岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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もほとんど返済しています。ただし船や設備の寿命を考えると、将来同時期に修繕しなければならないので、そのことを念頭に置いて事業を進めていかなければなりません」。2018年6月から伊藤前組合長よりリーダーを引き継いだ山崎氏。その際には「復興はもうほとんどできた」と伝えられたという。ただし、重茂の漁業を未来につなぐためには、次なる地域課題があると山崎氏は語る。一つ目は交通インフラの整備である。へき地である重茂半島と内陸部を短時間で結ぶ道路の重要性が、東日本大震災であらわになった。岩手県内の要所では三陸沿岸道路などの復興道路の開通が進んでいるものの、重茂半島の道路は建設中だ。「道路が完成すれば、海産物と資材のスピーディーな運送や、災害時の安全性につながるでしょう。利便性が高まれば観光客も多く訪れるはずです」と山崎氏は期待する。二つ目は次世代への継承だ。「東日本大震災を乗り越えた若い漁師は精神力が強い」と山崎氏は語るが、都市への人口流出や独身男性の増加が進めば、次世代の漁師の数は減っていく。組合は、婚活イベントのような、市街地から人を呼び込むための方策も模索している。三つ目は持続可能な漁業への取り組みだ。近年は東日本大震災のころに比べ、環境面で漁業に不利になっているという。水温は2℃ほど上昇しており、コンブなどが生えないことで、それを餌にするアワビやウニも肥えない循環が生まれてしまう。「地球の動きは人間にはどうすることもできないが、漁獲量のバランスを保つなど、将来を見据えた漁業の形づくりが必要」と、山崎氏は考える。それでも山崎氏は前向きである。東日本大震災を乗り越えた重茂漁協組合員の団結力が、自信につながっているのだろう。「陸の孤島のような重茂の地形が、他地域には無い団結力を育んできたと考えています。そんなみんなを、先人たちから受け継いだ知恵とリーダーシップで、今後もけん引していきたいと思います」。次世代の漁師のために今後すべきこと01重茂漁業協同組合1復旧したワカメ・コンブ塩蔵加工処理施設 2復旧したアワビ種苗生産施設3新造船「第二与奈丸」の進水式4天然ワカメ漁。海中を覗きながらワカメを採取していく5天然ワカメ漁の仕分け作業 6津波による被害を受け、復旧した音部漁港7組合事務所前に建つ初代組合長、西館氏の像。「天恵戒驕」の字が刻まれている45再生へのポイント迅速な漁の再開を実現したリーダーの決断力1被害の大小による個人的な格差を解消した組合員の団結力2借入金、支援金を適宜使い分けた段階的な復興367被災地での再生・被災地への進出海外進出・観光誘致地域振興・スポーツ振興社員の働きがい新分野進出29

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