岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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りを見せている。「インバウンド需要の追い風を受けて、地元の蔵元、商店や観光協会などが連携し、『福島らしいおもてなし』や、新たな魅力体験などの付加価値を提供していくことが大切ではないでしょうか。数年前から弊社にも酒蔵見学を希望する海外の日本酒ファンが増えています」と、太田氏は復興に向けて地元企業ができる役割に触れた。毎年、二本松提灯祭りに協賛するほか、高野山別格本山三宝院と共に東日本大震災復興支援コンサートを開催するなど、地元に元気をもたらす活動に取り組んでいる。その一方で、ものづくりに対する妥協なきこだわりも忘れない。「国内でも吟醸酒が再び注目され始めたのはうれしい出来事ですが、いつしか吟醸酒を頂点とするピラミッドができてしまいました。誰もが『吟醸風』の酒が上流だと考え、一方向のベクトルになっている傾向が見られますが、多彩な個性が楽しめるのも日本酒の魅力です。大七酒造は、技術的に難しく、醸造までの時間も要する生酛造りにこれからもあえてこだわり、そこに誰も真似のできない付加価値到し、お客さまの心遣いの有難さ、絆の深さを深く感じました」(太田氏)。国内以上に風評被害の影響が懸念された海外市場だったが、アジア圏以外では大七酒造の商品はその後も堅調な伸びを見せた。2011年にフランスのボルドーで開催されたワインの見本市「VヴィネクスポINEXPO」には被災直後ながらあえて単独出展するなど、さまざまな機会を通じて日本酒の魅力や楽しみ方、そして、商品および被災地が置かれた状況を丁寧に説明。それ以前から積み重ねてきた信頼もあって、DAISHICHIブランドが揺らぐことはなかった。「被災1年目は、どうしても安全性のアピールが中心となり、また、いかに不安を払拭するかばかり考えてきましたが、海外のワイナリー経営者や一流シェフ、展示会に参加された多くのお客さまと接するうちに、海外では商品そのものだけでなく、背景にある思想や文化といった多様な要素にも興味を持たれることを実感しました。国内市場以上に、日本酒本来の魅力、生酛造りならではの味わいのブランディングに注力するようになりました」と、太田氏は解説する。被災から7年が経過し、福島県内では品評会で入賞する蔵元も増えた。昨今は地元の日本酒と料理、その背景にある街並みや自然まで楽しむ酒蔵ツーリズムが盛り上がを与え、醸造酒のさらなる高みを目指していければと考えています」。例えば、原料米の潜在力を最大限に引き出すために同社が開発した超扁平米を用いる酒造りはその象徴だ。また、東京スカイツリー公式ショップで限定商品を販売したり、女性向けの新ジャンル、スパークリング梅酒を開発するなど意欲的に活動。「地酒大show」では2009年から3年連続3冠を獲得している。そして、2018年には、伝統的な生酛造りによる高級酒の開発と、革新的な技術導入、積極的な海外展開の功績によって、太田氏は、第7回「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞を受賞した。伝統と革新をキーワードに、多角的アプローチで理想の酒造りと復興加速を目指す挑戦は、未来の大七酒造へと受け継がれていく。ブランディング重視で商品の背景も海外へ発信ものづくりにこだわりさらなる高みを追求10大七酒造株式会社5海外市場で成功するために伝統を守りながら真似のできない付加価値をつくる1顧客の懸念を共有し正確な情報を迅速に公開する2商品だけでなく、背景にある思想や文化を発信3被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出67

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