岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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Discussionこの企業に注目!ワイン事業は市場拡大が続く分野です。活発に試飲会を開くなど話題づくりにも積極的で地元復興のシンボリックな存在。津波によって石灰質が多めな土壌が中和されたことが逆に幸いしましたが、今後も「継続的」に品質安定と改良を続けてほしいですね。(柳井氏)有限会社神田葡萄園 (岩手県陸前高田市)➡102ページ話がつながらず、コミュニケーションをツイッターやフェイスブック、LINEに頼らざるを得なかったわけです。当然のことながら、SNSでの発信は若い世代に多く、SNSの活用に積極的かどうかで差が付きます。また、クラウドファンディングのように、新しい資金調達の方法も開発されました。柳井 成功している企業に共通しているのは、売り上げなどはさほどではないが、SNSやインターネットを活用していることです。SNSやインターネットを通じてネットワークや仲間をつくり、そこから仕入れた情報を本業に生かすといったことをうまくやっています。金銭ではない資産を蓄えているわけです。しかしながら、SNSもインターネットもツールにすぎません。ホームページを開設したからといって、それだけでもうかるものではなく、あくまで使い方が重要です。最近ではSNSやインターネット、口コミなど、いろいろなツールを使うマーケティング戦略が盛んになってきているので、被災地の企業や業界団体では、活用に当たっての指針やルールなどを決めておく必要があると思います。弓削 会社に求められるのは、提供できる価値、商品が選ばれる理由を明確に自覚し、それをメッセージにして、正確に消費者に伝えることです。しかし残念ながら、実際にはできていない会社が少なくないですね。福嶋 ビジネスの基本だと思いますが、企業は地域や消費者から求められる存在になること、あるいはどういう存在になりたいかをはっきりさせることが必要で、なおかつ、それを理解してもらわなければなりません。企業は営利を求めるだけでなく、地域の中でどうなりたいか、従業員はどうあるべきか、人をどう育てるかといったことが問われています。福嶋 全国的に現在の30代には、自分の人生を考えたい、足元を見つめ直したいという人が多く、転職も少なくありません。東北が、そういう人たちの選択肢の一つになっているようなところもあり、企業や地域社会がどのように受け新しい社会の在り方を被災地から考えたい東北大学経済学部経営学科卒、一橋大学大学院商学研究科会計学および経営学専攻博士課程修了後退学。経営学博士。イノベーション、大学からの技術移転、クラスター戦略、地域企業の戦略、社会起業家、地域文化創造と企業家活動等経営学を研究。宮城県庁参与 (2004~2006年)などを歴任。東北大学大学院 経済学研究科教授福嶋 路氏 (ふくしま・みち)日本大震災から8年がたちました。その間に日本人および社会の意識は大きく変わったと思います。特に被災経験をお持ちの皆さまは、多かれ少なかれ自分の生き方を問い直すことになったと思います。なぜ生きているのか、生き残った自分には何ができるのか、社会や未来に何が残せるのかを、問い続けながら日々を過ごしてきたことと思います。本誌で取り上げられた皆さまも同じような思いだったと思います。そのような方々の復興のために尽くされてきた努力には頭が下がる思いがいたします。東日本大震災後の社会の動きに特に敏感に反応したのが女性や若者で、既存の価値観や偏見を乗り越え、新たな価値観でもって活動をする人が増えております。このような動きを一過性のものとして看過されたり、押しつぶしたりされるのではなく、社会全体が彼らの試みに目を向け、耳を傾け、サポートするような風潮ができてくれば日本は変わってくると思います。東19

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