復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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資金供給の支援

応急期復旧期復興前期復興後期

課題
① 被災事業者の復興に向けた資金調達をどのように支援するか
② 事業再生の障害となる二重債務問題をどのように解決するか

東日本大震災における状況と課題

 震災発生直後から、国は金融機関に対し、被災者の厳しい状況に照らし、まずは返済猶予等の条件変更に弾力的に対応するよう要請した。また、産業の再生・復興を実現するためには、被災した事業者が事業再生のために必要とする資金をいかに迅速かつ円滑に調達できるかが喫緊の課題となった。特に、震災前からの債務が事業再生の負担となる事業者の二重債務問題は、阪神・淡路大震災でも産業復興の障害となったが、今回の大震災でも解決すべき政策課題となった。加えて、被災地の金融機関は自らも被災し、財務状況が大きく悪化することが懸念されたこと等から、地域の金融機能を維持・強化するとともに、預金者へ安心感を与える必要があった。

東日本大震災における取組

融資制度・信用保証制度の拡充(課題①)

 国においては、事業の復旧に必要な設備資金・運転資金を日本政策金融公庫・商工中金が長期・低利で融資する「東日本大震災復興特別貸付」(2011年5月より実施)を設け、震災によって直接又は間接の被害を受けた中小企業・小規模事業者に対して迅速・円滑な資金調達を行ったほか、通常の保証枠とは別枠で融資額(最大2億8千万円)の100%を信用保証協会が保証する「東日本大震災復興緊急保証」(2011年度より実施)を創設し、震災により不動産等の資産が失われた中小企業等の信用力を補完するなど、強力な資金繰り支援を実施した。2020年9月末までに、30万4千件、6兆1,232億円の特別貸付、14万8千件、2兆9,896億円の緊急保証を実施するなど(1)、多くの被災した中小企業・小規模事業者の早期の復旧・復興に寄与した。
 被災3県(岩手、宮城、福島)においても、信用保証協会による保証付きの被災者事業向け融資に関して、保証料補給等を行う制度を創設し、民間金融機関による資金繰り支援が実施された。

クラウドファンディングによる資金調達(課題①)

 復旧の局面において、インターネット上で不特定多数の支援者から資金を集めるクラウドファンディングを活用した事例が見られた。例えば、岩手県陸前高田市の株式会社八木澤商店は、創業200年を超える醤油・みそ製造事業者で、津波により工場や蔵の設備がすべて流失したが、2011年4月にOEMにより醤油の製造を再開し、12月には一関市内に工場を借りて、つゆ・たれの製造を再開した。再開に当たっては、ミュージックセキュリティーズ株式会社が運営する「セキュリテ被災地応援ファンド」という投資型と寄付型のハイブリッドの仕組み(個人等が支援したい事業に係るファンドを選んで資金を投入すると、投入額の約半分が出資金、約半分が寄付金となる)を活用した「八木澤商店ファンド」により資金調達を行い、3か月で目標の5千万円の資金を調達した。追加募集した「八木澤商店しょうゆ醸造ファンド」をあわせると支援者は3千人を超えた(2)(3)
 なお、同社は2012年10月に一関市内に自社工場を再建し、翌年2月から製造を開始した。震災後は醤油等を使ったさんま干しなど多数の加工食品を開発し、ネット販売も活用して事業の拡大を進めている(4)

被災地の金融機能の維持・強化(課題①)

 2011年6月、金融機能強化法に震災特例を設ける改正が行われ、被災地における円滑な信用供与を行うために、自己資本の充実を図ることが必要となった地域金融機関に対する国の資本参加の条件が緩和された。この震災特例により、2012年末までに宮城県気仙沼市の気仙沼信用金庫を含め、12金融機関に2,310億円の公的資金が投入され(一部国へ返済済み)(5)、地域の金融機能が維持・強化された。これにより、地域金融機関による中小企業等に対する円滑な資金供給や震災からの復興に向けた多方面にわたる支援が可能になり、地域経済の活性化や被災地域の復興に貢献した(事例38-1)。

産業復興機構・株式会社東日本大震災事業者再生支援機構の設立(課題②)

 被災6県(岩手、宮城、福島、青森、茨城、千葉)は、二重債務問題を解決するため、2011年10月から県内の再生支援協議会を拡充する形で産業復興相談センターを順次設けるとともに、地元金融機関や中小企業基盤整備機構との共同出資により産業復興機構(青森県を除く。)を設立し(6)、事業再生計画の策定や債権者との調整を行った。2020年11月末時点の相談件数は6,825件、金融機関の支援の合意件数は1,374件(債権買取決定件数は339件)に上った(7)
 また、国は2012年2月に株式会社東日本大震災事業者再生支援機構を設立した。同機構では、最長15年の事業再生計画を策定し、支援決定を受けた事業者に対し、債権買取のほか、債務保証、債務免除等の支援を行った(8)。2020年11月末時点の相談件数は2,938件、支援決定件数は744件、債権買取件数709件に上っており(9)、これらの支援を通じて、被災3県合計で約14,200人の雇用の維持につながった。一方、いずれの機構も関係金融機関との合意形成等に時間を要し、支援を行うまでに一定期間を要した案件も見られるなどの課題も見られた(10)

教訓・ノウハウ
① 被災企業の資金繰りを迅速・円滑に支援する

被災事業者の早期復旧・復興のため、強力な融資制度や保証制度を迅速に創設する。

事業者は、クラウドファンディングを活用して広く個人から資金の調達等を進める。

地域の金融機能が維持・強化されるような枠組を設け適切に運用する。

② 十分なキャッシュフローが見込める被災企業の二重債務問題は、旧債務の買取等及び長期の事業再生計画により対応する

平時から地域の再生支援協議会等が金融機関と連携して事業の再生支援を行う。

迅速に二重債務問題を解決するため、必要に応じて制度等を創設し、案件処理を進める。

※二重債務問題:自然災害などにより、既往債務を抱える事業者が新たに大きな金額の借入を必要とする際、新規の借り入れ等が困難となる問題。東日本大震災では、工場や店舗を津波で流された事業者などが事業再生を図る際に直面した。
<出典>
(1) 中小企業庁「東日本大震災後の資金繰り支援策の実施状況」
(2) 復興庁「被災地で55の挑戦 産業復興事例集 岩手県における事例」2013年4月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/20130419_casebook_03iwate-2.pdf

(3) ミュージックセキュリティーズ株式会社「八木澤商店ファンド」
https://www.securite.jp/fund/detail/167

(4) 八木澤商店
https://yagisawa-s.jp/

(5) 金融庁「金融庁の1年 平成27事務年度版」2016年11月(資料編)「資料9-5-4 金融機能強化法の震災特例に基づき資本参加を行った金融機関における「経営強化計画の履行状況(平成27年3月期)」の概要
https://www.fsa.go.jp/common/paper/27/zentai/03.pdf

(6) 中小企業庁「産業復興相談センター・産業復興機構の概要」
(7) 中小企業庁「産業復興相談センターの受付状況」2020年11月
(8) 復興庁「東日本大震災事業者再生支援機構について」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/post-34.html

(9) 東日本大震災事業者再生支援機構「活動状況報告」2020年12月17日
http://www.shien-kiko.co.jp/pdf/201217shien-kiko_pressrelease.pdf

(10) 会計検査院「平成24年度決算検査報告 第4章第3節第2東日本大震災に対処するための事業者に対する再生支援及び金融機関に対する資本増強措置の実施状況について」2013年11月7日
https://report.jbaudit.go.jp/org/h24/2012-h24-1023-0.htm

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