従業員の生活のために、同じ場所で事業を継続 品質管理の徹底と、新商品でアオサの魅力を発信

株式会社マルリフーズ

【福島県相馬市】

従業員の生活のために、同じ場所で事業を継続
品質管理の徹底と、新商品でアオサの魅力を発信

企業情報

  • 企業名 株式会社マルリフーズ
  • ヨミガナ カブシキガイシャマルリフーズ
  • 業種 食料品製造業
  • 代表者 稲村利公氏[代表取締役]
  • 所在地 福島県相馬市岩子字坂脇77
  • TEL 0244-36-3791
  • WEB https://www.maruri-foods.jp/
  • 創業年 1993年
  • 資本金 1,000万円
  • 従業員数 17人
  • 売上高 1億7,909万円

企業概要

1993年にアオサ専門の加工会社として創業。2011年の東日本大震災による津波で松川浦産のアオサは流され、他県産に代替し操業再開。2020年には地元企業や生産者と共に地場産品ブランド「すてっぱず松川浦」を設立し、アオサを使った商品の販売を開始。

津波の被災に負けず松川浦で従業員のために操業を続ける

全国有数のアオサの産地である松川浦 全国有数のアオサの産地である松川浦

濃紺色の海が広がる福島県相馬市。その景勝地である松川浦は東北を代表する潟湖(せきこ)が広がる。ここは海水と河川からの真水が混じり合い、豊かな磯の香りと食感、うまみが魅力的なアオサの養殖が盛んに行われていた。最盛期には養殖網を固定する養殖棚が2万4,000本もあり、年間4億円、全国2位の生産量を誇る一大産地として全国でも有名だった。

「松川浦のアオサは『ヒトエグサ』という種類で、一般的なアオサと異なります。冬から春にかけて最盛期を迎え、緑色のじゅうたんが敷かれているかのような光景が見られました」と話すのは、松川浦でアオサの加工をしている株式会社マルリフーズ代表取締役の稲村利公氏だ。

代表取締役の稲村利公氏 代表取締役の稲村利公氏

アオサを加工する工場の目の前には海が広がるが、被災時の様子はどうだったのか。「津波が来たと思ったらあっという間に工場はのみ込まれてしまいました。幸い従業員やその家族などに被害はありませんでした」と振り返る。

水が引いたらすぐに現状を確認できると考えていた稲村氏だったが、工場への道には通行止めの箇所や立ち入りが制限された場所があり、現場に立ち入るのにおよそ1カ月かかったという。当時の様子は、工場内にあった機械はひっくり返りコンテナは流され、目の前の松川浦に係留されていた船は建物の柱にぶつかったまま行き場を失っていたという。

途方に暮れながらも立ち止まることをしなかった稲村氏。「従業員の生活のためにも会社を畳むことは選択肢にありませんでしたが、いったいこの先どうしたらいいんだろうかと悩みました」。そして選んだのが、移転せずに工場を修繕し、操業を再開することだった。「これまで松川浦の恩恵を受け商売を続けてこられた恩返しと、従業員の雇用を守るため、同じ場所で再スタートを切ることがマルリフーズの役目だと思いました」。

株式会社マルリフーズの入り口 株式会社マルリフーズの入り口

月日と熱意をかけたことがアオサ復活の足掛かりとなる

2012年、工場はおよそ1年の修繕期間を経て操業を再開できるまでになった。しかし、原料となる肝心のアオサが手に入らなかった。「当初はすぐに再開できると思っていましたが、養殖棚はほとんどが津波で流されてしまいました」と稲村氏は言う。さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散の影響を受け、出荷ができなくなった。

松川浦と生アオサ 松川浦と生アオサ

稲村氏は頭が真っ白になってしまったが、なんとかアオサを仕入れるために他県の産地、さらに国外にも足を運んだ。愛知県田原市や静岡県の浜名湖などの産地をはじめ、台湾にも行ったが、取引に応じてくれるところはなかったという。その理由として、万が一加工した商品から放射性物質が検出されたら自分たちにも風評が及ぶのではないかという懸念があったからだ。

しかし3年の月日を費やし、ようやく愛知県の漁協からアオサを仕入れることができるようになった。その量は2tと少なかったが「こちらの気持ちが伝わったおかげで、自社で製造することができました。あの日からやっと一歩踏み出せたという感じでした」と稲村氏。ただ、松川浦産アオサの収穫が見込めず、他の産地からの仕入れ量も少なく、少量の加工品しか製造できない状況で生き残るためにはどうしたらいいか、頭を悩ませた。

そして出した答えが、「どんな小さい異物やごみも徹底的に除去した、高品質の商品を製造することでロスをなくすこと」だった。大量生産が難しいが故の打開策であった。

生き残りをかけた他社との差別化は人の手による徹底した品質管理

「アオサの加工品にはエビや小さな生き物、他の藻類など異物の混入という問題が付きまといます」と話す稲村氏。例えば1000個の商品の中に、たった1個でも異物が混入したものがあると、最悪の場合全てが返品になるというシビアなものだ。

マルリフーズでは、独自の洗浄や異物除去でアオサ本来の風味や色合いを引き出す。最後には、従業員の手による徹底したチェックを行い、不純物の混入を防いでいる。

徹底した洗浄作業を行っている 徹底した洗浄作業を行っている

こうした工程を経ることで海藻特有の癖のあるにおいを抑えながら、アオサの香りを際立たせている。稲村氏は「品質における徹底した姿勢が認められ、2018年ごろからある大手回転ずしチェーンでは全店舗でうちのアオサを使ってもらっています」と誇らしげに語る。

アオサ製品の製造工程について日常的に見直しを図りながら、安全・安心な商品開発にも積極的に取り組んでいる。これまで取り扱ってきた冷凍タイプや乾燥タイプに加え、最新鋭の粉末加工機械を導入し、市場ではまだ珍しいパウダー状のアオサの製造も開始。多様な商品や加工品への活用も可能になり、取引先のニーズにきめ細かに対応できるようになった。

アオサを養殖している様子 アオサを養殖している様子

地元企業・生産者と共に「松川浦のすてっぱずなもの」を世界へ発信

アオサの香りが存分に感じられる「すてっぱず松川浦」の商品 アオサの香りが存分に感じられる「すてっぱず松川浦」の商品

2018年2月、東日本大震災から7年ぶりにアオサの出荷が再開されたが、水揚げ量は被災以前の10%弱。2023年は20%ほどまで回復してきたが、最盛期の量にはまだ程遠い。

「松川浦産のアオサを廃れさせるわけにはいかない」と稲村氏が音頭を取り、2020年に地元企業や生産者と共に地場産品ブランド「すてっぱず松川浦」を設立。ワサビ味や梅味のつくだ煮や刺し身こんにゃくなど、オリジナルの商品を開発し、販売を始めた。「近年、海藻は健康食として世界的に注目を集めています。タイやベトナムなどの展示会に出展して高評価を得たことで、手応えも感じています」と稲村氏。

すてっぱずとは「ものすごい」という意味の浜言葉。松川浦で誕生した「すてっぱずな商品」で、アオサの素晴らしさを発信していく。

課題

・津波で主原料のアオサの養殖網が壊滅。放射性物質の拡散の影響により出荷停止となる。

・競争が激しい業界内で、他社との差別化を図る必要が出てきた。

・最盛期の勢いを取り戻すため、松川浦産アオサの新しい価値の創出が求められた。

解決策

・他県の産地からアオサを仕入れるため交渉に赴く。どこも断られるが3年かけ愛知県の漁協と取引を開始。

・独自の洗浄方法と、従業員の手による徹底した異物除去を行い、不純物の混入を防ぐ。

・地元企業、生産者らと共に「すてっぱず松川浦」を設立。アオサを使った新商品の開発・販売に取り組む。

効果

・愛知県の漁協からアオサを確保したことにより、操業を再開。工場の修繕から3年後に収益を得られるようになる。

・異物混入のない高品質で安全・安心な商品が認められ、大手回転ずしチェーンとの取引が成立した。

・海外の展示会に出展。アオサおよびその加工品の輸出に向けバイヤーと交渉中。

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