51)
ソフト面での観光事業の存続・展開
復興前期復興後期
② 観光事業の推進体制をどのように強化・整備するか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災の地震・津波災害や原発事故の発生により、観光施設の損壊や流失といったハード面の被害に加え、被災による風評被害や観光の自粛ムードといったソフト面での影響も観光客の減少に大きな影響を与えた。被災地では、沿岸部を中心に観光客を呼び戻し、さらに増加させていくため、どのように地域の魅力をアピールするのか、どのように情報発信をするかが課題となった。また、継続的に観光客を誘致するための体制をどのように強化・整備するかも大きな課題となった。
東日本大震災における取組
地域の魅力ある食や文化のアピール(課題①)
福島県相馬市の松川浦地区は県内随一の良港と風光明媚な景観で知られる地域であるが、津波でほぼ全域が被災し、原発事故に伴う漁業規制や風評被害により、観光事業者単独での観光復興は困難であった。そこで、相馬市観光協会と松川浦旅館組合を中心に27事業者で松川浦観光振興グループを結成し、グループ補助金を申請して施設・設備の復旧を進めた(事例51-1)。また、地元の海産物を活用した「復興チャレンジ丼」を開発、メンバーの飲食店や旅館で提供し話題となった。さらに、「磯遊びツアー」の企画及び実施を通じて「おいしい魚の町、松川浦」を全国にアピールし、観光客の増加を達成している(1)。
地域との交流を生み出す「体験型交流観光」の推進(課題①)
岩手県田野畑村は、震災前より、机浜に残る番屋(漁師小屋)群を活用した体験型交流観光の取組を始めており、2008年にNPO法人体験村・たのはたネットワークを設立して漁師との交流プログラムやサッパ船(磯船)クルーズを実施し、成果が出始めていた。震災で番屋群は津波で流出したが、村は復興のシンボルとして「机浜番屋群再生プロジェクト」を打ち出し、全国のサポーター94名から230万円の募金を受け、村も復興交付金を活用して番屋群の再生を進めた。サッパ船クルーズの再開や大津波語り部・ガイドツアーも実施し、観光客の誘致に取り組んでいる(2)。
被災地を対象とした全国的なキャンペーンの展開(課題①)
JRグループ6社は、毎年、地方公共団体や観光関係者との共同による大型観光キャンペーンとして「デスティネーションキャンペーン」を展開し、地域の新たな魅力を全国に発信し観光客を誘致する取組を実施している。東日本大震災後の2012年には岩手県、2013年には宮城県・仙台市、2015年には福島県でキャンペーンが実施され、全国から被災地に観光客を取り戻す取組が展開された。2021年4月から6か月間、東北6県の地方公共団体や観光事業者が一体となって「東北デスティネーションキャンペーン」を展開する予定であり、6県におけるさまざまなテーマ・ルートでの周遊を企画し発信することにより、東北地方への観光客の創出と拡大を目指している(3)(4)。
自主事業の企画による観光推進組織の強化(課題②)
宮城県南三陸町の一般社団法人南三陸町観光協会は、2009年に法人化した時点では、正規職員は1名(緊急雇用事業で数名在職)であり、町からの委託事業は実施するものの、協会独自の観光事業を企画できる状況ではなかった。しかし、東日本大震災後は、国の緊急雇用事業や支援プロジェクトを活用して、情報やデザインなどさまざまなスキルを持つ者を臨時職員として10数名採用し、語り部ガイドによる講話や震災学習ツアーを企画し、2011年8月から全国に向けて販売している。また、町のキャンプ場の運営を行う指定管理者となり事業の拡大を進めている。さらに、臨時職員の正規雇用化を進めるなど組織基盤を強化している(5)(6)。
地域DMOの設立による地域一体となった観光振興(課題②)
観光庁では、観光地域づくりを行う法人としてDMO(Destination Management/Marketing Organization)の登録制度を2015年11月に創設し、関係省庁の支援策の重点実施などの支援を行っている。各地域では、地方公共団体や事業者が共同して観光戦略の策定に取り組む地域DMOの設立の機運が高まっている。
宮城県気仙沼市では、2017年4月、気仙沼市、観光コンベンション協会、リアス観光創造プラットフォームなどにより地域DMOとして一般社団法人気仙沼地域戦略が設立され、地域の関係者が一体となってマーケティングや観光戦略の策定、PR、商品開発を行っている。その際、観光事業の全般にわたる意思決定やマネジメントは、市、商工会議所、気仙沼地域戦略などで設立する気仙沼観光推進機構が担うこととした。気仙沼地域戦略の設立によって、市の観光事業に関する行政機関や業界間の役割が整理されただけでなく、気仙沼市の観光事業全般を俯瞰することが可能となったため、震災前に比べてより強力な体制で事業を推進することが可能となった(7)。
集客力を高めるため、地域ならではの魅力ある資源をアピールした情報発信を行う。
「見る」だけでなく「体験型」のプログラムを通じて、地域の交流人口を増やす。
地方公共団体・観光関係者・交通事業者が連携して、魅力ある観光資源を国内外に発信する。
観光協会の自主事業を企画し、収益力の向上や人員確保など組織強化を進める。
地域の行政機関や観光事業者が一体となって観光事業を企画・運営する推進組織を設置する。
(1) 復興庁「岩手・宮城・福島の産業復興事例30 想いを受け継ぐ次代の萌芽」2019年2月
(2) 復興庁「被災地での55の挑戦―企業による復興事業事例集―」vol.1 2013年3月
https://www.reconstruction.go.jp/topics/20130419_casebook_full.pdf
(3) トレたび「デスティネーションキャンペーンの歴史(2008年~現在)」
https://www.toretabi.jp/travel_info/entry-2114.html
(4) 旅東北 東北の観光・旅行情報サイト「「巡るたび、出会う旅。東北」特設サイト東北デスティネーションキャンペーン」
https://www.tohokukanko.jp/dc/
(5) 復興庁「2016-2017 産業復興事例30選 東北発私たちの挑戦」2017年2月 p50-53
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/2016fukko-03.pdf
(6) 南三陸町ホームページ「指定管理者制度の導入状況」
https://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/index.cfm/8,659,48,218,html
(7) 公益社団法人日本観光振興協会「第24回 DMO先進事例に学ぶ ケース20:一般社団法人気仙沼地域戦略(地域DMO)」2019年6月
https://www.nihon-kankou.or.jp/dmo/news/news27.html