岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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医療機器には特に力を入れている。2017年1月には歯科用骨再生治療器具「チタン ハニカムメンブレン」を開発。高度管理医療機器(クラスⅢ)であり、同社での製造許可を得て、歯科医療機器で実績のある株式会社モリタと協業して販売している。一方、医療機器の参入障壁克服は大きな課題だ。同社が医療分野に打って出ようと決意したのは2009年。「県のバックアップもあったが、ビジネスボリュームとして満足のいくものではなかった」と林精器製造株式会社、代表取締役社長の林明博氏は分析する。医療部品の領域だけでは売り上げはもちろん、顧客ニーズ・社会環境に適応できないと、独自の医療機器の開発を始めた。2019年の発売を予定する「PumpSAFE(ポンプセーフ)」は、病院で使われる輸液ポンプの性能をチェックする測定装置。精度が高く、取り扱いが簡易なことが大きな強みだ。「医療機器の研究開発では、産学官が連携できることが大きい。開発過程でも、県のサポートで医療現場へのヒアリングを行いました。また、郡山にある日本大学工学部との連携も大きな成果です」。「PumpSAFE」は、一般財団法人ふくしま医療機器産業推進機構が主催する展示情報展「メディカルクリエーションふくしま」においてデジタルデバイス賞を受賞した。「被災によって、業績の3割を失った。それを取り戻すのが非常に苦しかった」と振り返る林氏。その苦しさを力に変え、事業再生を支えたのは、「復興とは新しいことをやり続けること」という強い信念だった。その信念がついに、新分野で形になろうとしている。「復興に国のお金を使っているわけですから、以前の業績を超えて発展を続けなくてはという思いが強い」と語る林氏。地域貢献の面でも「地域のために雇用の確保が絶対の条件」と力を込める。雇用面でも営業面でもブランディングは重要な課題だ。「ものづくりについては自信がありますが、技術を磨き、設備を新しくするだけでは不十分です。私たちの価値を広くアピールしていく必要性を感じています」。2017年には経済産業省の「地域未来牽引企業」にも選定された林精器製造。福島の未来を牽引していく強い覚悟が、次の飛躍の原動力となっている。[SDGs]2030年に向けて産学官連携で自社開発の医療機器を発売技術の継承と認知度アップ自社ブランドの向上を目指す17林精器製造株式会社自社開発の「PumpSAFE」「チタン ハニカムメンブレン」2030年復興への歩み[売上高(百万円)]3,504●内閣総理大臣表彰 第4回 「ものづくり日本大賞」特別賞受賞2012年4,8632016年3,528●2月 本社工場再建、 本拠地での操業を再開2013年4,7722015年4,701●経済産業省「地域未来牽引企業」選定2017年5,000(見込み)●第3回「ふくしま経済・産業・ものづくり賞」 福島民報社賞受賞●第2回 精密工学会 ものづくり賞受賞2018年3,240●3月11日 本社工場兼事務所が倒壊●4月 工場を借り受け生産を再開●6月 全工程の生産を再開2011年2,0003,0004,0005,00001,000技術と理念をベテランから若手に継承していく「ものづくりチーム制度」の運用や、ロボットと人の技術が補完し合う精度の高いものづくりなどを通じ、働きがいと企業成長を両立する。職人技と先進技術を融合させ新しい価値を生み出していく3,812●中小企業庁「がんばる中小企業・ 小規模事業者300社」選定2014年前回の取材【目指していくゴール】被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出※4月~翌年3月まで89

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