岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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「被災地の企業だからこそ、SDGsを意識した成長が可能なのです」調査DATASDGsの取り組みは震災復興に大きく寄与していると考えています。東日本大震災時のデータはないのですが、2016年の熊本地震では、女性の活躍や環境配慮などSDGsに関連する取り組みを強化したかどうかで売上回復に大きな差があったのに対し、ICTの活用や異業種連携といった項目では有意な差がありませんでした。震災を経て『今やるべきこと』をフラットに考えるようになり、新たなリソースを経営に取り込んだことが、早期の売上回復につながったと捉えています。この事例が物語るように、企業にとってのSDGsとは、成長のためのビジネスチャンスを教えてくれるものだと考えます。SDGsは国連に加盟するすべての国が同意して策定されました。つまり、全世界が、『2030年の理想的な姿はこれだ』と、考えているということです。その理想とする社会と現実の社会の間のギャップを埋めることができれば、大きなビジネスになるはずです。不幸なことですが、被災によってそれまで積み上げてきたものが崩れてしまったことは、それだけ新しいことを始めるチャンスが広がった、方向転換しやすくなったと、捉えることもできます。被災地の企業だからこそ、SDGsを起点にした新しいビジネスに挑戦しやすいといえるかもしれません。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、同大学院政策・メディア研究科に進み博士学位(政策・メディア)取得。東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授を経て2015年より現職。専門は国際関係論、環境政策学。SDGsの研究でも知られ、著書も多数。蟹江 憲史氏(かにえ・のりちか)SDGsと業績回復の関係性「熊本地震に関する熊本県内事業主アンケート」(2018年 公益財団法人 地方経済総合研究所)によると、持続可能性への取り組みは企業の業績へ寄与しているとの結果が明らかになった。マーケティング、イノベーション、社会とのつながり、環境に対する横断的な働きかけの持続可能性を総合的に点数化し、関連度が50%を超える企業の割合を売上回復企業と未回復企業で比較した。その結果、回復企業はその割合が7.6ポイント上回っていることが分かった。020406080100(%)50%超の企業50%以下の企業事業の持続可能性関連度持続可能性と業績回復の関係回復企業未回復企業42.5%57.5%34.9%65.1%風評被害を乗り越え、食の安全を確保しながら伝統的な食文化の維持、発展を目標に掲げる企業は多い。福島県の大七酒造株式会社はその代表例(64ページ参照)東北3県でも高齢化は避けられない問題であり、健康と福祉のニーズは高い。ロッツ株式会社はここにビジネスの糸口を見いだし事業を拡大(34ページ参照)地元から離れる人材をいかに引き留めるか。合同会社ねっかは農家が立ち上げた米焼酎の蒸留所。農閑期の「働きがいのある職場」をつくり出している(114ページ参照)23

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