岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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456「日本は災害が多い国。その前提に立ち、万が一の災害が起こったときにも、より多くの人や事業者の困難にすぐに対処できるような法整備が必要」と語る猪又氏のひと言は、極めて重い。何とか再開にこぎ着けたヨッシーランドだが、大きな課題となっているのは介護人材だ。長期・短期入所合わせて100床の定員だが、スタッフ不足のためにいまだ40床ほどしか受け入れられていない。池田氏によれば、「介護スタッフはあと30人程度、看護師も必要」だという。喉から手が出るほどほしい人材だが、理事長の中には一つのポリシーがあった。「われわれは、近隣の他の施設からスタッフを引き抜くことはしません。同業者とも話し、お互いにスタッフを大事にして地域の介護環境を安定化させることを第一に考えています」。たとえ以前ヨッシーランドに勤務していたスタッフでも、勧誘はしていないのだという。避難区域では、「復職したいが、避難先での学校や仕事の関係で簡単に戻れない」という被災者も多い。「採用寸前まで話が進んでいた方でも、『子どもの学校が一段落するまであと3年待ってくれ』と言われて採用ができないこともありました」(池田氏)。それぞれの複雑な人生を受け入れた上での人材確保が続く。一方、介護施設への就職を斡旋するためのバスツアーを開催するなど、県の社会福祉協議会を通じて、官民合同チームで人材確保に動いている。猪又氏は「新しい方に南相馬に興味を持っていただき、来て、住んで、働いてもらえるような場所にしなければ」と語り、より包括的な市の魅力発信が必要だと指摘する。ヨッシーランドは在宅復帰を目標とした「生活リハビリテーション」に力を入れている。南相馬地区では、疾病による病院施設のすみ分けが自ずとできてきているというが、老健施設においてもその流れは進みそうだ。「リハビリを中心にした老健施設の必要性を強く感じています。地域包括ケアが求められる中、住み慣れた地域で生き生きと暮らし続けることは、高齢者にとって大きな価値です。『帰りたくても帰れない』という元南相馬住民の方が多くいらっしゃいますが、ヨッシーランドが社会に復帰するためのステップとなり、南相馬を愛する方々の支えになれるのなら、それに勝る喜びはありません」(猪又氏)。オープンしたばかりの新しい施設・設備というだけでなく、老健施設にはまだ珍しい言語聴覚士を採用するなど、特色ある施設運営を模索するヨッシーランド。多くの困難を乗り越えた施設は、南相馬の未来を見据え力強く前に進み始めた。生活リハビリテーションを中心とした老健施設が必要地域の介護人材全体を考え他施設からは引き抜かない06介護老人保健施設 ヨッシーランド再生へのポイント元銀行スタッフを中心にした再建準備室の設置と運用1公的支援決定に向けてねばり強く交渉を継続2他施設から介護人材を引き抜かないポリシー3被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出49

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