岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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Discussionうか、現状のままでいいと、変化を受け入れない町や地域もありますね。変化を受け入れ、チャレンジしている所との差異が目立ち、復興はまだら模様といえそうです。弓削 元気な会社、悪くいうとしぶとい会社が多いという印象があります。例えば、ある水産加工会社は、被災直後に活用できる助成金を探したのですが、受給するまでのスピードの点で合うものが見つからず、結局、リーマンショックの際に設けられた助成金を雇用安定の目的で使ったそうです。その結果、会社に残ることができた社員が新商品を開発するという、良いサイクルに入っています。藤野 東日本大震災をきっかけに、酒やしょうゆ造りなどの伝統産業では、2代目や3代目の若い世代に事業を承継した企業が少なくありません。その中には、インターネットの活用を進めたり、東京に進出するなど販路を広げたり、パッケージのデザインを変えたりと、特徴のある取り組みで伸びてきた会社も見受けられます。弓削 個性のある会社もしぶといですね。福島県にある電子部品メーカーは、太陽光発電の通電のモニタリングとか、トラクターの転倒の通報システムとか、ニッチなところを開発して伸びています。目の付けどころがいいわけですが、それを実現できる技術力が素晴らしいですね。こういう会社には、こちらが元気をもらえます。柳井 経営者の中には、一般的な経済統計の数字しか認めない人がいます。ここで話題に上ったさまざまな企業の取り組みやコミュニティービジネスは、そうした経済統計には、なかなか表れません。そうなると、復興に向けた被災地の動きが実感できないので、復興のためにはやはり大企業に来てもらいたいというような話になりがちです。しかし、復興に必要なのは大企業の力だけではありません。藤野 SNSは東日本大震災のタイミングで普及が加速しました。被災地に限らず東京などでも携帯電特徴のある企業が支える東日本大震災からの復興消費者や社会が求める企業になるためには法政大学大学院人文科学研究科地理学専攻修士課程修了。岡山大学助教授、富山大学経済学部教授を経て現職。東日本大震災後の復興政策について論文発表。富県みやぎ推進会議幹事(宮城県)、多賀城市復興構想会議会長、石巻市・山元町有識者会議委員、仙台市復興推進協議会長等を歴任。東北学院大学 教養学部 地域構想学科教授柳井 雅也氏 (やない・まさや)日本大震災は地域経済を引き裂き破壊した。経済基盤が弱体化することで、人口流出が起きている。これを元に戻そうと思っても、被災地の多くは市場から遠隔地にあり、新規の企業誘致が困難である。それに被災企業を元に戻しても、既に失われた販売先、原材料の調達先、去ってしまった従業員の多くは戻ってこない。被災地には、規模は小さくても活気が維持できる「身の丈」にあった地域経済の再構築が求められている。そのためには経営刷新に成功した地場企業や農林水産業関連の先端企業、さらにはコミュニティービジネスを行うNPO等、新しいプレイヤーが求められる。そして、SNSを駆使して国内外のネットワークづくりを行い、「人、モノ、カネ、情報」の新たな関係を紡いでいく。若者の活躍も大事である。欧州には人口は少なくてもそれなりに活気を維持している町や村はいくつも存在している。きっと被災地においてもそれは実現可能だと考える。この企業に注目!医療分野への進出は多くの製造業の希望ですが、技術力が伴わなければ一朝一夕に実現することはできません。困難な状況においてそれを成し得たのは、平時から難度の高い加工に取り組んできた技術の蓄積があってこそですね。(弓削氏)株式会社ササキプラスチック (岩手県大槌町)➡74ページ座長東18

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