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水産業の事業再開に向けた取組
事例名 | 水産加工業者による協同組合の設立 |
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場所 | 宮城県気仙沼市 |
取組時期 | 応急期復旧期復興前期復興後期 |
取組主体 | 気仙沼鹿折加工協同組合、気仙沼市 |
取組概要
東日本大震災による津波被害を受けた宮城県気仙沼市では、地域の基幹産業である水産加工業の再生を目指して、鹿折(ししおり)地区に気仙沼漁港の区域を拡大し水産加工施設を集積させることとした。一方、水産加工業者でも17社が参画して水産加工協同組合を設立し、冷凍・冷蔵施設や事務所棟など共同利用施設を整備し生産コストの削減を進めた。
また、気仙沼漁港で水揚げされる水産物原料に、新商品を開発し「気仙沼鹿折」ブランドで国内外への販路開拓を進めており、新たな視点で水産加工業の再生に取り組んでいる。
具体的内容
気仙沼漁港の復旧と漁港区域の拡大
気仙沼漁港はカツオ、メカジキ、サメなどの水揚げで知られる日本有数の漁港であり、東日本大震災の津波で大きく被災したため、国の代行による災害復旧工事が進められ、2014年10月に完了し、すべての施設が利用可能となった。復旧に当たっては、石巻、塩釜等の漁港と同様、高度衛生管理手法(HACCP)を導入し、衛生管理に対応した岸壁と荷さばき所(魚市場)の一体的整備が進められた。
一方、水産加工施設や製氷冷凍施設など水産加工業者の施設・設備は津波で流失し、地域の基幹産業である水産加工業の再生が重要な課題となっていた。このため、気仙沼市では、市内の2地区(鹿折地区、南気仙沼地区)に新たに水産加工施設等集積地を整備することとし、コストの削減、作業の効率化等による体質強化をめざした。
2012年6月、これら2地区を漁港区域に含めるため、農林水産大臣によって漁港区域の拡大が行われ、8月より気仙沼市は国の水産基盤整備事業を活用して土地の嵩上げ工事を進めた。
水産加工業協同組合の設立
鹿折地区については、2012年7月、沿岸部の水産業を一日も早く復旧させるために、市内の水産加工業者17社が参画し、複数の大手商社が支援する「気仙沼鹿折加工協同組合」を設立。工場・事業所の再建に向けて土地の換地・集約等行政側との調整や土地の嵩上げなどの交渉に当たるなど一日も早い事業再開を目指した。震災前はライバル同士で連携はなかったものの、共同組合の設立には全員が賛成した。設立直後に取り組んだことは、嵩上げ後の土地の割振り。各社とも、一番良い場所に再建したいのは当然であり調整は困難であったが、1社ずつ対話を重ねることで、迅速に各社の場所を決めることができた。業種柄、事業者間のつながりがほとんどない状態であったため、当時の理事長は土地の割振りに非常に苦労したという。
2014年5月に市による11ha土地の嵩上げ工事が完了し、それまで漁港区域の隣接地でグループ補助金を活用してプレハブの仮設加工場で水産加工を行っていた組合員企業らが新たな土地で加工場を建設することになった。
組合では組合員企業が共同で利用する冷凍・冷蔵施設や海水滅菌処理施設、事務所棟などの共同利用施設を整備することにより、各社のコストの大幅な削減を図った。
新商品開発とブランド化
組合では、施設の整備だけでなく、新商品の開発とブランド化による販路開拓にも取り組んでいる。
組合は、2014年キリン株式会社・公益財団法人日本財団による「キリン絆プロジェクト」の支援を受け、「海とごちそう」という組合統一のブランド商品の開発を進め、仙台うみの杜水族館他、ネットでも販売されている。

写真:「海とごちそう」ギフトセット
(出典:気仙沼鹿折加工協同組合 提供)
海外への販路拡大
共同利用施設として整備した事務所棟には、調理設備を整えたプレゼンルームを開設しており、商品提案の場となっている。現在、組合員は20社となっており、海外への販路拡大を目指して、2016年にはシンガポールでの展示会へ参加し取引を行い、また2019年からはタイで販路拡大の活動を行うなど、海外での商品販売も積極的に実施している。
・水産庁「東日本大震災からの水産業復興へ向けた現状と課題」(2020年3月)
・水産庁「平成24年度水産白書」(2015年)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h24/attach/pdf/05_2shou1setu.pdf
・復興庁「復興推進委員会第7回 参考資料2 復興に向けた取組事例」(2013年2月)
https://www.reconstruction.go.jp/topics/20130509_sanko02.pdf
・亀岡紘平「宮城県内の水産加工業の復旧状況と協同組合の貢献」農林金融(2015年6月)
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1506re1.pdf
・キリン株式会社・公益財団法人日本財団「復興応援キリン絆プロジェクト 水産業復興支援事業:気仙沼鹿折水産加工業協同組合における組合商品開発、およびブランド化事業」
・水産基盤整備事業(水産庁)
・中小企業組合等共同施設等災害復旧事業(復興庁)
・キリン絆プロジェクト