45)
農林業の販路の開拓
復旧期復興前期復興後期
東日本大震災における状況と課題
地震・津波で被災した東北3県は全国有数の農業地帯であり、2010年の農業産出額は6,296億円と全国の7.6%を占め、農作物の作付面積は延べ37万6千haで全国の9%を占めていた。しかしながら、震災からの農地の復旧にはガレキ撤去や除塩対策などで少なくとも1年以上を要したため、その間に失われた販路の回復や新商品の開発による新たな販路の開拓が課題となった。
東日本大震災における取組
被災地外企業と連携した安定的な販路の確保(課題①)
福島県楢葉町は、2015年9月に避難指示解除準備区域が解除され、住民の帰還を促進するため、新しい農業の創出が課題となっていた。こうしたなか、さつまいもの6次産業化に取り組む白ハトグループの株式会社しろはとファームは新たな栽培地を検討しており、楢葉町に農地の確保を求めたところ協力が得られることになり、2018年からさつまいもの栽培を開始した。また、同社の技術支援を受けた農家が生産したさつまいもは白ハト食品工業株式会社により全量買取が行われた。2019年4月に株式会社福島しろはとファームが設立され栽培面積が拡大、町も2020年9月に甘藷貯蔵施設を整備し同社に貸与することで通年での安定供給が可能となった。さらに、町は栽培農家の拡大に取り組むなど企業と連携したさつまいもの一大産地づくりに取り組んでいる(事例45-1)。
地域資源を活用した商品開発(課題①)
福島県二本松市の東和地区は、地域の課題であった耕作放棄地の解消を目指して、震災前からぶどう畑に転換する準備を進めていた。震災後、東和果実酒研究会を発足させ、約300本の苗木を植えるとともに、構造改革特区制度の「果実酒(ワイン)特区制度」を活用して少量生産の酒造免許を取得し、2012年にはふくしま農家の夢ワイン株式会社を設立した。その後、風評被害で需要が落ち込んでいた二本松市の名産羽山りんごを活用したシードルを醸造・完売し、2013年秋には初のワインを醸造した。以後は県内外から多くの注目を集め、JR東日本寝台列車「四季島」のレストランで販売されるなど全国を中心に販路を拡大している(事例45-2)。
商品のブランド化と海外への販路開拓(課題①)
東日本大震災により、宮城県山元町のいちご栽培ハウスは壊滅的な打撃を受けた。東京でIT企業の経営をしていた地元出身者が、地元農業者等とともに新たに農業生産法人株式会社GRAを設立。ICT関係のノウハウを農業に活用し、環境制御のコンピュータによる一括管理や、熟練生産者の作業管理を情報収集・解析し、「技術の見える化」を行うことで、栽培担当者の技術の底上げ、平準化及び熟練技術の伝達を図っている。
GRAでは、一定の基準をクリアした高品質ないちごを「ミガキイチゴ」としてブランド化を行い、首都圏、東北圏の独自の販路を開拓するとともに、通販サイトを介して直接消費者にも販売している。また、いちごを使用したスパークリングワインや化粧品等の新たな商品の開発・販売も進めている。その際、いちごでの酒造には高度な技術を要することから、外部の酒造会社に製造委託する等、酒造会社との連携による開発・製造を実施している。
さらに、国内のみならず、日本貿易振興機構(JETRO)主催の食品輸出商談会等を活用し、海外への積極的な販路拡大にも取り組んでいる。加えて、ICTを活用した溶液栽培システムは、気候や土壌の影響を受けずに生産できることが特徴であることから、企業やNPOとプロジェクトチームを設立し、インドでのいちご栽培にも取り組み始めている(1)(2)。
地方公共団体が主体となって農地のあっせん等に取り組むことにより被災地外企業の誘致を進める。
被災地外企業との連携により、生産者の経営の安定化や地域の雇用機会の創出を図る。
地元資源を活用した商品開発、高品質な農産物のブランド化等による付加価値を高めることで、新たな販路を開拓する。
震災による影響を受けた土地から得られた栽培ノウハウを生かし、新たな事業展開を図る。
(1) 東北農政局「農地所有適格法人及び一般法人の農業参入について 農地所有適格法人の参入事例:ICTを取り入れた先端技術でイチゴづくり(株式会社GRA)」2015年10月
(2) 日本貿易振興機構(JETRO)ジェトロ活用事例「農業生産法人 株式会社GRA:復興の想いを込めた“ミガキイチゴ”をインドへ」2014年3月
https://www.jetro.go.jp/case_study/gra.html