岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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[SDGs]2030年に向けて奥州市で、有機米を原料としたエタノールや、オリジナル化粧品の製造販売を行っている株式会社ファーメンステーション。代表取締役の酒井里奈氏は、金融業界出身という異色の経歴の持ち主だ。NPO支援活動などに関わる中で、地球温暖化や代替燃料など、社会的な課題に関心を持つようになったことが、バイオ業界への転身のきっかけだった。2005年、テレビで見たゴミからエネルギーをつくり出す発酵技術に可能性を感じ、未利用資源の活用について、東京農業大学で学び直し始める。 「バイオ事業の世界で、自分にしかできない仕事を見つけたいという思いが強かったんです」。大学を卒業した2009年に、「発酵で楽しい社会を!」というビジョンの下、ファーメンステーションを設立。2010年からは、現在のメイン事業につながる奥州市の実証実験「奥州市の米からエタノールを作る地域循環プロジェクト」に参画し、製造プラントの運営、コンサル業務などを担当した。 「当時の奥州市は、米の消費量が減少し、放置された水田が増加し続けている状態で、その新たな活用法を見出す必要がありました。地元農家による勉強会からプロジェクトはスタートし、米を発酵することで抽出されるエタノールを利用して、自活可能なエネルギーをつくり出すことを目標に、実証実験が進められていきました」。実証実験には、市役所を中心に東京農大の研究チームや地元の農家たちが参加。それぞれの技術や知識を持ち寄り、休耕田などで収穫した米から、エタノールの生産を開始する。活用された技術は、酒造の発酵、醸造技術を応用した独自のものだった。東日本大震災が起きたのは、エタノール製造の実証実験が本格的にスタートした直後だった。ラボに大きな被害はなかったものの、ライフラインの分断や燃料の枯渇に見舞われ、実験は足止めをくらうことになる。そんな中、以降のファーメンステーションの事業におけるキーワードともいえる「循環」の重要性を知ることとなる。「被災直後は、地元の養鶏農家も家畜の飼料不足で、事業の維持が難しい状態になっていたので、実験の副産物だったもろみかすを、当初の予定以上に利用することになったんです。当初はエネルギーづくりを目標に始まったプロジェクトでしたが、このときの体験を通して、地域内で餌などの資源を供給・循環できる仕組みについて、考えさせられました」。その後、2013年に実証実験は終了。ファーメンステーションは奥州市から事業を引き継ぎ、培われたノウハウや研究施設、協力関係をもとに、エタノールの製造やそれを活用した製品開発などの事未利用資源に可能性を感じバイオ事業の世界へ東日本大震災により資源循環の重要性を認識15株式会社ファーメンステーション2030年復興への歩み●4月 奥州市の実証実験に参加2010年●奥州体験ツアーを開始2014年2015年●11月 JR東日本スタートアッププログラム 2018 青森市長賞受賞 グローバル・ブレイン株式会社、 株式会社グローカリンクから資金調達●12月 いわぎん事業創造キャピタル 株式会社から資金調達2018年2011年●2月 クラウドファンディングを活用。 ボディミルクを企画し、 約106万円を集める2016年2012年●12月 クラウドファンディングを活用。 ピロースプレーを企画し、 約56万円を集める2017年自社製品のブランド力を高めつつ、奥州市へ観光客を誘致することで、地元産業の活性化に貢献していく。また、エタノールのエネルギーへの応用にも挑戦していく予定だ。発酵技術とプロダクトを生かし、地元の活性化に貢献する被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出食品工場を改築した平屋造りのラボ【目指していくゴール】●4月 奥州市から実証実験プロジェクトを 引き継ぐ●10月 アルコール製造業免許を取得、 エタノールを初出荷2013年被災地域企業新事業ハンズオン支援事業83

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