岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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業を展開していくこととなった。ファーメンステーションでは現在、「マイムマイム奥州」という団体を立ち上げ、実証実験の成果を発展させた「地域循環」の取り組みを進めている。同団体では、農事組合法人の「アグリ笹森」が栽培した米から自社の奥州ラボ内でエタノールを抽出し、副産物であるもろみかすなどを、鶏や牛の飼料として養鶏場や牧場に卸している。「家畜のフンは堆肥として米作りへと生かされていき、資源循環の輪が回っていきます。地域の事業者と協力しながら築き上げてきたシステムは順調に動いていて、今後は水田を広げ、エタノールの生産量も増やしていく予定です」。また、この資源循環は、関連する事業者の商品の付加価値を高めていく効果もあると酒井氏は語る。「有機米から作られるもろみかすは、栄養分が豊富で家畜の吸収も良く、卵や肉の品質を向上させる効果があるため、商品そのものにさらに価値を与えることになります。最近では、アグリ笹森が無農薬化の取り組みにより、飼料米では全国で2例目の有機JASを取得するなど、地域で協働する団体でも成果が現れてきていますね」。 製造するエタノールは、主に化粧品の原料として使用されており、抽出時の副産物である米ぬかや玄米麹、酵母も取り入れたせっけん「奥州サボン」など、自社製品の販売も行っている。トレーサビリティーやナチュラルさにこだわりつつ、重視しているのは「消費者が手に取りやすいこと」だという。「自社のクリエイティブディレクターと相談しながら、自然と商品の背景に思いをはせてもらえるような商品作りを心掛けています。こちらの思いが強すぎると、それは押し付けになってしまう。『田んぼから作られたハンドクリームだから買う』ではなく、『手に取って良いなと思ってみたら、奥州の田んぼで作られたものだった』という流れが大事だと思います」。他業種との積極的な提携もブランド戦略の一つ。2015年の被災地域企業新事業ハンズオン支援事業では、福島県の農家と提携し、傷が付いたモモからボディミルクを開発。JR東日本とのスタートアッププロジェクトでは、リンゴの搾りかすからエタノールを生み出した。「共同開発は、何か面白い原料はないかと漠然としたところからスタートすることも多いですね。発酵技術を応用して、いろいろな原料からエタノールや香りを抽出できないか試行錯誤をしているので、企画のストックはたくさんあり、いただいた要望とのマッチングもうまくできている現状です。環境への配慮や持続可能な社会の実現地元のパートナーと協力し資源の循環を実現自社のエタノールで化粧品を開発、販売3145284

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