「ロボットが日本を支える!」 福島の開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド」が描く未来

特集 04
「ロボットが日本を支える!」 福島の開発実証拠点「福島ロボットテストフィールド」が描く未来

福島では従来の産業の復興だけでなく、新しい日本をけん引する新産業の創出に向けた動きも活発だ。その象徴とも言えるのが「福島イノベーション・コースト構想」。東日本大震災後に制定された「福島復興再生計画」の一部で、「世界に誇れるふくしま」をスローガンにさまざまな取り組みを行うプロジェクトである。今回はその中でも特に国や教育機関の注目を集め、成果も目覚ましい「ロボット・ドローン関連の研究開発」について取り上げる。

INDEX

福島の浜通りが舞台の「福島イノベーション・コースト構想」

東日本大震災によって、大きな被害を受けた福島県浜通り地域の産業。福島イノベーション・コースト構想は、浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトである。

対象となる産業は、廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6つの重点分野。構想を推進する組織として、福島県は2017年に「一般財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構」を設立(2019年に公益財団法人に移行)し、それぞれの重点分野において、産業集積、教育・人材育成、交流人口の拡大、拠点施設の管理・運営、情報発信と、主に5つの取り組みで振興を図ろうとしている。

6つの重点分野
福島イノベーション・コースト構想推進機構の5つの主な取り組み
福島県浜通り周辺の地図。色は、各産業を表しており、各拠点の名称が記されている。地域ごとにさまざまな分野の産業が集積しているのがわかる
福島県浜通り周辺の地図。色は、各産業を表しており、各拠点の名称が記されている。地域ごとにさまざまな分野の産業が集積しているのがわかる
  • 廃炉
  • ロボット・ドローン
  • エネルギー・環境・リサイクル
  • 農林水産業
  • 医療関連
  • 航空宇宙

浜通り地域等15市町村に400社以上が新規進出

こうした取り組みを行うため、福島イノベーション・コースト構想推進機構では企業誘致による産業の活性化や、進出した企業に対する支援等を行うことで復興に向けたサポート業務に尽力している。

制度的な支援もあり、震災以降これまでに400社を超える企業が浜通り地域等に進出を決めている。廃炉関連分野では、東京電力ホールディングス株式会社・元請企業と地元企業とのマッチングが始まっているほか、農業分野でも企業の新規参入が進んできている。そして、産業集積がもっとも目立つのがロボット・ドローンの分野だ。
今回はこの「ロボット・ドローン分野の産業集積」について掘り下げて紹介する。

同機構専務理事の戸田光昭氏は「たとえば産業集積を進めるための正解はひとつではないので、ビジネスマッチングや情報の提供など、さまざまな角度からの支援を考えることが必要です。また、産業集積の効果を浜通り地域等全域に波及させることも重要なので、ほかの地域や企業などとの連携や目配りといったことも考えなければなりません」と話す。「機構の役割は取組のコントロールや規制などではなく、あくまで浜通り地域等が前へ進む後押しをすること」と強調している。

福島イノベーション・コースト構想推進機構の専務理事・戸田光昭氏 福島イノベーション・コースト構想推進機構の専務理事・戸田光昭氏

世界にも例がない「福島ロボットテストフィールド」

2015年に政府の日本経済再生本部でとりまとめられた「ロボット新戦略」の中で、災害対応ロボットなどの「ロボット実証実験フィールド」の整備が盛り込まれ、「福島浜通りロボット実証区域」が設置された。

実証区域ではこれまで、区域内にあるダムや学校の校舎、産業廃棄物処分場、トンネルなどを利用して、水中作業ロボットやドローンなどの実証実験を実施。そこで得た知見をもとに、ロボット・ドローン関連産業集積の核となる「福島ロボットテストフィールド」が整備され、2020年に全面オープンした。

福島ロボットテストフィールドは南相馬市と浪江町に施設があり、南相馬市の復興工業団地内にある施設は、約50haの敷地に、陸海空で働くロボットや、ドローンの研究開発に活用できる設備、研究者の活動拠点となる研究棟などが整備されている。浪江町には無人航空機用の滑走路、格納庫がある。

南相馬市の施設について、機構の福島ロボットテストフィールド事業部長の本宮幸治氏は「陸海空で活躍するすべてロボットの実証実験を行える施設は、日本はもちろん、世界にも例がありません」と説明する。

福島ロボットテストフィールド事業部長 本宮幸治氏(写真右) 福島ロボットテストフィールド事業部長 本宮幸治氏(写真右)

施設内の水中・水上ロボットエリアには、浸水した市街地を再現した「水没市街地フィールド」や屋内水槽試験棟、インフラ点検・災害対応エリアには、災害時の土砂崩落現場を再現したフィールド、試験用のトンネルや橋などが用意されている。また、無人航空機エリアには滑走路や格納庫、風洞実験や耐久実験を行える設備などがあり、南相馬市と浪江町の施設を結んだ無人機の飛行実験も可能だ。

福島ロボットテストフィールド(南相馬市所在部分)の全容イメージ 福島ロボットテストフィールド(南相馬市所在部分)の全容イメージ

17の大学やスタートアップ企業などが研究棟で活動中

福島ロボットテストフィールドを活用したいという申し込みは多く、スタートアップ企業、警察や消防など防災関係機関を含め多様な企業や団体が実験や試験を行っている。また、研究棟への入居希望も多く、13室でスタートした研究室は増設した。現在は東京大学、東北大学、会津大学といった教育機関、国や福島県の研究機関、スタートアップ企業など、17団体・企業が入居している(2022年11月1日現在)。

「研究室の人気は想定以上で、さまざまなシチュエーションでロボットやドローンの試験や実験ができるだけでなく、多くの大学や研究機関、企業と交流できることが、福島ロボットテストフィールドの魅力と受け止められています」と本宮氏。

ロボットは技術の総合デパートと言われ、ロボットの機械、電気・電子制御、ソフトウエア、電気、造形、デザインなど多様な技術が必要だ。しかし、規模の小さいスタートアップ企業などは、単独ではどうしてもすべてに手が回らないことから、企業間連携を模索しなければならない。その点で福島ロボットテストフィールドには最新機器をそろえた県ハイテクプラザ南相馬技術支援センターが併設されていたり、地域にロボット産業協議会の活動があったりと、相談も連携も容易にできることも人気を呼ぶ理由である。

2022年11月現在、福島ロボットテストフィールドの研究室に拠点を構える企業や団体。ロボットのさまざまな領域におけるスペシャリストたちが集い、連携を取り合うことでイノベーションが生まれている 2022年11月現在、福島ロボットテストフィールドの研究室に拠点を構える企業や団体。ロボットのさまざまな領域におけるスペシャリストたちが集い、連携を取り合うことでイノベーションが生まれている

「福島ロボットテストフィールド」から生まれた新技術

浜通り地域ではこれまで、ロボットやドローンに関連する事業が活発だったわけではないが、元々製造業のポテンシャルがあり、浜通りを含めて福島県にはオンリーワンの技術を持っている企業も多く、ロボットやドローン産業が伸びる素地は十分にあった。廃炉事業などにもロボットやドローンは欠かせないことから、将来性もニーズも見込むことができ、地域も期待を寄せていた。

このような背景もあって、福島ロボットテストフィールドのある南相馬復興工業団地や、インキュベーション施設の南相馬市産業創造センターには、ロボットやドローンなどの関連企業が18社進出。東日本大震災以降に、浜通り地域等に新規進出した関連企業は累計で70社に達し、産業集積は予想を上回るスピードで進んでいる。進出した企業の中からは、ユニークな製品や技術を開発したところも現われている。

株式会社テラ・ラボが開発したのは、「長距離無人航空機(固定翼)や航空機などを活用した災害対応デジタルトランスフォーメーション」。ドローンや航空機などで土砂崩れなどの災害現場を空撮し、そのデータから地図にオルソ画像をはめ込みさらに必要な情報を落とし込んだ周辺状況図を作成して地方自治体の災害対策本部や国、報道機関などに提供するという技術だ。福島県に大きな被害をもたらした2019年の「令和元年台風第19号」や、2021年の「熱海市伊豆山土石流災害」でも実際に用いられ、被害状況を上空から把握することで二次災害の防止などに役立てられている。

株式会社テラ・ラボが開発した無人航空機 株式会社テラ・ラボが開発した無人航空機

株式会社人機一体が取り組んでいるのは、過酷な環境で人間に代わって作業するロボット「人型重機」の開発。「重機」でありながら、柔らかいものもつかむことができるという繊細さも兼ね備えたロボットだ。現在は西日本旅客鉄道株式会社、日本信号株式会社と、高所重作業ができる人型重機の開発が進められている。

株式会社人機一体の「人型重機」。過酷環境での作業はもちろんのこと、人機一体の力制御技術により人との協調作業もこなす 株式会社人機一体の「人型重機」。過酷環境での作業はもちろんのこと、人機一体の力制御技術により人との協調作業もこなす

多様な支援で、ロボットやドローンの産業集積を促進

産業集積の核として、活発な活動を続ける福島ロボットテストフィールドへの関心は高く、県内外の自治体や企業などからの視察が増えている。機構の企画戦略室上席主任の池田明幸氏は、「“開かれた施設”が理念のひとつなので、視察だけでなく、ロボットの実演展示会である『ロボテスEXPO』なども開催して、積極的に人を受け入れています」と言い、こうした機会を通じて進出企業との交流を増やすことで、進出企業の支援や、企業の新規参入の促進につなげたいとしている。

機構ではまた、人材育成でも福島ロボットテストフィールドを「核」ととらえている。プログラミングの基礎をロボットを使って学ぶ小中学生向けのプログラミング教室も行われるほか、地元高校生等が参加できるさまざまな学びのためのイベント、講座が提供される場などになっているのだ。

機構では、浜通り地域等に進出した企業に対して、今後も「シームレスな支援」を続けていく。「新しい技術や製品が社会実装されるには、法律や規制の改正が必要になることが少なくありません。現場の声を規制当局に伝えていくのも、私たちの役割です」と戸田氏。

新しい技術や製品が芽を出し、社会に出ていくまでには、法律や規制の面だけでなく、資金、人材育成、情報提供など、さまざまな面での支援を切れ目なく行うことが必要だ。また、本宮氏は「ロボットやドローンは成長分野なので、技術開発の支援と並行して、新たな市場の創造、あるいは市場の開拓といったことも、一緒に考えなければなりません」と話している。

「ロボット産業革命の地・ふくしま」

こうした支援を通じて、機構が目指しているのは福島県が掲げる「ロボット産業革命の地・ふくしま」の形成だ。浜通り地域に進出した企業が、地域や地元企業なども巻き込んで課題を解決し、自律的に進化していくことによって、産業集積の効果や地域の利益の拡大、さらなる産業集積や他分野への波及を目指している。現在、「ふくしま次世代航空戦略推進協議会」が設立されるなど(福島ロボットテストフィールドにて設立総会を開催)民間主導での動きが出てきている。

取材協力

団体名
公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構
所在地
福島イノベーション・コースト構想推進機構:福島県福島市中町1-19中町ビル6階
福島ロボットテストフィールド:福島県南相馬市原町区萱浜字新赤沼83
WEB
https://www.fipo.or.jp
写真は右から福島ロボットテストフィールド事業部長 本宮幸治氏、福島イノベーション・コースト構想推進機構専務理事 戸田光昭氏、企画戦略室上席主任 池田明幸氏
写真は右から福島ロボットテストフィールド事業部長 本宮幸治氏、福島イノベーション・コースト構想推進機構専務理事 戸田光昭氏、企画戦略室上席主任 池田明幸氏