岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
95/155

浜べの料理宿 宝来館が所在する岩手県釜石市の鵜うのすまい住居地区には、古くから地元住民に愛されてきた景色がある。約2㎞にも及び美しい白砂の砂浜が広がる根浜海岸の景色だ。宝来館の客室や露天風呂からは、その根浜海岸を一望することができる。「お客さまにこの景色を見ていただき、根浜の姿を心に焼き付けてほしいんです」。宝来館の女おかみ将、岩﨑昭子氏が、根浜海岸の景色に強いこだわりを見せるのには理由がある。かつて“日本の白砂青松100選”にも認定された美しい砂浜は、東日本大震災による地盤沈下などによってそのほとんどが失われ、姿が一変してしまっているからだ。「当時の姿に戻るにはかなりの時間が必要だと思いますが、私たち地元住民は必ず元の姿に戻ると信じています。姿は変わってしまっても、私たちが愛した景色であることには変わりありません。だから、根浜海岸が元の姿に戻るその日まで、私はこの地で営業を続け、“根浜の今”を伝え続けたい。それが被災者である私と、津波被害を受けながらも営業を続けられている宝来館の使命だと思うんです」。そんな使命の一つとして岩﨑氏は、全国各地へ講演に赴いたり、メディアに出演したりといった、東日本大震災および津波被害の“語り部”として精力的な活動を行っている。また、これらの活動がない日であっても、宿泊客が望めば、毎朝ロビーや旅館の一室を使用して当時の映像を流しながら地震災害の惨状や、自身の経験を伝える取り組みを実施しているという。「とにかく日本中、世界中の一人でも多くの方に、釜石市や根浜地域の現状や、復興の活動を知ってもらいたいんです。地道な活動の積み重ねが、私たちの地元の未来を切り開くことにつながると信じているので、依頼があればどこにでも行こうと思っています」。そんな活動の一方で、岩﨑氏は、地元住民と共に鵜住居・根浜地域の活性化と持続的な地域づくりに向けた活動を推進することを目的にして2016年7月22日に「一般社団法人 根浜MマインドIND」を立ち上げ、代表に就任している。根浜MINDの主な活動は、「防災・減災への取り組み、特産品開発、地域食材の活用、県内外からのボランティア・観光ツアー受け入れ、マリンスポーツやラグビーをはじめとしたスポーツ関連事業の推進などを通じて、交流人口の増加を図るというもの。事務局は宝来館内に設けられている。岩﨑氏によると、この団体が発足した経緯は、地域再生に不可欠といえる「観19浜べの料理宿 宝来館[SDGs]2030年に向けて2030年復興への歩み[売上高(万円)]18,2612010年12,897●【岩﨑氏】ラグビーW杯2019 日本大会 試合招致活動を始める2011年7,686●1月 【宝来館】営業再開2012年17,881●【岩﨑氏】ワイン造りに着手2013年11,505●3月 【岩﨑氏】釜石市鵜住居「にこにこ農園」 にワイン用ぶどうの苗植え2014年17,825●3月 釜石市での2019年ラグビーW杯 試合開催が決定2015年16,071●7月 【岩﨑氏】根浜MIND設立2016年14,748●10月 【岩﨑氏】ワイン用のぶどうを初収穫2017年15,00020,00025,000010,0005,000在りし日の根浜海岸の姿を取り戻すための活動を継続。県内外へ魅力を発信し続けていくと同時に、釜石市らしさのあるスポーツ関連事業に力を入れ、交流人口の増加を目指していく。“人が集まる”地域に。自然とスポーツで地域を活性化根ね浜ばま海岸の姿を心に焼き付けてほしい自前で人を呼べなければ地域は再生しない被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出【目指していくゴール】宝来館本館はコンクリート4階建て。津波で2階部分までが浸水したが倒壊は免れた※6月~翌年5月まで専門家派遣集中支援事業95

元のページ  ../index.html#95

このブックを見る