岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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[SDGs]2030年に向けて初めに、ベルグ福島株式会社の親会社、ベルグアース株式会社について簡単に紹介しておきたい。ベルグアースは、接ぎ木苗の生産、販売で国内トップシェアを誇るアグリビジネス企業で、本社は愛媛県宇和島市。植物ワクチン苗や接ぎ木苗の量産など高い技術を持ち、閉鎖型苗生産システムをいち早く導入するなど、2001年の設立以来、新しい農業に挑戦し続けている企業だ。東日本大震災後、福島県の農業の復興や除染に携わる人たちが、このベルグアースに注目した。放射線による影響が心配される中、閉鎖型苗生産システムを福島県に導入することで、農作物の安全・安心をアピールできるのではないかと考えたのだ。中でも積極的に動いたのが、川俣町の町長(当時)、古川道郎氏だった。古川氏は、町として40年ぶりとなる企業誘致を成功させようと、ベルグアースの山口一彦代表取締役社長に熱心に誘致を働きかけた。その熱意に、今度は山口社長が応えた。山口社長も福島の状況を目の当たりにして、「被災地での持続可能な農業のために、何かできることはないか」と考えていたのだ。こうして、2014年3月、川俣町にベルグ福島が設立された。ベルグアースは福島県への進出を、復興支援という観点だけで決断したのではない。そこには、企業としての合理的な経営判断もあった。ベルグアースは、一次育苗と接ぎ木を主に愛媛県の本社農場で行い、その後の二次育苗を、岩手・茨城・長野・愛媛の4県にある直営農場と、北海道・青森・山形・福島・新潟・千葉・神奈川・愛知・広島・山口・愛媛などの1道10県にあるパートナー農場で行っていた。しかし、苗の需要は西日本に比べ東日本の方が多く、事業拡大のためにも、東日本に一次育苗と接ぎ木を行う拠点が必要だと、以前から考えていたのだ。また、苗は、農作物の実際の生産地の近くで生産した方が、それぞれの土地の環境に適合した、より品質の良いものになる。特に福島県はトマトやキュウリの一大生産地であり、販売市場としての大きな魅力もある。そうした点からも、福島県への進出は、ベルグアースにとって大きな意味があった。ベルグ福島の設立に当たり、山口社長は、販売先の開拓や系統組織との連携などを念頭にJAを巻き込むことが重要だと考え、協力を依頼した。その結果、JA全農が10%、農林水産業協同組合ファンド(JA・6次化ファンド)が50%震災後、川俣町の町長が熱心に誘致を働きかけた接ぎ木苗の生産拠点を東日本に設けたかった日本最大級の閉鎖型育苗施設や育苗ハウスを建設05ベルグ福島株式会社2030年復興への歩み[売上高(万円)]●5月 古川町長(当時)が ベルグアースを訪問2012年●4月 川俣町から誘致の働きかけ2013年●3月 ベルグ福島設立●5月 川俣町とベルグアースが 「立地協定」を締結●10月 工場建設開始2014年●12月 生産開始●新規地元雇用者 6名2015年20,367●3月 出荷開始●新規地元雇用者 24名2016年32,991●新規地元雇用者 15名2017年43,138●新規地元雇用者 16名2018年30,00040,00050,000020,00010,000町が復興庁から「福島再生加速化交付金」を受け、用地取得と造成のための費用を支援良質な苗は農家の作業負荷を減らし、収益性の改善にも貢献する。農家の労働環境改善に寄与し、農業の持続可能性を高めるために、より良い苗を目指していく。育てやすく、たくさん採れる苗で県内農業の持続可能性を高める被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出育苗ハウスは増設を予定しているという【目指していくゴール】※11月~翌年10月まで43

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