岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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村役場の方も、親身になって相談に乗ってくださいました。まだ人はまばらでしたが、出会った葛尾村の方々の人柄にもほれ、ほとんど即決でした」(金岡氏)。清野氏と金岡氏の復興への思いが重なり始動した金泉ニット福島工場。ニットウエア製造の核となる編み立ての工程を充実させるため、始動に合わせて40台もの編立機を導入した。編み立てられたニットは、従業員の手作業で一つひとつ裾や袖のほつれなどの修正を行う。修正の技術は、ベテランの従業員が新人の従業員へ丁寧に指導を行い受け継がれていくが、その従業員の採用が最大の課題だと清野氏は語る。「2018年6月に操業を開始してから半年、現在の福島工場は、葛尾村を含む双葉郡8町村からの採用が8名、双葉郡を除く福島県内から3名、愛知県岡崎市から2名、東京都から1名の計14名の従業員で稼働しています。ニットウエアの製造から出荷までのすべての工程を福島工場で行うために、数年後には35~40人ほどの従業員数を目指しています。しかし、現実は厳しいですね。東日本大震災前に葛尾村にいた方々が、避難したまま戻ってきておらず、地元採用の応募数がまだまだ少ない状況です。葛尾村に帰還した方々の働き口をつくりたい、という思いもあって設立した工場ですから、一人でも多くの方に戻ってきてほしいですね」。地元採用人数の増加を目指し、就職面接イベントへの参加やWEB上での求人に注力するなど、試行錯誤を繰り返している清野氏。そのかいあって、応募者が少しずつ増えてきているという。しかし、実際に入社するにあたり、葛尾村ならではの問題がネックとなることも多い。「電車やバスの本数が少ないので、入社後はどうしても車通勤になってしまうことがほとんどです。片道1時間以上かけて通う社員もいます。冬になれば雪が積もって道路が凍ってしまうので、運転の負荷を嫌って入社直前で尻込みしてしまう方が多いですね。この現状を打開するため、葛尾村は新たにアパートを建設し、工業団地としての充実を目指しています。近くに住む場所が増えれば、入社希望者も増えてくれるのではないか、と期待しています」(清野氏)。「私たちにできることを、積極的にやっていきたい」と話す清野氏が、特に力を入れているのが金泉ニットと葛尾村の周知活動だ。「葛尾村復興交流館『あぜりあ』での金泉ニットの商品の販売など、PRができそうな場や計画にはなるべく参加しています。新たな産業基盤を作ることを目指すプロジェクト『福島イノベーション・コースト構想』への参加も、PRのためです。採用の人数を増やすために、まずは金泉ニットを知ってほしい。そして金泉ニットを知ってもらう金泉ニットの採用活動は葛尾村のPR活動でもある葛尾村に帰還した方に働く場所を提供したい31252

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