1か所ずつ)に、以下の3点を考慮して選定した。

① ある程度の規模を有する仮設団地であること
② 団地会がある仮設団地であること(コミュニティへの配慮)
③ 施設のグレードが高い仮設団地であること(ハウスメーカーが建設した仮設団地や基礎補強工事を行ったプレハブ仮設団地)

2.プレハブ仮設団地集約に関する配慮
〇仮設団地間移転による引っ越し費用の負担
 市が引っ越し業者に委託し、荷造り・梱包・引越し・荷下ろしまで行った。


〇集約拠点団地入居基準緩和
 児童・生徒のいる世帯等には、移転の際、世帯員数+1人とする基準を設けることで、部屋数基準を緩和し、勉強しやすい環境に配慮した(勉強スペースを確保した)。


参考:従前の入居基準 1人:1DK、2~3人:2DK、4~5人:3DK、それ以上:2戸1(2DK2部屋の間の壁を撤去し1部屋にしたもの)等
例1 3人世帯(児童・生徒1人)の場合: 従前基準2DK(3人)⇒ 緩和基準 3DK(3人+1人)
例2 5人世帯(児童・生徒3人)の場合: 従前基準3DK(5人)⇒ 緩和基準2戸1(5人+1人)



〇移転先の居住環境を移転前と同等にするための整備
 建設当初の建設型応急住宅の各住戸は同じ仕様であるが、エアコン・給湯器・物置などの設備の追加工事など、必要と思われるものは入居者の希望を確認しつつ対応したため、各住戸の設備は個々で違った。そのため、移転前と同程度の住戸を選定する、不足する設備を移設するなどの対応をした。


〇プレハブ仮設集約時家賃助成
 市内のプレハブ建設型応急住宅に入居中で、り災区分が大規模半壊・半壊(復興公営住宅への入居要件を満たしていない)であり、集約・解消に伴い建設型応急住宅から市内の民間賃貸住宅に転居する世帯のうち、前年度の月収が公営住宅法による政令月収104,000 円以下に該当する世帯を対象として家賃の一部を助成した(家賃額及び助成額に上限があるほか、市から家主に助成金を支払うなどの条件あり)。

対象者への説明会・個別相談・不適正利用への対応

 自立再建促進プログラムの説明会は早期に各地区で実施し、その後、移転・集約を進める団地については原則として退去完了の6か月前までに移転・集約説明会を実施した。
 説明会後は、移転対象者の希望を伺いつつ移転先調整を行った。
 移転対象となった方の「住まいの再建時期」や「経済状況」、「健康状態」など個別相談等で状況を把握し、個々の事情に配慮しながら、期間内に移転・集約が完了できるよう進めた。
 不適正利用と思われるプレハブ建設型応急住宅については、適正手続きの勧奨や法的措置による明け渡し請求などで対応した。
 *建設型応急住宅の供与を受けた者のうち、他所で生活再建しているにも関わらず、住戸を返還しない者(住戸を倉庫として利用している等)及び住戸に居住実態がなく、かつ所在確認ができない者 等

集約後に生じた課題

〇コミュニティ関係
・孤立防止対策:集約しても入居率が30%以下となる場合もみられ、社会福祉協議会による見守り事業(情報共有)の強化を行った。
・コミュニティ:再建が進み、団地会が解散している状況もあったため、社会福祉協議会やNPO等による団地内でのお茶会等を開催するなど、集まる場作りなどを行った。
・情報提供:団地会会長や世話人、管理人がいる団地については、移転の時期や世帯人数を事前に情報提供した。移転対象者にも会長の名前や部屋番号等を事前に情報提供した。

〇設備関係
・前入居者退去後、長期で使用していない住戸もあり、入居後に不具合(漏水等)が発生し、再移転を行うケースがあった。
・仮設団地周辺の環境整備(草刈りなど)を市が行った。

仮設団地の解消

 プログラムにもとづく移転・集約は2016年度から開始され、2020年1月17日をもって全団地の入居者が退去し市内の仮設団地は解消された。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・石巻市「石巻市被災者自立再建促進プログラムを策定しました」(2017年6月)
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10401200/8349/20160608115102.html

・石巻市「仮設住宅関係のお知らせ」(2020年2月)
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/10401200/7625/7625.html
<活用された制度>
・市独自でプログラムを策定し実施
<事業費>
・団地集約化経費
約5.5千万円(2016~2019年度、約278世帯・534人の合計)

*県の応急仮設住宅共同施設維持管理等補助金1/2(国からの特別交付税及び一部国内外からの寄付金)、市の震災復興基金1/2(国からの特別交付税)

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