39)
企業立地の促進
復旧期復興前期復興後期
② 新規立地企業をどのように地域産業の集積強化につなげるか
東日本大震災における状況と課題
東北地方の製造業は、震災による工場の被災やサプライチェーンの寸断により大きなダメージを受けた。被災三県の沿岸部では、震災直後に製造品出荷額等が大きく落ち込み、2018年に概ね震災前の水準に回復したが、依然として沿岸部の地方公共団体間で回復の状況に格差があり、地域の課題・実情に応じた適切な事業者支援のあり方の検討が必要となった(1)。
被災地の経済が持続的に成長し産業の本格的な復興を実現するためには、既存産業の競争力の強化に併せて、成長性に富む新産業の立地を進める必要がある。福島県沿岸部では、原発事故の教訓を踏まえて、わが国の経済を牽引する新産業の立地を戦略的に進めている。
また、復興支援の一環として大手企業が被災地に生産拠点を立地する動きに併せ、地域の基幹産業の集積強化を進めることも産業政策の重要な課題となっている。
東日本大震災における取組
企業立地補助制度による後押し(課題①)
国は、津波で被災した東北沿岸部や福島県を対象とした「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」(津波立地補助金)や福島県の避難指示区域等を対象に住民の帰還を支援する「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」(自立立地補助金)等地域の課題に対応した各種企業立地補助金を創設し、新規企業の誘致や既存企業の生産能力向上等を強力に支援し地域の産業振興、雇用の創出に貢献した(2)(3) 。
宮城県石巻市で精密加工を行う株式会社エヌエス機器では航空機エンジン部品等の受注増加に対応すべく、津波立地補助金の活用により、工場を増設し4名の従業員を新規雇用している(4)。
地域の立地環境を生かした企業誘致(課題①)
有限会社バイオケムはサケの白子から抽出した医薬品原薬や化粧品原料、健康食品原料などを製造し、未利用水産資源を有効利用している。バイオケム社は津波立地補助金を活用し、陸前高田市の防災集団移転促進事業の移転元地に新工場を建設した(2021年稼働開始)。三陸沿岸はサケなど水産資源が豊富で、建設地付近には水産加工会社が集積しており、水産資源を活用する企業や大学等の研究施設に最適な立地環境である(事例39-1)。
研究開発・新産業創造拠点構想の推進(課題①②)
福島県浜通り地域では、廃炉の推進をはじめ、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6つの分野を重点に新たな産業基盤の構築をめざす国家プロジェクトとして福島イノベーション・コースト構想の実現が進められている。日本原子力研究開発機構が福島県富岡町に廃炉環境国際共同研究センター研究棟を整備したほか、2017年7月に設立された公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構は、国や福島県と連携して構想の具体化に取り組んでおり、南相馬市、浪江町では福島ロボットテストフィールドでロボットの開発・実証を進めている。こうした研究拠点をもとにした新産業の創出をめざして、同推進機構は企業立地セミナーの開催、進出企業と地元企業とのマッチング、廃炉関連ビジネスのマッチングなどにも取り組んでいる(5)。
環境分野では、株式会社相双スマートエコカンパニー(福島県大熊町)が2020年10月より、特定復興再生拠点区域の整備に伴って排出されるアスファルト等の不燃性廃棄物の再資源化事業を行っている(6)。
次世代医療産業集積プロジェクトの推進(課題①②)
福島県は大手医療機器メーカーの生産拠点が数多く立地するとともに、その生産を支える中小企業も集積し、医療機器受託生産額、医療用機械器具の部品生産額が全国一であるなど、医療機器の一大クラスターを形成している。県では、震災復興の重点プロジェクトの一つに医療関連産業の集積を位置づけ、ものづくり企業の医療機器開発や国内外の販路開拓を支援している。2016年11月には、医療機器の開発から事業化までを一体的に支援する「ふくしま医療機器開発支援センター」を開設し、安全性の評価や事業化の相談・助言、人材育成・訓練などを支援することにより、医療関連産業の更なる集積を推進している(7)。
部品・加工企業と組立メーカーとの好循環による自動車産業の集積(課題①②)
宮城県は、2006年5月、関東自動車工業岩手工場の増産に対応して、「みやぎ自動車産業振興協議会」を設立し、地元企業の自動車関連産業への新規参入と取引拡大、産業集積に向けた取組を始めていた。トヨタグループが、震災後、コンパクトカーの企画・開発・生産を行うトヨタ自動車東日本株式会社を宮城県大衡村に設立したことを踏まえ、2012年5月に「みやぎ自動車産業振興プラン」を策定し、中小企業による自動車の生産技術の開発や人材育成の面から支援するとともに、開発した技術や試作品をサプライヤーに売り込むマッチングを実施した。その結果、2015年度末までに219件の新規受注を獲得するなど受注が増加している(8)。
ロボットや医療機器など次世代の成長産業を戦略的に集積させ、産業の復興を推進する。
新規企業の誘致や既存企業の生産能力強化等を支援する。
企業誘致に当たっては、補助制度に加え、地域の自然環境や労働力、産業集積などの優位性をアピールする。
地域企業が基幹産業への新規参入・取引拡大できるよう、技術開発・人材育成等の事業環境の整備を支援する。
(1) 復興庁「「復興・創生期間」後における東日本大震災からの復興の基本方針」2019年
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat12/sub-cat12-1/20191220_kihonhoshin.pdf
(2) 復興庁「東日本大震災の被災地への企業立地について」2019年
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-20/190325sankou2-1.pdf
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-20/190325sankou2-2.pdf
(3) 東北経済産業局「東北地域における産業復興の現状と今後の取組」2020年2月
(4) 東北経済産業局「復興事例集~被災地復興に向けた事業者の取り組み~」2020年2月
(5) 福島イノベーション・コースト構想推進機構
https://www.fipo.or.jp/
(6) DOWAエコシステム株式会社「相双スマートエコカンパニーが竣工式を行いました」2020年10月5日
https://www.dowa-eco.co.jp/release/20201005_1747.html
(7) 福島県「次世代医療産業集積プロジェクト」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/w4/iryou-pj/index.php
(8) みやぎ自動車産業振興協議会「「みやぎ自動車産業振興プラン」中間評価について」2016年5月