岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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[SDGs]2030年に向けて宮城県石巻市の水産業に多大なる被害をもたらした東日本大震災。その2年後、石巻の水産加工業者によってつくられたのが「日高見の国」だ。グループ名は、かつて東北地方が大和の国より早く日が昇ることから「日高見の国」と呼ばれていたエピソードに由来。販路拡大のため、カキをはじめとした三陸の海産物の輸出をしている。立ち上げに参加した企業は、末永海産株式会社、株式会社ヤマサコウショウ、株式会社ヤマトミ、株式会社山形屋商店、株式会社丸平かつおぶしの5社。「東日本大震災から半年ほどたったころ、首都圏の百貨店などで開催された復興の催事に一緒に出展したことがグループ結成のきっかけです。被災前は競合する関係でしたが、イベント中に親睦が深まり、復興のために協力していこうという機運が高まっていきました」と、幹事会社末永海産の執行役員であり、グループの運営管理を担う古藤野靖氏はその経緯を説明する。輸出へ目を向けたきっかけは、グループ結成の前、2012年に香港最大の総合食品見本市「FOOD EXPO 2012」に参加したことだ。この見本市には、ジェトロ(日本貿易振興機構)仙台の紹介で、末永海産とヤマサコウショウが出展。古藤野氏は、現地を訪れたことで輸出への認識を改めたという。「震災前、末永海産は、国内のスーパーが主な取引先でした。海外なんて考えたこともありませんでしたが、香港のあまりの活気に驚きました。『アジアはまだまだこれから伸びる。輸出は可能性があるぞ』と手応えを感じたんです」。また、東日本大震災で生産が滞り、スーパーの棚が他社商品で埋められたという背景もあった。「人口減少などでスーパーの経営が厳しくなっている中、そこに頼ってばかりはいられない、新しい販路を開拓しなければという危機感は前からありました。でも変わるきっかけがなく、焦りだけがじわじわと募っていました。被災してすべてがリセットされたことで、逆に新しいことにチャレンジせざるを得ない状況になったともいえます」。輸出のスタートは2013年、香港の百貨店の催事だったが「価格などがネックになり、反応はいまひとつだった」と古藤野氏。転機が訪れたのはその1年後だった。「レストランであれば高い食材でも継続的に買い入れてくれることが分かり、その後はレストランへの営業活動に力を注ぎました。栄石巻の水産加工業者が共同で販路拡大を目指す窮地が生み出した海外への活路08日高見の国2030年復興への歩み3,000●日高見の国ブランドを立ち上げる●輸出を開始(香港)2013年4,000●参加事業者数が13に●風評の影響を受ける2015年3,5002016年3,200●殻付きカキ輸出開始2017年7,500●THAIFEX 2014(タイ)●FOOD TAIPEI 2014(台湾)に出展2014年4,0006,0008,00002,000国営の公園に15万本の植樹をするNPO団体の計画を支援。森を造り、海に栄養分を行き渡らせることで、豊かな海、豊かな漁場を目指していく。自然の循環サイクルを生み出し、三陸の豊かな海を守る顧客のニーズに合わせて柔軟に商品を展開[輸出額(万円)]末永海産の本社と工場被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出【目指していくゴール】※1月~12月まで57

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