復興の教訓・ノウハウ集

復興の教訓・ノウハウ集

災害からの復旧・復興過程で生じる課題に対し、東日本大震災における状況とこれに応じた官民の取組事例、専門的知見も踏まえた教訓・ノウハウを記載しています。(令和3年3月公表)

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ソフト面での観光事業の存続・展開

事例名 地域の食・文化を活用した観光キャンペーンの創設
松川浦観光振興グループ
場所 福島県相馬市
取組時期 応急期復旧期復興前期復興後期
取組主体 松川浦観光振興グループ、福島県相馬市、相馬市観光協会、相馬市松川浦観光旅館組合

取組概要

 福島県相馬市では、多くの観光客を被災地へと呼び起こすために、持続的な観光資源として海に注目し、「松川浦」・「海産物」をコンセプトとした新たな観光商品として「復興チャレンジグルメ」「蟹釣り体験」等のエコツアーを開発し、市全体での観光復興を推進している。
 松川浦地区の観光政策は、市の観光協会、旅館組合、飲食店や土産物店がチームを組んで、松川浦観光振興グループをたちあげ、地区の事業者グループが中心となって推進している。グループ活動を通じて、新商品の開発や魅力の継続的な発信等を行うとともに観光キャンペーンの周知活動を熱心に行うなどして、県・市の観光復興や地域活性化に貢献している。

具体的内容

震災前における相馬市の状況

 福島県相馬市は、震災前には年間約50億円弱の漁獲高を誇る漁港と、日本百景の一つに選定された県立自然公園松川浦をもつ街として全国的に知られており、沿岸部には旅館や海産直売所、お土産屋や飲食店などが立ち並ぶ県内有数の観光地である。
 東日本大震災によって、相馬市は沿岸部を中心に甚大な被害を受け、産業全般が壊滅的な被害を受け、さらに福島第一原発事故による漁業の自主規制と風評被害の影響を受けた。震災の影響で名物のズワイガニの漁獲量は被災前の約15%と大幅に減少し、地元食材を安定供給することができなくなった。そのため相馬市や松川浦地区では従来通りに観光客を受け入れられなくなり、観光産業は非常に大きな打撃を受けた。
 また、被災直後は被災地の復旧作業に当たっていた作業員が宿泊施設として松川浦の旅館を利用していたが、撤退後は観光客の動きが鈍く、売り上げが減少した。復興のためには一刻も早く観光客を呼び戻す必要があった。

事業者の協同化:「松川浦観光振興グループ」を結成

 相馬市に観光客を呼び戻すために、松川浦観光旅館組合を中心に、飲食店、土産物店、対岸の事業者等も参加し合計27事業者(松川浦地区:25事業者、岩子地区:2事業者)が集まり、観光復興を目指したグループ「松川浦観光振興グループ」を結成した。
 このグループで「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業(グループ補助金)」を活用し、被災前と同じ場所で施設を復旧し事業を再開した。

既存の観光資源を活用:「海」を使った観光キャンペーンの創出

 グループでは、相馬市がもつ観光資源として「海」に注目した。地元の若者たちが集まって「松川浦ガイドの会」を結成し、観光資源の発掘に奔走した。若手中心の活動によって、ガイド達がさまざまな観光資源を発掘し、新しい価値を生み出す観光プランの創出に取り組んだ。また、「松川浦=とにかく魚のおいしい町」という人々の記憶を風化させないために、グループに参加する11軒の旅館・飲食店で、魚を通じた新たな商品開発にも取り組んだ。グループの若手が中心となって積極的に会議を開き、松川浦の復興のためのアイデアを出し合い、実現に向けた議論を行った。

新たな商品の開発:復興チャレンジグルメ・エコツアー

 グループでは、「まずは松川浦の復興への頑張りを急いでアピールすることが大事」だと考え、「復興チャレンジ丼」を企画。現在は「復興チャレンジグルメ」として、「元気な松川浦」というイメージを知ってもらうために、飽きられないような工夫を凝らしたメニューを企画し、多くの観光客の呼び戻しを進めている。
 また、以前から地元の子供たちに親しまれていた磯辺でのカニ釣りなどを体験コンテンツ化して、新たに「エコツアー」も企画。相馬市観光協会の協力のもと、家族向けのイベントとして、プロモーション活動がなされている。

既存の観光資源を活用:「海」を使った観光キャンペーンの創出

写真:復興チャレンジグルメの広告
(出典:相馬市松川浦観光振興グループ)

今後の取組について

 松川浦観光振興グループは、今後に向けて「インバウンド向けの原発ツアー」を企画・実現することを目指し活動を進めている。将来的には松川浦での宿泊をセットした観光プランを提案して市の更なる活性化を目指して、若手を中心に観光に関する新たな取組を模索している。

<出典>(他の事例集等への掲載)
・復興庁「被災地での55の挑戦―企業による復興事業事例集―」(2013年3月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/post_197.html

・復興庁「岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ次代の萌芽~東日本大震災から8年~」(2019年2月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20190215142526.html

・独立行政法人中小企業基盤整備機構「松川浦を拠点に、観光による再生を」(2012年8月)
<活用された制度>
・中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業(グループ補助金)
<事業費>
・15億円(うち国費11億2千5百万円)

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