岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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近隣のJAなどに出荷している。ベルグ福島の代表取締役社長、中越孝憲氏は、接ぎ木苗生産の難しさと福島県での事業について、次のように語る。「接ぎ木は、苗の品目に応じて切断面や角度が決まっており、ミリ単位の精度が要求される非常に繊細な作業です。施設を作り、機械を入れればそれで済むというものではなく、やはり人が大事なのです。その点、福島は農業県であり、地元の農業に愛着を持った優秀な人たちが、ベルグ福島に集まってくれています。真面目で辛抱強い人が多く、作業効率も高い。また、近くに立地していることで、生産者の方が見学に来てくださることもありますし、出荷した苗に対する評価を聞ける機会も多くあります。そうしたコミュニケーションを重ねていく中で、地元の足場が固まりつつあると感じています」。立ち上げ時にベルグアースから転籍し、一貫してベルグ福島の経営に関わってきた、取締役農場長の豆塚輝行氏は、今後の見通しについて次のように語る。「国内最大級の閉鎖型育苗施設と、約3,000㎡の育苗ハウスを持っているので、品質が均一な苗を同時期に大量出荷することが可能で、大口需要のお客さまからの注文を安定的に確保することができます。経営面から見ると、そこがベルグ福島の大きな強みになっています。設立時、10年後の目標として『出荷1,000万本、売り上げ10億円、地元雇用100人』を掲げました。実際の出荷が始まってまだ3年ですが、目標は達成できると思っています」。ベルグ福島には、現在、56人の常勤従業員がいるが、そのうち約7割が川俣町在住で、福島市など周辺市町村在住が約2割と、地元の雇用創出に大きく貢献している。しかし、県内の復興が進むにつれ、周辺の企業も求人を増やし、人材の確保が難しくなっているという。「時給単価が徐々に上がっていますが、当社も、さまざまな工夫をして生産性を上げ、それに見合うような賃金を出していこうと努力しているところです」(中越氏)。ベルグ福島には、雇用創出のほかに、もう一つ大きな志がある。それは、福島県の農業生産者が地元を離れることなく、農業を長く続けていけるように、福島の農家の底上げに貢献することだ。ベルグ福島で生産された接ぎ木苗は、収量の向上、収入の増加に貢献するだけでなく、人手不足に悩む農家の作業負担を減らすものでもある。その良質な苗の普及拡大は、必ずや、福島の農業の持続可能性を向上させるはずだ。農業がやりがいを持って長く続けられる仕事であるために、ベルグ福島は、「福島の地で、使命感を持って、ずっと事業を続けていく覚悟」(中越氏)でいる。使命感を持って、福島でずっと事業を続けていく05ベルグ福島株式会社代表取締役社長の中越氏(左)と取締役農場長の豆塚氏被災地進出の決め手閉鎖型苗生産システムに注目した町長(当時)の積極的な誘致1事業拡大のために、東日本に大規模な生産拠点を必要としていた2閉鎖型苗生産システムに注目した町長の誘致に社長の復興への思いが重なった3被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出45

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