54)
ボランティア・NPO等の人材の確保と平時からの連携
応急期復旧期
② 被災者の避難生活におけるニーズにどのように応えるか
③ 国際的な支援やノウハウをどのように生かすか
東日本大震災における状況と課題
東日本大震災では、支援すべき被災者が広域に発生した。避難所生活者や在宅避難者に対する物資確保を始めとする避難生活における様々なニーズが発生し、多くの支援者の力を必要とした。こうした中、4月29日から5月5日までの一週間で、各市町村社会福祉協議会に設置された災害ボランティアセンターを経由して活動したボランティアだけでも、延べ7万人にまで達した(1)。ボランティアが支援活動を行った動機としては、「被災地の役に立ちたいと思ったため」が7割近くと多く(2)、強い共助の意識に基づく自発性が全国的に高まる一方で、ボランティアとして、被災地に支援に向かいたい人々を受け入れるための仕組みが求められた。
また、国難に遭った日本に対し、海外からも被災地に対して支援の手が差し伸べられ、163の国・地域の政府・当局及び43の国際機関から、救助チーム派遣・物資提供・寄付金提供等の申し入れがあった(3)。国内でも、難民支援など海外での支援実績のある団体が自身のノウハウを活かして多様な支援を行った(4)。
東日本大震災における取組
災害ボランティアセンターの開設(課題①)
被災地各地では発災後、ボランティアの受け入れ、派遣を行う災害ボランティアセンターが立ち上げられた。センターの運営に当たっては、全国の社会福祉協議会からの派遣、地元の民生委員や福祉団体、NPO等よりスタッフを確保した(5)。また、「災害ボランティア活動支援プロジェクト会議」は、災害ボランティアセンターの運営体制作りや行政機関・NPO等との連携調整を支援する「運営支援員」を全国から派遣した。一方で、市町村地域防災計画等における災害ボランティアセンターの設置等の記載、マニュアルの準備、訓練の実施といったボランティア受け入れのための事前の準備が不十分な団体もあり、受け入れ後の運営に課題を残した(6)。
災害ボランティアの受け入れの後方支援(課題①)
岩手県遠野市では、2007年に「三陸地域地震災害後方支援拠点施設整備推進協議会」を9市町村で設立し、平時から沿岸地方公共団体への後方支援拠点として支援体制を整えていた。こうした背景もあり、震災発生直後の3月28日に、遠野市民、遠野市社会福祉協議会及びボランティア団体を中心としてNPO法人遠野まごころネットが設立され、災害ボランティアの受け入れと被災地への派遣活動を行ってきた(7)(8)。具体的には、ボランティアを遠野市の窓口で登録した後、各被災地までの送迎バスの手配、宿泊所の確保を行い(9)、被災地方公共団体と連携して被災地に災害ボランティアを派遣した(10)。遠野市で災害ボランティアを受け入れたことで、被災した現地に災害ボランティアが殺到して地方公共団体の負担となることを回避することにつながった。
インターネットを活用したボランティア受け入れ業務の支援(課題①)
NPO法人ボランティアインフォは、インターネットを用いたボランティアの受付、派遣支援を行った。具体的には、現地訪問チームが避難所の被災者や行政機関からボランティアの支援ニーズを聞き取り、後方にいるボランティア情報入力チームがアクセス数の多いサイト(Yahooボランティア、Nifty等)に必要なボランティアの数や活動内容、活動場所などの情報を掲載する。2011年5月から2012年度末までに被災三県の約5,000件のボランティア情報を掲載し、現在はボランティア活動促進の啓発活動も並行して行っている(11)。
ボランティアセンターと連携した被災者生活ニーズへの対応(課題②)
応急期には、被災者のニーズに応じた水・食糧等の支援物資の確保や配布の必要性が高まった。NPO法人ピープルは、調理済または自炊用の食材の提供を実施し、提供食数は10,000食以上にのぼった。さらに、炊き出し中に収集した情報を元に、他のNPO団体等と連携し、支援物資・救援物資の確保・配布を実施した。また、いわき市小名浜地区災害ボランティアセンターの立ち上げに参画し、支援物資の配布や津波被災地における家財道具の片付け・掃除の手伝い、側溝などからの津波土砂の取り除きなど、被災者の生活ニーズへの対応を実現した(12)。
国際NGOピースボートは、「ピースボート災害ボランティアセンター」を設立(後にピースボート災害支援センターに変更)し、宮城県石巻市と女川町を中心に、いち早く大規模なボランティアを組織し緊急支援を開始した。具体的には、食事支援や物資配布はもちろんのこと、避難所において「布団乾燥」、「避難所内徹底清掃」、「新品布団の配布/取り替え」などを行うチーム「ダニバスターズ」を派遣し清掃活動を行った。また、仮設の公衆浴場支援も実施している(13)。
被災地の物資ニーズ調査による効率的な物資配分の実現(課題②)
国内外の緊急人道支援を行ってきたNGOジャパン・プラットフォーム(JPF)は、発災から3時間以内に出動を決定し、JPF加盟NGOによる緊急支援を開始した。168の企業・団体からの物資提供やサービスの申し出とNGOからの被災地の物資ニーズとをマッチングさせる取り組みを行い、200組を超えるマッチングを成立させ、物資を配分した(14)(15)。物資は難民支援を行うAAR Japanや途上国の開発支援を行うADRA JapanなどNGOに分配された後、各被災地の需要を調査したうえで地元NPOや避難所に配分された。
国際的な難民支援のノウハウを活用した被災者支援(課題③)
認定NPO法人難民支援協会は、2011年から2013年4月までに、コミュニティ支援事業や難民ボランティア派遣事業などの支援を行い、被災者の多様な需要に応えた。このうち生活再建の支援として、これまでの活動で協力を得ていた弁護士の参加のもと、避難所で生活再建支援法や相続、住宅ローンの説明を行った。2013年3月までに累計242件の法律相談と説明会を行い、3,011名が参加した(事例54-1)。
海外からの寄付金・専門家チームの派遣(課題③)
各国の政府、民間から日本赤十字社に寄せられた寄付金額は、2020年4月30日時点で3,838億円に上り、北海道・東北・関東・北陸の14都道県に分配された(16)。寄付金は都道県を通じて市町村に送られ、被災者の支援に用いられた。各国からの支援としては、イスラエルやヨルダンによる医療チームや国際原子力機関(IAEA)による原子力専門家チームの派遣、ユニセフからの教育物資の支援など、各国・組織ごとに特色のある支援が行われた(3)。
社会福祉協議会が災害時に立ち上げるボランティアセンター機能については、体制整備・マニュアル整備・訓練等を事前に検討しておく。
ボランティアが現地入りする前に、NPO等や市民などで構成される団体が派遣・受け入れ調整を行い、被災地のボランティアセンターの負担を軽減する。
インターネットを活用し、ボランティアの呼びかけ、受付、派遣調整を行う。
迅速な連携により被災者に緊急物資の提供や炊き出しを実施する。
企業・団体から衣類などの生活関連物資を確保し、各避難所のニーズとのマッチングを行い、避難所に物資の継続的な配分を行う。
被災者が衛生面に配慮した避難生活を送れるよう、避難所内の清掃や布団乾燥などの環境整備を支援する。
国際的な支援活動を行ってきたNPO等が被災した外国人に多言語での情報提供や生活再建の相談などの被災者支援を行う。
医療や教育などの専門家チームを各国から受け入れ、多様な分野でその知見を生かして支援を行う。
(1) 社会福祉法人全国社会福祉協議会「2011.3.11東日本大震災への社会福祉分野の取り組みと課題」2013年,p36
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10403957_po_katsudou_kiroku.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
(2) 内閣府防災担当「東日本大震災における共助による支援活動に関する調査報告書~支援側及び受援側の意識の変化について~」2013年10月,p10
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/hisaishashien2/pdf/dai2kai/sankou8.pdf
(3) 外務省「東日本大震災に際しての諸外国等からの物資支援・寄附金一覧」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2012/html/data/data1_01.html
(4) 外務省「外交青書2012」2012年4月,p24
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2012/pdf/pdfs/1.pdf
(5) 内閣府(防災担当)「東日本大震災に係る災害ボランティア活動の実態調査 表1」2018年,p6
http://www.bousai.go.jp/shiryou/kyoiku/volunteer/pdf/120625jittaichousa.pdf
(6) 内閣府(防災担当)「東日本大震災に係る災害ボランティア活動の実態調査 表2」2018年,p7
http://www.bousai.go.jp/shiryou/kyoiku/volunteer/pdf/120625jittaichousa.pdf
(7) 内閣府「平成24年版防災白書(2)東日本大震災におけるボランティアの取組」
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h24/bousai2012/html/honbun/1b_2h_4s_02_02.htm
(8) 遠野まごころネット「遠野の地理的条件」
https://tonomagokoro.net/about#about-chiri
(9) 遠野まごころネット「月別アーカイブ 2011年4月」
https://tonomagokoro.net/archives/date/2011/04
(10) 株式会社日本能率協会総合研究所「平成26年度東日本の被災地におけるNPO法人等による復興・被災者支援の推進に関する調査 報告書」2015年
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/uneiryoku/pdf/h26_result.pdf
(11) NPO法人インフォ「活動報告 第1期~第7期」
http://volunteerinfo.jp/report
(12) NPO法人ザ・ピープル「小名浜地区における支援活動と今後の計画 支援事業計画 第1期」
(13) 一般社団法人ピースボート災害支援センター「東日本大震災 石巻市・女川町での支援活動 これまでの活動 内容」
https://pbv.or.jp/tohoku/ishinomaki
(14) ジャパン・プラットフォーム「東日本大震災被災者支援報告書」2012年6月
http://tohoku.japanplatform.org/lib/data/2012tohoku_rpt.pdf
(15) ジャパン・プラットフォーム「支援のお申し出とマッチング実績」
http://tohoku.japanplatform.org/support/archives.html
(16) 内閣府(防災)「東日本大震災に係る日本赤十字社等義援金配布状況(令和2年4月30日現在)」
http://www.bousai.go.jp/2011daishinsai/pdf/gienkin_r20430.pdf