岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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光」にあるのだという。「東日本大震災直後は、大きなショックからなかなか立ち直ることができず、誰かが何かをやってくれるのを待っている状態でした。しかし、待っているだけでは何も始まりません。釜石市は決して観光地ではないので、自分たちでこの地域に人を呼び込める状態にしなければ、地域の再生は実現しないと思ったんです」。自治体などと協力しながら展開しているボランティア・観光ツアーは、2017年度上半期には10件程度が形となった。防災・減災への啓蒙を目的にプログラムに組み込んだ避難道造りや漁業体験、海浜植物の植樹活動、海辺清掃などは軒並み好評を得たという。一方、防災・減災への取り組みにおいては、地域住民主体の救難・防災活動を推進しているイギリスから支援を得て、英国式レスキューボートによる水難救助システムの構築を目指す活動を実施。海の安全を守るための仕組みづくりの構築に邁進している。このような自然や文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動(グリーンツーリズム)の実践は、地域の活性化や情報発信力の強化に大きく貢献している。「宝来館では東日本大震災以前から、体験民宿などの形式でグリーンツーリズムに取り組んでいましたが、根浜MINDの活動では、そのとき以上の成果や意義を感じることができています。継続して新陳代謝を繰り返していくことができれば、この地でより多くの人の交流が生まれるはず。世界中の人と故郷を創造することができるような活動を続けていきたいです」。岩﨑氏の言動は、いつも地元への愛情にあふれたものだ。その姿に触れるだけで、多くの人が感銘を受け、活動の輪が次々と広がっていくのも頷ける。岩﨑氏および根浜MINDの活動において、特筆すべき成果を上げているのがスポーツによる地域の活性化だ。ラグビーW杯2019日本大会における、釜石市での試合開催や合宿地招致を成功させた事例はその最たるものといえるだろう。岩﨑氏が2019年に同大会が日本で開催されることを知ったのは、東日本大震災によって釜石市民が絶望の底にいるときだったという。「釜石市の復興のため、子どもたちの未来のために、何か共通の目標や夢が欲しいと思っていました。W杯の話を聞いたときに、それがラグビーだと思ったんです」。釜石市といえば“ラグビーの街”として全国に知られる存在だ。1979年から日本選手権7連覇の偉業を果たした新日鉄釜石ラグビー部の偉業は釜石市民の誇りで、チームが「釜石シーウェイブス」と姿を変えた現在も、変わらず市民に愛され続けている。岩﨑氏が釜石市の復興の光をラグビーに求めたのは、必然だったのかもしれない。岩﨑氏は、すぐに釜石開催を実現するための行動を開始する。旅館では毎日のように宿泊客たちに釜石開催への思いを語り、招致イベントやフォーラムには必ず顔をラグビーW杯試合招致は釜石復興の希望の光だった12396

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