岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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態に直面した。うまい日本酒造りには、品質の良い水や米、そして、酒に深みや個性を与える酒蔵に住み着いた微生物相が欠かせない。醸造環境が変わると微生物相も変わり、同じ原料で造っても、同じ味や風味を出すことはできなくなる。「そのため、酒蔵の新築に当たっては旧来の酒蔵の板壁を新蔵に導入するなど、従来の環境の保持に配慮しました。同時に、品質の長期安定性と信頼性を維持するために、日本初の無酸素充填システムを導入したわけですが、すべてが無に帰してしまうリスクが生まれ、正直、最悪の事態も覚悟しました」と、太田氏は当時の追い込まれた心境を明かす。それでも事故発生のニュース直後には、杜氏が中心となって、すぐに空調設備や換気扇を停止し、その日のうちに窓や換気口に目張りを施し、外気の流入を遮断。また、高性能フィルター、エアカーテン、食品放射能測定モニタを手配するなど、緊急および恒久的な対策を徹底する。さらに、対応策の詳細は放射線検出データと併せてホームページ上で発表し、安全性を国内外にアピールした。「当時、同業者の間では『下手に情報を公開して寝た子を起こすようなことはしない方がいい』といった声もありましたが、放射能汚染を懸念する気持ちは一緒なのです。弊社もお客さまの懸念を共有し、自分達が安心できる対策に全力を注いだことが、後の風評被害を最小限にとどめたと思います。約3週間後に営業再開したときにはかつてないほどの注文や励ましが殺1大七酒造の新社屋が面する竹根通りは、都市景観大賞の優秀賞や、日本都市計画学会の学会賞の計画設計賞などを受賞した景観が魅力2木桶仕込み蔵に並ぶ、高さ2mを超える大正時代の木桶3「生酛」ならではの工程である「酛もと摺すり」では、丁寧に蒸米と麹をすりつぶす42016年に厚生労働大臣表彰「現代の名工」にも選出された佐藤孝信杜氏5海外でも高い評価を得る大七のラインアップ。ラベル、瓶などのデザインは太田氏によるもの123466

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