岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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共同利用でも漁師たちが時間帯をずらして乗船し、水揚げを出漁ごとの分配にするなど、徐々に元の形に戻していった。そして2013年には、船や多くの設備が東日本大震災前の80%ほどの水準にまで復旧した。財政面での早急な対応も必要であった。アワビ種苗センター、加工場、ふ化場など、主だった施設の被害額だけでも42億円に及ぶ。しかし漁協は「組合員には当面借金をさせず、必要な資金は漁協が借金をしてでも調達する」という方針を示し、創意工夫を続けることで財政面の課題解決を目指した。最優先すべき組合員の生活費には、漁船保険金、養殖施設共済金、漁獲共済金を充当。5月には国の第一次補正予算における補助金を船の調達費に割り当てられることになったが、これは漁船シェアリングなどの一連の対応が認められたためだと山崎氏は考える。「9億円ほどあった漁協の全財産をすぐさま売り払って目先の資金にしようせず、借入金や補助金によって段階的に復旧していったのが、良かったと思います。前組合長は『必要なことは借金しても早くやれ』というのが持論でしたから」。早期の再開は功を奏した。アワビなどは津波被害によって各地で不漁になっていたことで価格が高騰し、大きな売り上げを獲得した。前向きな姿勢は、企業や個人の見舞金、義援金にもつながり、全国の消費者の復興支援の機運により出荷額も高まった。中でも古くから関係が深かった生活クラブ生協からは数々の物資と5,000万円以上もの義援金を受けたという。補充した資金とネットワークを活用し、海産物のブランド強化にも力を入れた。生活クラブ連合会の会員約35万人と、重茂漁協と接点のある一般消費者約7万人に向けてカタログを配布し、ホームページもリニューアル。そこで「重茂わかめ」をはじめとする地元海産物の情報を発信し、風評被害の払拭や重茂ブランドの確立に取り組んできた。近年は「復興企画商品」として、アワビが丸ごと入ったカレーの缶詰やウニがのったアイスクリームなど、ユニークなオリジナル商品を毎年一つずつ開発、販売している。一連の努力の結果、2017年度の事業総収益は43億円を上回り、ほぼ東日本大震災前の数値まで回復した。「全国の皆さんのおかげで、スピーディーな復興ができました。借金組合員の生活を第一にした財政面での工夫123漁協組合事務所内に飾られる取引先や子どもたちからの寄せ書き28

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