休耕地を活用できCO2削減にも寄与する ライスレジンを世間の“当たり前”に

株式会社バイオマスレジン福島

【福島県浪江町】

休耕地を活用できCO2削減にも寄与する
ライスレジンを世間の“当たり前”に

企業情報

  • 企業名 株式会社バイオマスレジン福島
  • ヨミガナ カブシキガイシャバイオマスレジンフクシマ
  • 業種 化学工業
  • 代表者 渋佐寿彦氏[代表取締役]
  • 所在地 福島県双葉郡浪江町大字棚塩字北金ヶ森1-1
  • TEL 0240-23-5107
  • WEB https://www.biomass-resin.com/about/fukushima/
  • 創業年 2021年
  • 資本金 4,250万円 (2022年11月現在)
  • 従業員数 8人
  • 売上高 非公開

企業概要

相馬ガスグループとバイオマスレジン南魚沼が合弁事業として立ち上げた。非食用米を活用した国産バイオマスプラスチック「ライスレジン」を製造。原料となる米の営農再開へ向けた支援も行っている他、復興にも尽力している。

幼なじみと共に新しいことをやり遂げる楽しみを胸に福島へ

「私は、現状維持は衰退だと思っています。福島だけでなく、日本の地方全てに言えることですが、新しいことに挑戦していかないと衰退していくだけ。だから現状に満足することなく、積極的に次の手を打つ必要がある。東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故による大きな被害から復興を目指す浪江町も同じ。だから絶対にこの事業を成功させて、地域を復興につなげないといけないんです。そう覚悟を決めて取り組んでいます」。

2022年11月に工場の操業が始まった株式会社バイオマスレジン福島で、現場統括を任されている取締役社長の今津健充氏は、力強くそう語る。

東京都出身で、かつては製薬会社に勤めていた今津氏が、ゆかりのない福島県に来たのは2014年。浪江町のある相双地区でエネルギーサービスを展開する相馬ガスグループへの転職がきっかけだった。「相馬ガスの創業家出身で、現在相馬ガスグループ代表取締役社長の渋佐寿彦から声をかけてもらったのが始まり。彼は私の幼なじみで、小中高、予備校が一緒だった。昔から才能豊かな人物でしたから、一緒に事業ができるという楽しみが転職を決意させてくれました」。

取締役社長の今津健充氏 取締役社長の今津健充氏
ロビーから工場内が見える構造。ライスレジンで作られた商品を飾るスペースも ロビーから工場内が見える構造。ライスレジンで作られた商品を飾るスペースも

相馬ガス入社後、社長室を経て2017年に専務取締役、2020年には社長に就任。渋佐氏と共に相馬ガスグループ発展に尽力してきた。福島に来てからは原町青年会議所(南相馬市)の理事長も務めるなど、地域の発展へ向けた活動も積極的に行ってきた。そこでバイオマスレジン事業へつながる出会いがあったという。

「理事長時代に、日本青年会議所の会頭も務められた浪江町出身の石田全史さんと知り合うことができました。その石田さんから、バイオマスレジン南魚沼が地元企業と一緒に浪江町に工場を造りたいと言っている、という話を伺ったんです。そして代表取締役社長の神谷雄仁を紹介してもらったのが、事業を始めるきっかけになりました」。

猛スピードで駆け抜け創業 休耕地をいかに生き返らせられるか

今津氏と神谷氏が最初に会ったのは2021年4月。そこからわずか3カ月後にバイオマスレジン福島が誕生した。同年10月には浪江町と工場の立地協定を締結。それから約1年後には工場稼働となった。

「取材を受けると設立時の苦労話をよく聞かれるのですが、何が苦労だったか分からないほどのスピード感で話が進んだんです。新しい事業へのチャレンジにはいろいろな不安がつきまとうかもしれませんが、不安ばかりに目を向けていては進むものも進まない。だからスピード感を持ってやれたことは良かったと思っています」と今津氏は語る。

工場稼働を前に定員10人で求人を開始。どれだけの応募があるか不安もあったが、30人以上の応募があったという。「募集開始時点では年配の方が多かったのですが、時間がたつと若い世代の応募も増えました。採用した中には、県内の他のエリアから『当社で働きたい』と転居してきた社員もいます。その点においても、自分たちがやっている事業の大きさを改めて実感しました」。

工場内観。東北初のライスレジン製造工場となる 工場内観。東北初のライスレジン製造工場となる

バイオマスレジン福島では、非食用米を原材料とするライスレジンの製造を行っているが、工場設立の背景には1,900haあった浪江町の営農地を有効活用するという狙いがあった。被災前は米農家が多く点在したが、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で休耕地に。2014年からは作付けが再開されたが、2022年になっても約8割が休耕地のままだった。風評被害もあり食用米の生産が難しい状況が続く中で、非食用米を作り農地を生き返らせることも目的となっている。バイオマスレジン福島では操業当初から廃棄米を活用してライスレジンを製造しており、2022年より、関連会社の株式会社ちーの(農地所有適格法人)が浪江町や飯舘村で作付けしている非食用米を使って製造を始めている。

工場内で廃棄米、非食用米を生成してライスレジンに 工場内で廃棄米、非食用米を生成してライスレジンに
駄菓子の「ポン菓子」のような匂いがした 駄菓子の「ポン菓子」のような匂いがした

ライスレジンを地元の誇りに地域教育にも力を入れる

ライスレジンは、原料が国産のため海外の情勢に左右されず安定供給ができ、石油系プラスチックと変わらない品質を持つ。カーボンニュートラルの重要性が叫ばれる中、バイオマスプラスチックへの注目度は高まっているのは事実だ。だが一部では原料が米という点に対する嫌悪感も聞かれるという。

「米食文化の日本では、『そんなもったいないことをしているのか』と思う人も多い。廃棄米、非食用米という説明をしてもすぐに理解してもらえないケースもある。その点を他の企業に分かってもらうのも役目の一つだと思っています」。

バイオマスプラスチックが注目されているうちは、事業の成功ではないという今津氏。「世間で当たり前のように使われるようになってこそ、やっと成功したと思えるんじゃないでしょうか」。そして、同社が地域貢献の役割を果たす意味でも、子どもたちにも誇りに思ってもらえる会社にしていかなければいけないと考えている。

「ここで生まれ育った子どもたちに、ライスレジンを地元の誇りと感じてもらえるかが今後のポイント。だからこそ、地域教育という点にも力を入れたい。浪江の子どもたちがライスレジンの箸で給食を食べ、地元ではライスレジンの原料となる非食用米が作られていることを知ってもらう。そういう形で地元の産業に触れれば、自分たちが住んでいる町に対して誇りを持てるようになると思います」。常に先を見据えて行動する今津氏は、今後の目標についてそう話す。

ライスレジンを原料に作られた「お米のスプーン」 ライスレジンを原料に作られた「お米のスプーン」
他にもお弁当箱やおもちゃなど多数の商品がある 他にもお弁当箱やおもちゃなど多数の商品がある

工場の操業は始まったばかりだが、化石燃料を取り扱う企業が自然共生へ取り組み、「脱炭素×復興まちづくり」の先進モデルを創出しようと動き出した。猛スピードで工場を稼働させた同社。きっと遠くない未来に浪江町で新しい産業の景色が見られるに違いない。

課題

・風評被害の影響もあり浪江町では食用米の作付け再開が進んでいなかった。

・米でプラスチックを作るという点に嫌悪感を抱く人もまだ多い。

解決策

・食用米ではなく非食用米を作るという新たな農法を提示して休耕地を少なくする施策を考案。

・地元の子どもたちにライスレジン製の箸を使ってもらうなど、理解を深める活動を模索中。

効果

・関連会社が浪江町の農地で非食用米の作付けを開始。その米を使ったライスレジンの製造が2023年秋から始まる予定。

・ライスレジンが当たり前の存在となり、地元の子どもたちが誇りに思える産業となるようにしていくのが目標。

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