復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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自力再建者への支援

復興前期復興後期

課題
① 住宅の補修・移転・再建費用をいかに支援するか
② 住宅ローンなどの二重債務問題をどのように支援するか

東日本大震災における状況と課題

 東日本大震災では、全国で約12万2千棟の住宅が全壊、約28万3千棟が半壊、約74万8千棟が一部損壊の被害を受けた(1)。全壊した住宅のほとんどが津波によるものであり、被災者が住宅を再建するにあたっては津波で浸水した元敷地からの移転が必要となった。また、移転・再建が不要な場合でも、住宅の補修に係る費用負担が生じた。
 東日本大震災では、被災者生活再建支援法(最大300万円)による現金給付のほか、住宅の移転・再建、補修に対して、国や地方公共団体による様々な支援事業が行われた。また、住宅を再建するにあたり既往の住宅ローンを抱える被災者のいわゆる二重債務問題に対しても円滑な債務整理の支援が行われた。

東日本大震災における取組

住宅の移転・再建に対する支援(課題①)

 災害危険区域※1に指定された地域の被災者が、移転先で住宅再建する場合には、防災集団移転促進事業※2において、高台等に整備される宅地の貸与や譲渡、住宅の移転に対する補助、住宅の取得に係る資金借入に対する利子補給、元宅地の買い取りなどの支援が行われた(3)。一方、市町村が整備する宅地への集団移転を望まず、自身が用意した土地に個別に移転する被災者に対しては、がけ地近接等危険住宅移転事業により、危険住宅の除却費や住宅建築に係る資金借入に対する利子補給などの支援が行われた(4)。東日本大震災では、移転に係る費用の補助など従来のがけ地近接等危険住宅移転事業では対象にならなかった費用も復興交付金を活用して補助対象とされ、集団移転と同程度の補助が受けられるよう配慮された(5)。さらに、国は震災復興特別交付税により被災県の復興基金の積み増しを行い、上記制度の対象とならない地域の住宅再建についても、市町村が地域の実情に応じて幅広い資金援助が行えるようにした(2)

住宅の小規模補修に係る費用の支援(課題①)

 災害救助法による住宅の応急修理では、災害のため住宅が半壊若しくは半焼し、自らの資力では応急修理をすることができない世帯又は大規模半壊の被害認定を受けた世帯に対し、被災した住宅の屋根や台所・トイレなど日常生活に必要不可欠な最小限度の部分の応急的な修理について、市町村等が業者に依頼し、修理費用を市町村が直接業者に支払うことで、適用を受けた約9万世帯で住宅の応急修理が実施された。
 宮城県石巻市では、震災時に津波浸水区域内に居住していた被災者が、住宅の小規模な補修を行う際の補修費用を補助する「石巻市津波浸水区域被災住宅小規模補修補助金」を創設した。補助要件には、罹災判定が「全壊」または「大規模半壊」であること、補修物件が居住する被災住宅であること、補修規模が100万円以内であること等が上げられ、50万円を上限として補助が行われた(6)

「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」の策定(課題②)

 東日本大震災では、住宅ローンなど既往債務を抱える個人債務者が円滑に生活再建を進められるよう、破産手続き等の法的倒産手続きによらず、債権者と債務者の合意に基づく債務の猶予や減免を可能とするため、2011年7月に「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」が策定された。一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関では、債務者がガイドラインを利用して債務整理を行う旨の債権者への申出や、弁済計画案の作成支援等を行い、被災者の生活再建を支援している。
 なお、本ガイドラインは、2021年4月より、自然災害に広く対応する新たなガイドライン「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に統合されることとなっている。(事例13-1)。

教訓・ノウハウ
① 被災者が希望する住宅再建の方法に応じて支援制度を柔軟に活用する

住宅の補修・移転・再建等に適用可能な既存制度を被災者が希望する住宅再建の方法に応じて活用する。

地方公共団体では、住民の住宅再建に係るニーズを把握し、小規模補修費用の助成など必要な支援事業を創設する。

② ガイドラインや相談窓口の設置により個人債務者の私的債務整理を支援する

個人債務者や債権者となる金融機関に対して被災者の債務整理に関するガイドラインを周知する。

債務整理の申し出や弁済計画案の策定に際して、弁護士等専門家の支援が得られる相談窓口を被災者に案内する。

※1災害危険区域:建築基準法第39条の規定に基づき、地方公共団体は、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として条例で指定し、住居の用に供する建築の禁止等、建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものを当該条例で定めることができる制度。
※2 防災集団移転促進事業:災害が発生した地域又は災害危険区域のうち、住民の居住に適当でないと認められる区域内にある住居の集団的移転を行うことを目的とする事業。住宅地の高台移転に活用された。なお、住居の集団移転を促進することが適当であると認められる区域(移転促進区域)内の農地及び宅地の買取も可能であり、買取られた土地は移転元地と呼ばれる。なお、事業主体は市町村。
<出典>
(1) 消防庁「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について(第160報)」
https://www.fdma.go.jp/disaster/higashinihon/higaihou-past-jishin/2020/

(2) 兵庫県「伝える 1.17は忘れない-阪神・淡路大震災20年の教訓-」2016年7月30日,p86
(3) 国土交通省「東日本大震災への対応」
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000004.html

(4) 国土交通省「がけ地近接等危険住宅移転事業」
(5) 復興庁「東日本大震災復興交付金 基幹事業 概要」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/post_90.html

(6) 石巻市「石巻市津波浸水区域被災住宅小規模補修補助金について」

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