岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~
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「アドバイザー」チェックリストるのです」。金融機関との関係強化がもたらすメリットを、坂下氏はこのように説明している。坂下氏はまた、被災3県は元々業界や地域の連携において、他の地方に比べて消極的で、その強化にも取り組むべきと提言する。「例えば、人手不足の問題は業界共通のものですから、まとまって対応する方が、個々の企業で行うより効果的でしょう。現に北陸地方の繊維業界の中には、まとまって外国人研修生の受け入れに当たっているところがあります」。業界のまとまりがないのは、リーダーシップを取る企業が少ないからではないかと坂下氏は指摘する。「よく知られているように、石川県の和倉温泉には、加賀屋という非常に強い影響力を持った旅館があります。しかし、和倉温泉は加賀屋だけが繁盛しているわけではなく、加賀屋があるおかげで和倉温泉全体が競争力を持ち、にぎわいがもたらされています。一方、奈良県には同じような経営規模の柿の葉ずしのメーカーが4社あり、それぞれがライバルとして切磋琢磨することで、やはり業界全体の活気が生まれています」。業界や地域全体で競争力を養うことによって、東日本大震災で被災した企業の事業再開を円滑に進める。そんな発想があってもいいと坂下氏は話している。事業承継の問題についても、坂下氏は「後継者を企業の関係者の中だけで探すのではなく、地域や業界全体の中から見つけるという考えがあってもいいと思います。事業継承の可能性が広がるとともに、事業が承継されることによって雇用が確保され、地域や業界全体に利益をもたらします」と、まとまっての取り組みを勧めている。被災3県の企業は今後、地元から原材料を調達し、人材を採用するといったコネクターやハブとしての役割を果たす一方、地域を越えた企業間連携も図っていくことが必要と、坂下氏は指摘する。それによって、東日本大震災による休業を乗り越え、再開した事業と地域の足取りはより確かなものになると、坂下氏も紺野氏も期待を寄せている。業界・地域で競争力を養い事業再開の円滑な進展を事業承継の課題解決も地域・業界全体で取り組む後継者擁立できず破産手続きへ株式会社田村鉄工 福島県郡山市Case.61948年創業の鉄骨工事事業者。商業店舗や賃貸アパート、工場の鉄骨工事などを手掛け、ピーク時となる1990年には約6億3,000万円の年売上高を計上していた。その後、代表交代や景況悪化により2011年の年売上高は約3,800万円に落ち込んでいたが、東日本大震災の復興需要もあり、2013年には約2億円の年売上高を計上するなど、業容回復が図れていた。しかし2014年に代表が死去し、後継者がいなかったため、弁護士を仮代表として事業継続に向けた方策を講じたが、後継者の擁立ができず、継続を断念。受注残を解消した時点で破産手続きを開始した。社内外にアドバイザーと呼べる人材・組織はあるか?1金融機関とは何でも相談できる関係にあるか?2事業性評価に向けた資料を用意しているか?3業界団体に所属しているか?4地域での活動に参加したことがあるか?5失敗事例に学ぶ※帝国データバンク 倒産・動向記事より抜粋151

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