岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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[SDGs]2030年に向けてうことを心掛けています」。ただ、漁獲量は被災前の約15%程度。名物の地元産ズワイガニが提供できず、思い通りのおもてなしができないこともあるという。また、2016年に除染作業員が完全撤収。それまで満室だったホテルも空室が目立つようになった。2012年から観光客の数は4倍近く伸びてはいるが、作業員の撤収が影響して、売り上げは半分以下に落ち込んでいる。本来の観光客を新たな魅力で獲得できなければ松川浦の未来は開けない。「松川浦に来る新しい目的づくりの必要性」はグループメンバーの共通の認識だった。松川浦には、まだ知られていない観光資源が眠っているはず―。地元の若手が集まってガイド隊を結成し、松川浦の魅力づくりに奔走した。最初に形になったのが、家族連れ向けの磯遊びツアーだ。以前から地元の子どもたちは磯辺でカニ釣りなどを楽しんでいた。それを観光客向けに体験として提供しようというもの。相馬市観光協会からの力添えもあり、2019年から本格的に観光プランの一つとしてプロモーションする予定だ。「今後の目標は、インバウンド向けの原発ツアーを実現すること」。将来的には松川浦での宿泊をセットにした観光プランを提案するため、専門知識を勉強中だという管野氏。「被災後、時間だけはありました。松川浦の観光の火をともし続けるために一体何ができるかをみんなでじっくり考えることができたんです。ゼロから始めてようやく実を結び始めた新たな試みの、これからが頑張り時です」と、力強く語る。若手を中心に新たな一歩を踏み出した松川浦。そんな若手の頼りになる兄貴分でもある管野氏は、東日本大震災を機に団結力が一層強くなったと感じている。「みんな自分のホテルの部屋が満室だったら、そのまま他のホテルに連絡してお客さまを紹介するんですよ。個々のホテルが独自に努力していても限界があるでしょう。松川浦全体として、観光地として、どれだけお客さまをおもてなしできるかが大事なんです」。甚大な被害を受けながらも悲観的にならず、観光業を営む者としておもてなしの心を忘れない。強い絆が生み出す「新しい松川浦の価値創造」に、今後も注目が集まる。若手のアイデアで実現した家族向けの磯遊びツアー地域全体でおもてなしを実現するグループの結束力12相馬市松川浦観光振興グループ復興チャレンジグルメ 磯遊びツアーの様子2030年復興への歩み[観光宿泊者数(人)]資料紛失のため宿泊者数不明。●5月 観光振興グループ結成●6月 グループ補助金申請2011年3,471●第1~2弾 復興チャレンジグルメ実施2012年2,850●第3~5弾 復興チャレンジグルメ実施2013年5,571●第6~7弾 復興チャレンジグルメ実施2014年7,699●第8~10弾 復興チャレンジグルメ実施2015年10,984●第11~13弾 復興チャレンジグルメ実施●12月 除染作業員が完全撤収。宿泊総数が激減2016年16,000(見込み)●11月 磯遊びツアー試行●第15~16弾 復興チャレンジグルメ実施2018年13,169●第14弾 復興チャレンジグルメ実施2017年8,00012,00016,00004,000海産物や景観などの従来の魅力に加え、磯遊びや原発ツアーなどの新しい魅力を発掘。地域への持続的な観光につなげるとともに、新たな雇用を生み出すことを目指す。従来の観光資源の整備と新たな観光目的づくりの推進前回の取材被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出【目指していくゴール】※1月~12月まで71

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