岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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菅野 福島県はいまだ人材が集まりづらい状態が続いています。その対策として、社内の最も効率化が図れる工程にAIやロボットの導入を開始しました。これは東日本大震災以降、産総研(産業技術総合研究所)とつながりができたことが大きかったと思います。渡辺 今後も楽しみな新技術・新製品が続々生まれそうですね。期待しています。渡辺 最後は同じ福島県内から無縫製ニット製品を手掛ける金泉ニットさん。福島第一原子力発電所の事故の影響で避難指示がようやく解除されたばかりの双葉郡葛かつら尾お村内に造成されつつある工業団地へ先陣を切って進出された。お持ちいただいたニット製品は丁寧な仕上がりで作り手の温もりまで伝わってきますね。金岡 弊社は紡績と連携した素材開発やオリジナル糸の加工開発を武器に、国内外のお客さまから評価をいただき、ヨーロッパブランドのOEMも手掛けています。渡辺 愛知県岡崎市を拠点に活動されている企業が被災地にニット工場を新設された経緯をお聞かせください。金岡 東日本大震災を受け、少しでも被災地のお役に立ちたいとの思いから、自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金に応募しました。進出に際しては福島県出身の社員と相談しながら情報を集め、4つの候補地に絞り、最も熱心な誘致オファーをいただいた葛尾村への工場設置を決めました。渡辺 いまだ人口の大部分が戻らない葛尾村に決めた理由はどんなところですか。金岡 自然豊かな土地柄と、出会った葛尾村の人々の人柄にとにかく引かれました。避難指示が解除されたばかりで、周囲には何もなく、最寄りのコンビニまでは車で30分はかかる。それでも、役場の方が親身になって相談に乗ってくださり、村民の思い出が詰まった旧葛尾中グラウンド跡地を用意が始まっているとか。菅野 高齢社会の健康見守りニーズを見据えて開発したのが、非拘束型睡眠モニタリングシステムと、脈波・血管年齢を算出するアルゴリズムとそのデータを収集・活用するIoTプラットフォームです。福島県の助成金を受け、Webカメラに映った顔から心拍数や脈拍などのバイタルデータを測定し健康状態を把握するロボットを数社と共同開発しています。クラウド経由で離れた場所からでも健康状態のチェックが可能になります。渡辺 被災地では避難所、仮設住宅、新設住宅と、慣れない環境下での移転を余儀なくされ、心身共に負担を強いられた人も多い。孤独死を防ぐ上でも有効ですね。菅野 微弱な信号からデータを抜き取るというデータマイニングの技術を実用化しているため、身体への負担もなく、複数の高齢者が暮らす施設等での活用も可能です。渡辺 被災地でビジネスを行う上でまだ解消されていない課題などはありますか?村全体の活性化で未来の「ニットの村」へ「社内に事業発展のサイクルが根付き、新技術・新製品開発に挑み続けるマインドが社員一人ひとりに育ち始めています」(菅野氏)6

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